落語の高座で欠かせない扇子と手ぬぐい。落語をご存知の方には基本中の基本だが、その使い方の例を三遊亭全楽師匠に伝授していただいた。落語に興味のある方、落語会や寄席の初心者は必見。かくし芸に利用したい(?)という方もぜひのぞいていただきたい。

談志門下から圓楽門下へ

全楽師匠は独演会の直前にも関わらず、熱心に説明してくれた

では、さっそく扇子の使い方……、とその前にまずは全楽師匠のご紹介を。

東京都大田区出身、1967年生まれの全楽師匠は、1991年、立川談志に入門。国士舘大学出身のため、立川國志舘に。2000年に三遊亭圓楽に入門し二つ目昇進、三遊亭安楽となる。そして2002年に真打に昇進し、三遊亭全楽となった。

「子どもの頃から林家三平なんかが好きで、寄席に連れて行ってもらいました。学生時代に落語研究会などに入っていたわけではありませんが、とにかく落語が好きだったので談志の門をたたきました」

前座10年、いろいろと悩んでいるところに、つきあいのあった三遊亭楽太郎の尽力で圓楽門下となった。立川志の輔らとも交流が深く、さまざまな影響を受けたという。人情噺もさることながら、滑稽噺が好きだと語る全楽師匠。今後のスケジュールは後述してあるので、ご覧いただきたい。

筆に箸に盃に 変幻自在の扇子

さて扇子の使い方だが、実に多彩。落語に詳しくなくても、箸に見立ててそばをすするというシーンは見たことがあるのではないだろうか。

「このとき、ただ扇子を上下させるのではなく、扇子を口元に持っていきながら丼を持つ左手を下げると、そばの長さが表現できます」

筆に見立てた場合

箸として、ものを食べる仕草

ほんのちょっとした動きで、なるほど見え方が違ってくる。当たり前ではあるが、さすがに奥が深い。このほか、定番といえるのは、天秤棒を担ぐ仕草やキセル、筆に盃や刀など。

キセルは葉を詰め、吸うが2、3服で葉を詰めなおす

刀を抜いて、構えたところ

左手を差し出し、槍の長さとともに力強さも表現

腰元で前後に動かし、櫓(ろ)を表す

「そろばんというのもありますね。扇子をちょっと開いて、左手に持ち、右手で玉をはじきます。刀のほかに槍(やり)にも見立てますが、右手で持ち左手をぐっと突き出すと迫力が出ます。あとは幇間(ほうかん)、いわゆる太鼓持ち。お調子者の感じを出すために、ぽんぽんっと扇子を使います」

そろばんとしての使い方もある

ただし、扇子はあくまでも小道具。あまり頼り過ぎないようにするという。あくまでも表現を豊かにするためのひとつの手段に過ぎないのだ。

盃を持ち、ぐいっと飲み干す

ちょっと開いて銚子として使うことも

左手をたたきながら、調子のいいことを言う幇間

手ぬぐいは……、実用向け?

続いて、手ぬぐい。だが、全楽師匠も頭をひねった。財布を表現するために使うが、そのほかの使い方は扇子ほど出てこない。

「握って持ち、さつまいもに見立てて皮をむくとか、ぽんと前に置いて財布やお金、証文なんかにも……」

だが、財布といっても懐から札入れを取り出せば裕福な身分だったり、首からぶら下げているような仕草だと庶民であったりなどと、扱い方ひとつで人物像が鮮やかに浮かび上がってくる。高座を楽しむときは、そんな細かなところにも注目したいもの。

「何よりも私の場合は、よく汗をかくので汗拭きとして使うことが多いですね」

そう言って師匠は笑った。なるほど、手ぬぐいは実用的な面が大きいのかもしれない。

財布の中から紙幣を取り出す仕草

一番の利用方法に挙げられたのは、汗拭きだった

なお今回は「横浜にぎわい座」に全面的なご協力をいただいた。2002年にオープンした「横浜にぎわい座」は、芸能ホールや小ホール(のげシャーレ)を備えた大衆芸能の専門館。落語、漫才はもちろん、大道芸やプロレスなどの貸館興行もある。プログラムの多彩さで知られており、遠くから足を延ばすファンも少なくない。桜木町駅から徒歩3分という便利さなので、ぜひ訪ねてみては?

かつて芝居小屋が立ち並んだ場所に「横浜にぎわい座」はある

400席以上ある芸能ホール

(c)横浜にぎわい座

落語家などの色紙も展示されている。写真は立川談志のもの

ファンにはたまらない志ん生、金馬らの写真も

三遊亭全楽独演会「全楽GO! Vol.38」スケジュール

2008年11月29日(土)19時開演 千代田区立内幸町ホール
前売 2500円 当日2800円(全席自由席)
予約専用アドレス zenraku2002@yahoo.co.jp

「全楽GO!」2009年予定(会場はすべて内幸町ホール)

Vol.39 1月18日(日)14時開演
Vol.40 3月20日(金祝)19時開演
Vol.41 6月20日(土)19時開演