「無痛分娩だと愛情が湧かない」「離乳食は手作りがいちばん」――昔から育児当事者を苦しめてきた子育てにまつわる迷信や神話、さらにネット社会で広がる真偽不明の育児情報。

そんな育児の「これってほんと? 」について、ツイッターで人気の小児科医・ふらいと先生をはじめとする専門家たちが答える1冊が登場しました。この連載では、『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)より、一部抜粋してご紹介します。

無痛分娩だと赤ちゃんへの愛情が湧きにくい?

  • ※画像はイメージです。

A. いいえ。

出産時の痛みと子への愛情とは無関係です。無痛分娩はひとつの選択肢。お産に優劣はありません。

日本では、無痛分娩がお産全体のうち10%に届かない状態が長くつづいています(*)。「お腹を痛めて産んだ」という表現もあるとおり、陣痛に過剰に意味を見出す人がいまだ多いことも原因だと思われます。

無痛分娩は、ひとつの選択肢です。痛みを避けたいという、シンプルな動機で選んでいいのです。陣痛は母になるために乗り越えるべき試練ではありません。また、陣痛に耐えられるようもともと女性は痛みに強いのだという説もありますが、根拠がないものです。月経痛は陣痛の練習だといわれているようですが、これもエビデンスに基づいたものではありません。

無痛といっても痛みをゼロにするわけではなく、麻酔で和らげるといったほうが適切です。痛みを感じにくいため、いきむタイミングは助産師さんが指示してくれます。分娩第二期(子宮口全開大から胎児娩出まで)が長くなる傾向にあるといわれ、最終的に鉗子や吸引器を使って赤ちゃんが出てくるのをサポートすることもあります。

しかし無痛分娩とそれ以外の分娩とで、赤ちゃんに影響が出る確率には差がないとわかっています。また無痛分娩がその後の成長の過程に影響するかどうかについて、19歳までの学習障害の有無を指標として調べた研究がありますが、無痛分娩で生まれた子に学習障害が多くなることはありませんでした。

お産はすべて、子どもを無事に産むための行為。そこに優劣はなく、親の愛情もそれによって比較できるものではありません。

(*)厚生労働省 無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築について

答えた人:新生児科医/小児科医・今西洋介

新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト、一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師。作中の今橋先生のモデルでもある。NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会課題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。Twitter:@doctor_nw

『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』

(西東社刊/1,430円)
もう悩まない、ふりまわされない! Twitterで正確な医療知識を発信しつづける"ふらいと先生"待望の書。子育ての常識は日進月歩。昔は当たり前だったことが今はまったく違う、ということはたくさんあります。また、ネット社会になり育児不安をあおるようなうわさやうそかほんとかわからない情報がSNSなどをつうじて広く拡散されるようにもなりました。いっぽうで、お母さんだけに負担を押しつけるような育児の迷信・神話は変わらず存在し、いまだ「呪い」のように育児当事者を苦しめています。そのひとつひとつについて「これってほんと?」と問い直し、専門家が最新の知見に基づいて科学的に答えていく一冊です。
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