教育資金贈与の特例の概要がわかったところで、続いてそのメリットとデメリットをみていきましょう。

メリット

(1)贈与時に贈与税がかからない
(2)暦年課税と併用が可能
(3)相続前に一括贈与でき、子どもや孫の負担を軽減できる
(4)相続財産を減らすことができ、孫へショートカットできる

デメリット

(1)領収書の提出などの手続きが煩雑
(2)暦年贈与だけでも教育資金は十分なことが多い
(3)使い切れないと贈与税がかかる
(4)将来の相続も想定して贈与を行わないと不公平になる
(5)孫にとって支援がプラスに働くとは限らない

大学生の生活実態から見る問題点

日本学生支援機構の「平成28年度学生生活調査結果」によると、大学生の年間生活費は約200万円となっています。大卒の初任給よりもやや少ない金額ですが、所得税や社会保険料などが含まれていないので、さほど差がないかもしれません。生活費の内訳は家庭からの給付が約120万円、奨学金が約40万円、アルバイト収入が約35万円、その他が約5万円となっています。

社会人になって手に入れられる収入が学生時代とあまり差がないとすると、そこからの奨学金の返済がどれだけ大変かは、少し想像力を働かせれば一目瞭然です。奨学金の受給率は約50%にも達しています。昨今の返済困難が社会問題化したことを受けて、給付タイプの奨学金制度も整備されつつありますが、誰もが受給できるものではありません。

冒頭に述べたように、借り入れるときにわかっている返済ができなくなる問題が改善されない限り、祖父母からの贈与が身になるとも思えません。「安易に奨学金を借り入れていないか」「アルバイト収入を増やせないか」などを精査し、余力があれば返済資金として貯蓄するくらいの意識が必要です。

「蓄財できた」とされる祖父母の時代、学生は「風呂なしの共同トイレ」のアパートが普通でした。エアコンや電子レンジ、テレビもなかったでしょう。そのような学生時代を経て蓄えてきた資金を、何の考えなしに享受していいのでしょうか。どうか問題を先送りせず、生活を見直してみてください。

教育資金の贈与は、贈る側も受け取る側も、学生のしっかりとした生活設計を確認したうえでないと、余裕が出ただけ生活水準が上がるだけになりかねないでしょう。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。