「結婚できない」というと、いかにも「売れ残り」というイメージで見られます。かくいう私も、この連載で「結婚できない」という悩みをブチまけているせいで、そのような先入観で人から見られることも多いです。そういう先入観を持った人たちと実際に会うとどうなるかというと、こんなことを言われます。
「えー、なんで結婚できないの? すぐできそうじゃない!」
「言いよってくる男はいるんでしょう? 好みがうるさいだけじゃないの?」

……「ぜんぜん結婚できる能力あるじゃないの!」とホメられているのだということはわかります。好意、善意で言ってくれているのだとも(ありがとうございます)。でも、実際に結婚できそうな気配すら感じられない身にとって、そういう好意的なセリフに対し「そんなことないですよ~!」「ホントに全然、彼氏とかいなくて!」と惨め過ぎる現実を主張するのは、かなりこたえるものがあります。

結婚は就職と同じ?

こういったやりとりをしていて「あれ? これは何かに似てるな」と感じたことがあります。それは「就職活動」です。「就職が決まらない」「仕事が見つからない」と悩んでいる人に向かって投げかけられる言葉と、独身の人間に投げかけられる言葉は、とてもよく似ているのです。
「仕事なんて、あるところにはあるんだからえり好みしなければすぐ見つかるでしょ」
「あなただったら、どこでも働けるじゃない。健康だし常識あるし、一生懸命だし」

そして「そう言ってえり好みしてる間に、どんどんトシを食って、条件が不利になっていくんだから、とっととしちゃいなさい!」というところも、まったく同じです。

結婚と就職は「とりあえず一回どこかに就職しちゃえば、次に転職するときにも有利」という点もちょっと似ています。一度経験した人には「会社で働くということ」や「結婚生活というもの」がどういうものか、わかっています。一度離婚を経験した人が、前の結婚生活での反省点を活かし、とても幸せそうな結婚生活を送っている例も多く見かけます。

でも、就職も結婚も、人生の中で長い時間を過ごす場所を決める重要な選択です。最初から失敗すること、長続きしないことを考えて就職先や結婚相手を選ぶ人がいるでしょうか。いや、そう思って真面目に考えすぎるから決断できないというのもあるかもしれませんが……。

まだ一度も就職や結婚を経験していない人が「理想の職場」や「自分を高く評価してくれる職場」、「理想の結婚」や「欠点のない結婚相手」など、ありえないことを求めるのは確かにばからしいことだと思いますが、「なんでもいいからとにかく一回しとけ!」という、目をつぶってクジを引くような決断と、高い理想のあいだにどこかほど良い着地点があるのではないかと私は思うのです。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩