特急列車が走り、追い越しやすれ違いの多い路線のダイヤは楽しい。だけどしばらく幹線が続いたから、それとは逆の閑散路線を眺めてみよう。運行本数の少ない路線を眺めてみたら、なんとなく、その路線の周辺環境が透けて見えた。どの路線も廃止が噂されているから、早めに乗っておきたい。
今回はJR西日本の和田岬線・木次線、JR北海道の札沼線の3本立てだ。トップバッターは和田岬線。正式には山陽本線の支線だけど、路線の愛称として和田岬線が定着しているようだ。運行区間は山陽本線の兵庫駅から和田岬駅までの2.7km。途中の駅はない。
時刻表を見ると、「休日運休」「土曜・休日運休」「土曜運転」「土曜・休日運転」などの但し書きがびっしり並んでいる。乗りたい日にどの列車が走っているかわかりにくい。情報を整理して、平日、土曜、休日のダイヤを描いてみた。朝夕の通勤時間帯のみの運行で、工場地区へ向かう路線だとはっきりわかる。土曜日は平日より運行本数が減って、朝ラッシュと夕方ラッシュの終わりが早い。
休日は朝夕ともに1往復だけだ。休日出勤する人のためという設定だけど、この列車しか選択肢がないと思うか、運休せず走らせているところが凄いと思うか…。ちなみに、当連載第33回で紹介した鶴見線の大川支線も、休日は2往復のみの運転。鶴見線も工業地帯を行く路線である。
和田岬線は運行本数が少ないから、乗り遅れたら困る……と思うかもしれないけれど、JR和田岬駅にほぼ隣接するように神戸市営地下鉄海岸線の和田岬駅がある。それもあって、神戸市からは廃止が提案されている。和田岬線の鉄橋のせいで船が運河を通れないとか、踏切のせいで渋滞するとか。「市営地下鉄の利用者を増やしたい」が本音という噂もあるけど、本当ならひどい話だ。
続いて札沼線。札幌駅の隣、函館本線桑園駅から新十津川駅まで結ぶ路線だ。1972(昭和47)年まで、留萌本線石狩沼田駅が終点だった。路線名の札沼線は、もともと札幌と沼田を結ぶという意味だった。沿線に学校が多いため、学園都市線という愛称がある。札幌駅から北海道医療大学駅までの本数が多く、この区間は電化された。朝の上りは通勤・通学、下りも通学の需要があるのだろう。札幌都市圏の郊外行き路線といった様子だ。
札幌~北海道医療大学間は利用者も多く、複線化や立体交差化などの投資も行われている。複線区間は八軒~あいの里教育大間。札幌~桑園間は正式には函館本線だけど、札沼線も独自の単線を持ち、桑園駅にはすれ違い設備がある。電化区間のダイヤを見ると、桑園駅の交換設備を使い、単線区間の運行本数をさばいている様子がわかる。あいの里教育大~石狩当別間は単線だけど、全駅にすれ違い設備がある。これらの施設を活用して平行ダイヤを作っている。まるで札幌~北海道医療大学間が全区間複線のようだ。美しい。運行計画担当者はダイヤ作成に美学を持っている……かも!?
一方、北海道医療大学駅から新十津川駅までの区間は非電化で、列車本数の落差が激しい。運行系統も石狩当別駅で分断され、現在は全区間を直通する列車はない。まったく別の路線に見える。中でも閑散区間は浦臼~新十津川間で、1日3往復しかない。平日も休日も同じだ。北海道医療大学~新十津川間は、JR北海道で最も利用者が少ない区間と報じられていて、経営難のJR北海道は廃止を検討しているという。
最後はJR西日本に戻り、木次線を見てみよう。木次線は島根県の出雲市駅の近く、山陰本線宍道駅を起点とし、中国山地のほぼ中央にある備後落合駅を結ぶ。備後落合駅は広島県にあり、芸備線の駅でもある。かつて出雲市駅・松江駅から広島駅・福山駅を結ぶ「陰陽連絡線」の一部として、重要なルートだったという。当時は急行列車も走っていた。しかし、自動車の普及や道路の整備によって利用客は減り、閑散路線になってしまった。
全体的に運行本数が少ないから、時刻表を見るだけでダイヤを想像できてしまう。出雲横田駅までは通学などの需要があるようで、運行本数も地方ローカル線としては平均的。宍道~木次間の運行本数が若干多い。木次駅は雲南市の中心でもある。このあたりが松江都市圏といえそうだ。しかし朝ラッシュ時の本数は少なく、夕方の運行本数は多め。
朝の出雲横田駅からの始発列車は松江駅へ直通する。通勤・通学客もこの列車に集中するけれど、帰宅時は利用時間帯が分散しているのかな、と予想できる。部活に励む生徒もいれば、「帰宅部」の生徒もいるだろう。マイホーム主義のパパもいれば、残業するビジネスマンもいて……だけど、最終列車は21時台だから飲み会は早じまい。妄想がはかどるダイヤだ。
さて、閑散区間は出雲横田~備後落合間だ。沿線から山陽方面への需要は少ないらしい。4往復のうち1往復は観光トロッコ列車「奥出雲おろち号」だから、実質的には3往復である。途中の出雲坂根駅は3段スイッチバックの駅として、鉄道ファンに知られている。この駅で13時台に、上り「奥出雲おろち号」と下り普通列車がすれ違う。1日4往復の区間の貴重な場面だ。「奥出雲おろち号」に乗るなら上り列車が楽しいかもしれない。
木次線は国鉄時代、赤字路線としていったん廃止リストに入った。しかし、当時は道路が整備されておらず、代行バスを運行しにくいとして存続が決まった。だが現在も利用客は少ない。いつまでも走っていてほしいけれど、「奥出雲おろち号」やスイッチバックを見物したいなら、早めに行動したほうが良いかもしれない。