投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。近年、仮想通貨の高騰などもあって、短期間で億単位の資産形成に成功する、いわゆる「億り人」なるコトバも生まれました。その意味では、「よし俺も、私も」と意欲を燃やしている方が増えているかもしれません。果たして、無理なく1億円を作る方法はあるのでしょうか。
単刀直入に答えを言ってしまえば、そんな方法はありません。本シリーズの第2回「リスクとリターンの関係」でご説明したように、高いリターンを求めるにはそれだけ高いリスクを受け入れる必要があります。大きく儲かる可能性がある一方で、大きく損する可能性もある投資は、「無理なく」とはほど遠いでしょう。
敢えて付け加えるとすれば、「元手が6,000万円ぐらいあれば、なんとかなるかもしれませんね」くらいでしょうか。読者の方から「ふざけるな」と怒られそうですが、複利計算を用いて、1億円を作るのがいかに難しいかを説明しましょう。
10年後1億円になるには……?
下記の表は、リターン(投資収益)を同じ商品に再投資するとして(複利の考え方です)、それぞれの平均期待リターンに対して元手となる投資資金がいくらあれば10年後に1億円になるかを計算したものです。
10年間で平均して5%のリターンを確保するのも難しいと思いますが、それが可能としても6,000万円以上の投資資金が必要です。毎年10%のリターンを得るとしても4,000万円近い投資資金が必要です。50%や100%の期待リターンを持つ金融商品を探すのはまず無理でしょう。
外国債の注意点
さて、ブルームバーグが集計する先進25カ国のなかで、10年物国債の利回りが最も高いのはアイスランドの約4%、次いでイタリアの3%弱です。アイスランドはリーマンショックのころに金融危機に陥りました。イタリアはユーロ圏の主要国ながら、国債の格付けは「投機的(いわゆるジャンク)」の一歩手前です。外国債の場合は為替リスクも考慮する必要があります。
米国の10年物国債利回りはここのところ大幅に低下しており、現時点で2%ちょっとです。仮に、米ドルが対円で毎年8%上昇するのであれば、米国債の円建てでのリターンは年10%(=2%+8%)になるので、4,000万円を米国債に投資すれば、10年後に1億円を受け取る計算です。ただし、このケースでは、10年後には1米ドル=230円程度までドル高円安になります。円の購買力が大きく低下して、すなわちインフレになっている可能性が高いので、10年後に受け取る1億円は現在の1億円の価値はないでしょう。
株式投資はどうでしょうか。アップルの株価は過去10年間に11倍以上、アマゾンは同じく25倍以上になっています。米ドル円レートが不変だと仮定すれば、10年前にアップルに900万円弱、アマゾンに400万円弱を投資していれば、現時点で1億円になっていたはずです。なお、配当収入を考慮すればアップルへの投資額はもう少し少なくて済んだはずですが、一方でアマゾンは配当を出していません。
もっとも、大化けする株を早い段階で見つける能力があれば、証券アナリストやファンドマネージャーとして大成功して高額の報酬を得ることも可能でしょうから、資産運用は必要ないかもしれませんね。
世の中には投資で一攫千金を期待させる広告があふれていますが、宝くじや競馬のTVコマーシャルと同じように見ておくべきでしょう。