監視カメラや防犯グッズも身近になった現代ですが、物騒な事件が後を絶ちません。一人ひとりが防犯知識を身につけ、いざという時に役立てられるようにしなければなりません。有識者に最新の防犯事情を聞く連載スタートです。
防犯は地域ぐるみで取り組むことが重要
催涙スプレーがネット通販で買えるようになり、100円ショップにもさまざまな防災ブザーが登場するなど、防犯グッズは身近になりました。
しかしながら、防犯グッズを持っていても、いざという時、それを使って「適切に」自分の身を守れるの? と、不安や疑問もあります。
防犯のため、身に付けておくべき知識とは? ボディガードと探偵会社の無料紹介所「ボデタンナビ」代表を務め、防犯に役立つ情報をブログやTwitterで発信している加藤一統(かとう・たかのり)さんに聞きました。
――ボディガードや探偵の仕事をする中で、防犯について周知したいことはなんでしょう?
加藤さん: 自分一人でできることには限界があります。住んでいる地域や学校、職場など、周辺の人を巻き込んで、地域ぐるみで対策することが望ましいですね。
――今は核家族化していて、都会では近所付き合いも減っているので、なかなか難しそうです。
加藤さん: それでも、近所付き合いが密な下町は狙いにくい傾向はあると思います。よからぬことをたくらむ犯人が、成功率を重視するなら、近所との連携や人目がない地域を対象に選ぶと思います。
商店街などがあったら、お店の人が見守ってくれたり、近所の人と世間話をしたりといった交流があるものです。それが良い声掛けになり、地域の防犯性を高めます。現代の日本では、社会のあり方かが変わり、こうしたことができなくなっています。また、「守ってあげよう」という善意で声を掛けたくても、逆に不審者として通報されかねません。
それでも、近所の公園に行くなどのちょっとした用でも、人の目に付くルートを選ぶなど、日常的な対策はあります。
防犯面で理想の部屋やベランダ
雑誌などで「治安の良い街」特集がよく組まれていますが、実際はどうなのでしょうか。また、治安の良し悪しに関わらず、日常生活で気を付けるべき点が知りたいですね。
――いわゆる「治安のいい街」と言われているところは、犯罪が少なかったりするのでしょうか?
加藤さん: これは、一概には言えません。確かに、高収入の人が暮らす街は、家賃も高くなり、住居の防犯性能が上がるでしょう。ただし、全員が治安のいい高級住宅街住めるわけでもありません。基本的には、どんな街に住んでも、最低限の防犯は必要です。
比較論になりますが、庭がきれいに整っている家と、そうでない家があれば、後者の方が狙いやすいでしょう。有名な話として、「1枚の割れた窓ガラスをそのままにしていると、割られる窓ガラスが増え、建物、そして街全体が荒廃する」という割れ窓理論というものがあります。ちょっと嫌な言い方をすれば、「お隣よりも良くすれば」という考え方も成り立つかもしれません。
――「アパートやマンションなら2階以上を選ぼう」と言われますが、そのような実感はありますか?
加藤さん: 居住空間の整理整頓は大事ですが、足場が悪い方がベランダへの侵入が難しくなります。ただし、ごみ捨て場のようにものが散乱している状態は、美観だけでなく防犯の面も望ましくありません。
なので、鉢植えを並べて歩きにくくした上で、センサーライトを設置すると安心感が増します。さらに、防犯フィルムや窓用ブザーで侵入対策をアピールすれば、犯罪者が敬遠する可能性が高くなります。
防犯ブザーの「適切な」使い方
日々の暮らしの中で、防犯を意識するのは通勤・帰宅の時でしょう。何に気を付ければ良いのか、人相や挙動など怪しい人の見分け方が知りたいものです。
――この道25年の加藤さんレベルになれば、怪しい人は一発で分かりますか?
加藤さん: 見分けられる率は5割ぐらいでしょうか。大人ならまだしも、子どもならほぼ無理ですね。「普通そう」に見える人が想像を絶する悪人であることもあり、一般的な善悪判断が通用しない人だっています。ただ、そういう人が増えたかというと、それはよく分からない部分もあります。現代になって目立つようになったとは言えるかもしれません。
――どんな時も警戒を怠らないことが重要ですね。
加藤さん: 極論を言えば、注意が散漫な人は狙われやすいでしょう。歩きスマホ、イヤホンで音楽を聴きながら歩く人は隙を感じさせます。警戒している雰囲気を出し、早足で歩く人は狙いにくいと思います。それから、人目の少ない暗い道は選ばないように。
――それでも、危険そうな道を歩かなければならない時は、防犯ブザーの出番でしょうか?
加藤さん: 防犯ブザーを持っていても、危ない目に遭ってから取り出すのでは遅すぎます。防犯ブザーを持っていると、なんとなく強くなったような気がしますが、実戦を積んでないといざという時に固まってしまいます。車にエアバッグを設置したから事故を防げるわけではないのと同じです。
防犯ブザーは手に持って鳴らしたところで、相手を逆上するかもしれません。また、助けを求めたところですぐに人が来てくれるとも限りません。そこで、防犯ブザーを手榴弾のように相手の足元に投げつける方法をブログで紹介しています。これで完全ではないですが、助かる確率は上がると思います。
取材協力:加藤一統(かとう・たかのり)
暴犯被害相談センター理事
1995年より民間警備会社で身辺警備(ボディガード)に従事し業界歴25年。およそ900件の警護依頼を請け負う。