「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。
今回は、2025年に相続に関する書籍『相続家族会議のすすめ: 安心と信頼の遺産相続は「事前準備」が10割』(藤本律夫/LIFEGroup 編集、時事通信ブランドスタジオ)を出版した、ライフグループ代表の藤本律夫氏と、行政書士法人ライフ 代表社員の永戸康弘氏、税理士法人さくら税務代表の井上一生氏にお話を伺いました。
相続は“亡くなってから考えるもの”ではない
年間1,000件以上の相続相談の対応をしているというライフグループ。相続の現場を数多く見てきた藤本さんと永戸さんが口をそろえて語るのは、「もう少し早くからご相談をいただけていれば、選べた道はもっとありました」という言葉です。
相続は、人が亡くなった瞬間から自動的に始まります。しかし、その時点ではすでに選択肢が大きく限られているケースが少なくありません。永戸さんは、こう語ります。
「相続は事後対応になった瞬間に、難易度が一気に上がります。相続人同士の関係、不動産の扱い、手続きの順序。どれも“その前”に整えておくことで、驚くほどスムーズになります。だから私たちは、相続は“準備が10割”だと考えています」
この考え方を具体的な行動に落とし込んだものが、書籍の帯にも記載されている「相続前アクション十か条」です。
相続前アクション十か条
1「財産と負債を正確に把握する」
2「家族の価値観と将来像を共有する」
3「遺言書や家族信託などの制度を知る」
4「不動産の活用・整理方針を決める」
5「税金対策を早期に着手する」
6「資産承継の計画を立てる」
7「資産の管理方法を整える」
8「制度改正や市況変化の情報収集を怠らない」
9「第三者を交えた話し合いの場を持つ」
10「一度決めた計画も定期的に見直す」
まずは相続の“見える化”から始める
家族間で相続がこじれる最初の原因は、「どんな資産がどれだけあるのかもわからない」という状態にあります。藤本さんは、相続の現場でその現実を何度も見てきたといいます。
「不動産がいくつあるのか、誰が把握しているのか、誰が管理するのか。それが曖昧なまま相続が始まると、話し合いの前提がそろいません」
自宅以外の使っていない土地や建物が、相続の途中で初めて表に出てくることもあります。それだけで、家族の間に不信感が生まれてしまうこともあります。
永戸さんも、こう補足します。「相続人関係や家族構成も同じです。誰が相続人になるのか、誰が何を知っているのか。まずは全体像を共有することが、十か条の最初のステップです」。
不動産は“分け方”より“考え方”が重要
不動産は、相続財産の中でも特に“争族”の原因になりやすい資産です。
「とりあえず共有にしておこう、という判断が、後々大きな負担になるケースは少なくありません」と藤本さんは語ります。
誰が使うのか、誰が管理するのか、将来どうしたいのか。それを考えないまま相続を迎えると、判断を次の世代に先送りすることになります。
「今すぐ結論を出す必要はありません。ただ、複数の選択肢を“考えている”状態をつくることが大切です。それだけで、相続後の話し合いはまったく違ってきます」(藤本さん)
相続手続きは“順序でつまずく?
相続手続きについて、永戸さんは「書類の多さよりも、順序の理解が重要です」と指摘します。
「期限や手続きの流れを把握していないと、途中で止まってしまいます。準備ができている相続ほど、手続きはスムーズに進みます」
また、相続後についても「税務調査を受けないため」ではなく、「調査が入っても困らないための準備」が重要だといいます。「どのような考え方で申告に至ったのかを説明できる状態にしておくこと。それが最大の備えになります」(井上さん)
相続家族会議は“答えを出す場”ではない
相続は、財産や制度の問題であると同時に、感情の問題でもあります。
藤本さんは、不動産を巡る対立の背景には「感情の未整理」があると語ります。「介護や実家との関わり方など、家族それぞれに異なる立場があります。それを無視して数字だけで話を進めると、必ず歪みが生まれます」
永戸さんもこう続けます。「家族会議は、結論を出す場ではありません。考えや不安を共有する場として設計することが大切です」
専門家は“最後”ではなく“事前”や“途中”から
十か条の最後に置かれているのが、「専門家に相談する」ということです。
「相談が遅れることで、選べなくなる判断は確実にあります」と永戸さんは話します。藤本さんも、「不動産と手続きを別々に相談すると、全体がちぐはぐになりやすい」と指摘します。
親が元気なうちに専門家に相談することは、家族にとって負担ではなく、安心につながる行動なのです。
相続前アクション十か条は「完璧」を求めない
取材の最後に、十か条を前にした読者へのメッセージを伺いました。
「全部やろうとしなくていいのです」と永戸さんは語ります。「相続について一つでも考え始めれば、それは立派な準備です」
藤本さんも、こう締めくくります。「相続は、家族の関係を壊す出来事ではありません。準備をすれば、信頼を引き継ぐ承継になります」
相続前アクション十か条は、その最初の一歩を後押しするための道しるべです。

