「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。
先ごろ早稲田大学理工学術院で行われた講義「企業行動と経営」に、ビットバンク株式会社 代表取締役社長CEOの廣末紀之氏と、COOの野田直路氏が登壇しました。講義では、ブロックチェーン技術がもたらす社会変革、AI時代における経営戦略、そして高度化するサイバー攻撃に対抗するための業界防衛モデルについて、実務家の視点から解説が行われました。今回は、その講義レポートをお伝えします。
ビットコインが証明した「分散型・非中央集権型」の可能性
講義の前半、早稲田大学理工学部出身の廣末氏はビットコインの革新性について解説しました。多くの人が抱く投機的なイメージとは裏腹に、その本質は「分散型・非中央集権型」や「インターネット上で可能な価値交換」にあります。
従来、インターネット上のデータはコピーが容易であるため、通貨のような価値を扱うには銀行のような中央管理者が管理する必要がありました。しかし、ビットコインはブロックチェーン技術を用いることで、管理者がいないP2P(ピア・ツー・ピア)ネットワーク上で、二重支払いを防ぎながら価値を移転することを可能にしました。廣末氏が特に強調したのは、このネットワークが「2009年の稼働開始以来、一度もシステムダウンすることなく、正確に稼働し続けている」という事実です。金融機関のシステムですらメンテナンスで停止することがある中、管理者のいないソフトウェアが自律的に動き続けていることは、ITの歴史における偶然ではない奇跡と言えます。
また講義では、Web1.0からweb3への変遷が対比的に示されました。情報を「読む」だけのWeb1.0、「読み書き」ができるがプラットフォーマーにデータが集中したWeb2.0を経て、web3では「データの所有権がユーザーに戻る」というパラダイムシフトが起きています。廣末氏は、この分散型の経済圏において、暗号資産が法定通貨に代わる、あるいは並立する「価値の保存・交換手段」としての役割を果たしていくとの展望を語りました。
第四次産業革命の核心「AI経済圏におけるお金の正体」
講義の中で、廣末氏は視点をさらに未来へと広げ、AIとブロックチェーンの融合について論じました。現在は「第四次産業革命」の入り口にあり、ホモ・サピエンス(人類)が30万年ぶりに「自分たちよりも賢い存在」と共存する局面にあります。
講義の中で学生の関心を集めたのは、「AI主体の経済活動」という概念でしょう。現在は人間がAIを利用していますが、将来的には自律したAIエージェント同士が交渉し、取引を行う時代が到来すると予測されます。その際、銀行口座を持てないソフトウェアであるAIにとって、プログラム可能で国境のない暗号資産が、最適な決済手段になると考えられます。AI経済圏において、ブロックチェーンは単なる記録媒体ではなく、経済システムを回すための不可欠なインフラとなるのです。
VUCAの時代を生きる学生に対し、廣末氏は自身のキャリアを振り返り、「点と線」の話を贈りました。かつて電気自動車関連の事業でリーマンショックの煽りを受け事業の売却を余儀なくされた経験が、結果としてビットコインという新しい技術との出会いに繋がったといいます。人生における一見無関係な「点(出来事)」や失敗も、後になって振り返れば一本の「線」として現在の成功に繋がっている。「悪い出来事も、長い目で見れば良いことのきっかけになる」という言葉は、不確実な未来を前にした学生たちの背中を強く押したのではないでしょうか。
高度化するサイバー攻撃とセキュリティの最前線
講義後半に登壇したのは、同社COOの野田氏です。同大学の法学部出身でありながらエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、ビットバンクのCTOを経て現在はCOOを務める野田氏は、「暗号資産は流出の可能性を念頭に置くべきものである」という前提から講義を始めました。
野田氏は、過去の暗号資産の流出事故の年表を示しながら、サイバー攻撃の歴史と変遷を解説しました。かつては個人ハッカーによるホットウォレット(オンライン接続された保管場所)への攻撃が主でしたが、現在は国家主導のハッカー集団が関与し、その手法は極めて高度化しているといいます。攻撃対象もシステムそのものだけでなく、エンジニアのSNSを通じた標的型攻撃や、サプライチェーン全体へと拡大しています。
このような国家レベルの脅威に対し、一企業が単独で守りを固める「自助」には限界があります。そこで実現させたのが、業界横断型の組織・一般社団法人JPCrypto-ISAC(ジェイピークリプトアイザック)による「共助」のモデルです。これは、競合関係にある企業同士が手を組み、攻撃手法や脆弱性情報をリアルタイムで共有する仕組みです。野田氏は「セキュリティ情報は秘匿すべきだが、共有しなければ業界全体が守れない」というジレンマを乗り越え、信頼関係に基づいた防衛網を構築することの重要性を説きました。
文系・理系の枠を超えた「越境人材」キャリア論
野田氏のキャリアパスそのものも、本講義の重要なテーマの一つでした。法学部で法律を学びながら、音楽への興味からプログラミングを独学で習得し、ITエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。その後、広告代理店での大規模データ処理システムの開発を経て、ビットコインの革新性に触れ、創業間もないビットバンクに参画しています。
「法学」「プログラミング」「金融」…一見バラバラに見えるこれらのスキルセットですが、野田氏はこれらが現在の経営において全て繋がっていると語ります。暗号資産交換業は、厳格な金融規制と高度なテクノロジーの両輪で成り立っています。法的な思考力と、エンジニアとしての現場理解の両方を兼ね備えていたからこそ、技術と規制の狭間で最適な経営判断を下し、業界全体のセキュリティ基準策定をリードすることができたのです。
講義の終盤、学生に向けた課題として、衝撃的なデータを提示しました。「生成AIの進化により、ビッグテック企業の新卒採用が激減している」というレポートです。AIがエントリーレベルの業務を代替する中で、「良い大学に入って良い会社に入れば安泰」と考える学生の方がもはや少数でしょう。野田氏は、自身のキャリアを通じて示した「専門性を持ちつつも視野を広げ、領域を越境していく姿勢」が、これからの時代では重要であると学生に伝えました。
下記は、実際に講義の中で学生に出された課題内容です。
生成AIの脅威的な進化によって、人間の仕事のあり方が問われ始めています。特に影響を受けると思われるのが新卒者で、2025年5月 米VCであるSignalFire社によると、ビッグテック15社の新卒採用比率はわずか7%に低下し、採用人数は前年比で25%減、2019年比で50%も減少しているとレポートしています。
出典:The SignalFire State of Tech Talent Report - 2025(May 20, 2025)
このような現象は、早晩日本にも訪れると考えられますが、良い大学を出て、良い会社に就職し、安泰な社会生活を送る、という従来のスタンダードは崩壊する可能性が高いと考えられます。このような環境下、これから社会人になろうとしている皆さんは、どのような考え方で、これから社会でサバイブしていこうと考えているのか、現時点での考えを述べてください。
【学生の声】AI時代をサバイブするための「個」の戦略
廣末氏と野田氏からの問いかけに対し、受講した学生たちからは、危機感と希望が入り混じったリアルな「サバイバル戦略」が寄せられました。多くの学生が共通して挙げたのは、「AIと敵対するのではなく、使いこなす側になる」という視点です。
下記は、実際に学生から提出された課題の一部です。
「AIは手段を高速化するが、目的を定義するのは人間でしかない。だからこそ、情報を鵜呑みにせず、自分で考え、問いを立て、議論できる力を今のうちから鍛える必要があると考えている」 「AIの能力を最大限引き出す指揮者のような存在を目指したいと考えています。そのために、データを読み解く力や課題設定力といった、人間にしかできない部分を磨き、AIを使いこなす側の人間として社会でサバイブしていきたい」
また、AIが代替できない「人間ならではの能力」に価値を見出す声も多数ありました。
「AIが代替することができない能力は、コミュケーション力、チームでの協働力といった非認知能力であり、その力を磨いていきたい」 「倫理的な判断を下したりすることは、今のAIには難しい。デジタル化が進めば進むほど、逆にこうしたアナログなコミュニケーション能力や、チームをまとめるリーダーシップの価値は高まっていくはず」
さらに、会社に依存しない生き方や、金融リテラシーへの関心も高まっています。
「従来の『良い会社』と『安泰な社会生活』という別個の概念は、AI時代の到来と価値観の多様化により、ワークライフバランスなどの『自己実現を軸とした生き方』へと融合していくと考える」 「単に銀行にお金を預けているだけでつく金利は非常に小さい現状があります。(中略)ビットコインの話をしていただいたので、暗号資産についても自分が『これは伸びるはず』と思えるものへの投資は検討したいです」
廣末氏が語った「未来を見据える視点」と、野田氏が体現する「経験やスキルの掛け合わせ」。二人の言葉は、AIの出現に直面する学生たちに対し、既存のレールに縛られず、自らの手でキャリアを実装していく勇気を与えたようです。
筆者は講義を聞きながら、早稲田大学の前身・東京専門学校の得業式で大隈重信が演説したという言葉を想起しました。限りなく広がる可能性を、先入観で自ら失わないようにしてほしいですね。
「諸君は法律を学んだから法律家になるとか、政治を学んだから官僚になるとか、そんなケチなことは望んでいない。天下国家に有為の人材となり、自由に羽ばたいてほしいのである」


