「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。

今回は、スマートアイデア株式会社・マーケティングマネージャー/スマートアシスタンツマネージャーの野口香織氏に、家計の見える化と節約、資産運用、ライフプランニングについてお話を伺いました。

  • シリーズ累計500万ダウンロードの家計簿アプリ「2秒家計簿 おカネレコ」

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家計の見える化で「節約→資産運用」という王道を歩く

――お恥ずかしい話、私は家計簿ってまったくつけられないのですが、やはりつけた方が良いのでしょうか?

野口氏:もちろん必須ではないのですが、家計簿アプリの価値は、つきつめれば“見える化”に尽きます。なににいくら使っているかが見えれば、ムダは必ず見つかり、削減・節約した分が“余力”になります。その余力をNISAやiDeCoなどの積立投資に回す、という流れはシンプルで再現性が高いのではないでしょうか。

とはいえ最大の壁は家計簿をつけることが「続かない」という点です。弊社は創業時から“続けられる設計”に徹底してこだわってきました。電卓感覚でアプリを開けば即入力、移動中に片手で数秒で家計簿をつけることができます。創業者の江尻は5人兄弟の長男として育ち、お金に苦しんだり、お金が理由で人生の選択肢が狭まるという経験から、お金の大切さを痛感したそうです。そんな原体験もあって、“だれでも使える・続けられること”を第一に据えています。

家計簿は節約のためだけのツールではありません。家計が見えること自体が、人生における意思決定の質を引き上げ、家計簿の先にある行動、たとえば貯める、増やす、備えるといった行動を後押ししてくれます。

  • カレンダーとグラフで家計の見える化が進み、支出の傾向がひと目でわかる

    カレンダーとグラフで家計の見える化が進み、支出の傾向がひと目でわかる

「続けられない」をなくすには最初の7日が大切

――家計簿を続ける上で挫折しやすいポイントは、どんなところにありますか?

野口氏:あまりにも細かすぎる分類や“正解のわからない仕分け”が負担になり、最初の数日で手が止まりがちです。私たちは“最初の7日”が最重要と考えており、初回の体験価値を磨き続けています。

初日から「サクッと入る→ちょっと気づく→小さな達成感」を得られるかがポイントです。続け方は大きく二派に分かれます。買い物のたびに即入力する“即記録派”と、休日につける“まとめて派”です。どちらも正解で、大切なのは“自分に合う方法”を見つけることではないでしょうか。予算設定が続けるモチベーションになる人もいらっしゃれば、数字で縛られる感覚が苦手な人もいらっしゃいます。私たちは、ユーザーのみなさんの負担を増やさず“自然と続いてしまう”感覚を設計したいと常に工夫や改善を考えています。最初の数タップで「できた」が積み上がると、家計簿は努力ではなく“習慣”へと変わります。

  • 日々のミッションで“できた”を積み重ね、家計簿の継続を支える

    日々のミッションで“できた”を積み重ね、家計簿の継続を支える

無意識の支出「カフェ代7万円」の発見

――家計の見える化で、たとえばどんな変化が起きますか?

野口氏:“無意識消費”が浮かび上がります。たとえば、カフェ代です。1回は数百円でも、年間で「7万円」と見えた瞬間、多くの方がハッとします。ここで重要なのは「ゼロにする」「とにかく節約する」のではなく、「自分はなにに喜びを感じ、なににお金や時間を使いたいのか」という価値観の再確認です。

お金と時間の使い方は表裏一体で、そこにこそ人生観や価値観がにじみます。固定費の見直し(家賃・通信費・サブスクなど)は王道ですが、通勤時間や生活動線、家族との時間まで含めた“全体で見たときの幸福感”が、最終的な満足度を決めると思います。テンプレの家計簿の理想比率に無理に合わせるよりも、“自分仕様の配分”を設計することが大切です。家計簿は数字の帳面ではなく、自分の価値基準と向き合うための鏡です。見えた事実を責めるのではなく、選べる自分になるためのきっかけに変えること。それが、節約を前向きな行動に変えるコツだと思います。

ライフプランメーカーで「第二の人生」をクリエイト

――見える化の先には節約があり、その先には資産運用やライフプランニングがあると思いますが、その橋渡しはどう設計されていますか?

野口氏:家計簿をただの過去の記録で終わらせず、未来につなげることを考えています。収支・家族構成・やりたいことなどを入力すると、AIが将来像をラフに試算する「ライフプランメーカー」を提供し始めました。40代中心のイベント参加者からは、「第二の人生を考えようと思えた」「このままではマズイと思った」というお声をいただき、想像以上の手応えでした。

月いくら積み立てるかというキャッシュフローの逆算に加えて、5年後・10年後の“バランスシート(資産・負債)”を描く発想が大切です。資産の置き場所(現預金・投信・年金・保険・教育資金など)を期間・流動性・リスクなどで整理し、学費・住まい・老後といったライフイベントに備える。ラフでも将来が見えれば、今日の1,000円の行き先も迷いません。家計簿は、現在地を知る“地図”であり、将来像を描くための“設計図”にもなり得ると思います。

  • 将来の収支と資産の見通しを可視化し、今後のライフプランを描く手がかりに

    将来の収支と資産の見通しを可視化し、今後のライフプランを描く手がかりに

AIと人の伴走

――家計やライフプランのアドバイスは、AIと人、どちらが良いのでしょうか?

野口氏:答えは“どちらも”だと思います。深夜でも早朝でも気兼ねなく好きな時間に相談できて、バイアスの少ないAIを好む方がいる一方で、「積み上げた記録に機械的に指図されたくない」という方もいらっしゃいます。最低限の自動可視化と自動助言はAIに任せ、節目の判断や感情のケアは人が担う。そんな風に、ユーザーの嗜好に応じて切替えられる設計が良いのではないでしょうか。

AIの便利さと人の優しさを両立させて、ユーザーが“自分事として続けられる環境”を整えたいですね。結果として、節約や資産運用、ライフプランニング、夢の実現と、目標達成の継続性が高まると考えています。

身体の健康=毎日の計測/お金の健康=毎日の記録

――「身体の健康管理」と「お金の健康管理」って似ているのではないかと思いますが、栄養士 でもある野口さんはどう感じますか?

野口氏:はい、とっても似ています。体重は体重計に“毎日乗る”からこそコントロールできます。家計も同じで、“毎日(または毎週)記録する”からこそコントロールできます。極端な食事制限が続かないように、極端な節約も幸福度を下げてしまいますよね。大切なのは、“小さな調整”の積み重ねです。

「入力しないと、なんだか落ち着かない」そんな“良い違和感”を味方にできると、家計簿も習慣化します。加えて、やりたいこと(たとえば旅行や食べ歩き、学び直し、セカンドキャリアなど)を“費目化”して資産運用に紐づけると、数字が単なる我慢ではなくて“意思あるお金”に変わります。まずは7日間、家計の見える化に挑戦していただきたいですね。細かい分類にこだわらず、支出をサッと記録して、お金の使い方と自分の価値観を見つける。無理のない節約で生まれた余力で、自分に合った資産運用を続ける。家計簿は“我慢の帳面”ではなく、人生観や価値観を映す鏡であり、未来の設計図です。今日入力した1件から、第二の人生が動き出すかもしれません。そう思えると、家計簿ってすごく楽しいことになるのではないでしょうか。