「人生100年時代」と言われる今、20代からの資産形成は待ったなし。とはいえ「投資の目利き力、どうやって磨く?」と悩む人も多いはず。本連載では、20代から仮想通貨や海外不動産に挑戦し、いまはバリ島でデベロッパー事業、日本では経営戦略アドバイザーも務める中島宏明氏が、投資・資産運用の知識や体験談、そして業界の注目トピックを紹介します。
今回のテーマは、「流動性と成長性」。
■投資における「流動性」とは
投資で頻繁に使われる言葉の一つが「流動性」です。流動性とは、資産を売買したいときに、希望する価格に近い水準で迅速に現金化できる度合いを意味します。
株式市場であれば出来高が多く、板が厚い銘柄は流動性が高いと言えます。一方で、売り手ばかりが多く、買い手がつかない銘柄や、注文を出すと株価が大きく変動してしまうような銘柄は流動性が低い典型です。
この流動性は、投資家にとって「逃げ道」であり「安全弁」のようなものです。どんなに値上がりした資産であっても、売れなければ実現益にはつながりません。急落局面で売りたいときに売れなければ、含み益は一瞬で消え去って幻となり、大きな損失にもなり得ます。そのため、「流動性の低い資産は資産ではない」と断言して良いほど、投資判断において重視すべき要素です。
■成長性がなければ資産は眠ったまま
もう一つ、投資する際に重視するのは「成長性」です。成長性とは、資産や企業が時間をかけて価値を増大させるポテンシャルを指します。
株式投資であれば、売上や利益、事業領域が持続的に拡大する企業。不動産投資であれば、人口動態や都市開発の流れによって需要が増す地域。暗号資産であれば、技術的優位性やユーザー数の拡大が裏付けになるでしょう。
短期的な値上がりは偶然や投機によって生じますが、それは持続しません。投資家が本来追うべきは、数年から十数年単位で「価値が増え続ける仕組みを持っているかどうか」です。運用者・トレーダーであれば短期的な分析も必要ですが、投資家であれば長期視点が必要でしょう。成長性がなければ、いくら流動性があっても資産は横ばいか、じりじりと価値を失っていきます。「成長性」と「流動性」は両輪であり、どちらが欠けても投資対象としての魅力は薄れます。
■自社株や非上場株、板の薄い資産は資産なのか
多くの経営者が誤解しがちなのは、自社株の価値です。会社が業績好調で株価評価が高まっても、非上場株であれば市場で自由に売却できません。帳簿上は膨大な資産に見えても、実際には現金化できない「紙の上の富」にすぎないケースが多いです。
同じことは板の薄い上場株やマイナーな暗号資産にも当てはまります。出来高が乏しい銘柄は、いざ売ろうとしたときに大きく値を崩してしまうため、実質的に資産価値は目減りします。
また、実物資産の代表格である不動産も、すべての不動産が資産と呼べるわけではありません。人気エリアで需給が厚い物件であれば流動性も高く高値で売却できますが、需要の乏しい地方物件や特殊な用途の不動産は、買い手が現れず塩漬け資産になるリスクがつきまといます。
資産と呼ぶ以上、必要なときに換金できることが前提です。売れない資産は「資産の皮をかぶった負債」になりかねないので注意してください。
■出来高が示す信頼と市場性
金融市場における出来高は、単なる売買の回数ではなく「その資産にどれほどの参加者が関与しているか」を示す信頼のバロメーターです。出来高が多い銘柄は多くの投資家が値付けに参加しているため、価格が適正に形成されやすく、また取引コストも小さくなります。
逆に出来高が少ないと、ちょっとした売買でも価格が大きく動き、正しい価値が見えなくなります。極端な例では、1日の出来高が数百株程度の銘柄に数万株の売り注文を出すと、理論値よりも大幅に低い価格でしか成立しないという事態が起こります。これは投資家にとって大きなリスクです。
つまり出来高は「流動性の可視化・数値化」であり、投資対象を選ぶ際に確認すべき重要な指標です。市場に参加する投資家の厚みこそが、安心して資産を保有できる土台になるからです。
■投資家は短期の値動きではなく長期の成長を見る
混同することがありますが、投資家と運用者・トレーダーは、似ているようでまったく異なる生き物です。運用者・トレーダーは短期的、あるいは中期的な値動きで利益を狙いますが、投資家は長期的な成長を前提に資産の置き場所を考えます。市場のノイズに惑わされ、短期の上げ下げに一喜一憂するのは投資家の姿勢ではありません。
成長性を持つ資産や企業は、一時的な逆風で値下がりしても、時間が経てばその本質的な価値に収れんしていきます。むしろ短期の調整局面は、「安く仕込める機会」です。長期的に見れば流動性があり、持続的な成長性を備えた資産は必ず投資家に報いてくれます。
投資家が重視するのは、「いまいくらで売買されているか」ではなく、「10年後、20年後にどれだけの価値を生むか」です。流動性と成長性を兼ね備えた資産だけが、投資に値します。
