「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、金融教育や全寮制小学校の設立についてを中心に、H.I.F.株式会社 代表取締役社長の東小薗光輝氏にお話を伺いました。

  • H.I.F.株式会社 代表取締役社長 東小薗光輝(ひがしこその みつてる)氏

陸上自衛隊退任後、複数の金融機関に勤務。2011年にHIS入社後、法人営業部に配属。2016年HIS代表の澤田秀雄氏が運営する澤田経営道場に入門し、起業ノウハウを学ぶ。2017年11月に売掛債権の保証を行うH.I.S. Impact Finance株式会社(H.I.F.株式会社)を設立。2019年4月にHISから出資を受け入れてHIS子会社に。2020年2月にMBOして再び独立企業とする。H.I.F.株式会社は、2025年1月1日に商号をQuants株式会社に変更。

IPOの先にみる金融と金融教育の未来

――東小薗さんはこれまで、事業・サービス内容についてはさまざまなメディアや講演でお話されてきたと思いますので、今回は事業ではなく金融や金融教育についてを中心に伺います。東小薗さんにとって事業やIPOは通過点であり、常にその先を見据えて事業展開されてきたと思いますが、どんな未来を描いていらっしゃいますか?

会社ですのでもちろん利益を追求していくのですが、利益の一部を活用して財団(ZOO財団)で行う非営利活動を視野に入れています。「手段と目的」という言葉がありますが、事業やIPOは手段で、目的は非営利活動です。片親世帯へのベーシックインカムや、動物保護センター、山林・離島の購入などの他、無償の全寮制私立小学校の設立を目指しています。山林や離島の購入は、美しい景観を守るためでもありますし、民泊や農業などに関連するベンチャー・スタートアップ企業を守るためでもあります。

いずれの活動も重要なのですが、特に重要だと感じているのは無償の全寮制私立小学校の設立です。補助金・助成金に依存しない学校をつくりたいと考えています。数年前から日本でも金融教育なるものがスタートしていますが、お金の使い方、お金の稼ぎ方、お金の貯め方、お金の運用の仕方、お金の残し方、お金の借り方、ファイナンスや税金についてなど、まだまだ足りていないことがたくさんあります。例えば、法人にはB/S(バランスシート、賃借対照表)がありますが、個人でB/Sについて考えている人はほとんどいません。「信用」について、言葉のニュアンスとしてなんとなく理解していても、きちんと説明できる人はあまりいないと思います。

金融は、中学や高校から学び始めるのでは遅く、小学校のうちからスタートしないといけない教育だと感じています。親のリテラシーが子どもに反映されますから、親子の金融教育が不可欠です。設立する小学校では、最初は小規模から開始しますが、数年後には年間300億円の予算で運営と先生をセレクトします。「社会を知っている」先生を優先したい。そうでなくては、生きた教育ができないからです。お金で苦労する人をなくすことが、小学校のミッションでもあります。無償ではあるのですが、努力しないと入れない小学校にしたいですね。入学試験も、今までの受験勉強とは違い自主性を重んじるような選考プロセスにしたいと考えています。

ZOO財団構想に魅せられて集まった創業メンバー

――小学校設立などの構想は、H.I.F.の創業時からすでにあったのでしょうか?

東小薗:はい、そうです。はじめはベーシックインカムから着手したのですが、寄付になってしまうということで一時休止して2025年9月に再開する予定です。創業メンバーに片親世帯の人が多いこともあり、みんな動物保護センターや小学校設立などの非営利活動に関心を持って入社してくれた人たちです。社員それぞれのアイコンが動物のイラストなのは、ZOO財団構想にみんな魅力を感じてくれているからです。

金融教育に話を戻しますと、お金の使い方、お金の稼ぎ方、お金の貯め方、お金の運用の仕方、お金の残し方、お金の借り方……とある中でも、特に「使い方」を知らない人が多すぎると思っています。自己投資をしないですし、お金の使い方に注意を払っている人が少ないです。お金を使うタイミングも重要だと思うのですが、成人したらなんとなく車を買ったり、結婚したらなんとなく家を買ったり。「みんな買っているから」という理由で、人生の大きな買い物をしている人も少なくありません。

本来は、稼げるようになってから車や家を買えば良いのですが、順番がおかしいのです。車が大好きで趣味の要素込みで買うのならそれも良いのですが、なにかを買ったらなにかを失うことになります。自分で理解した上で選択しているなら良いのですけど、そうではない。自分で学び、理解した上で選択することがリテラシーだと思うので、お金の使い方をもっともっと学んでほしいです。

自己投資で言えば、例えばお金を「払って」でもインターンに行くという発想があっても良いと思います。私はかつて、「無償で良いから雇ってほしい」とHISに頼んだことがあります。ここで学ぶことがあると確信したなら、無償でもお金を払ってでも自己投資して、そこで得たことを糧として自分で稼げるようになる。そんな風に、自分の足でしっかりと立てる人を増やしていきたいです。

AI定性与信技術で機会ロスをなくす

――事業やIPOは手段とのことですが、東小薗さんの金融や教育への想いは、事業ともリンクしていますね。

東小薗:そうですね。事業についてもお話しておきますと、「AI定性与信技術」によって、従来であれば金融取引ができなかったような人や企業にも金融サービスを利用する機会を提供しています。AI与信審査、保証、ファクタリング、後払い決済、請求代行SaaSなどの金融サービスをご提供しており、その中から金融機関向けの与信審査を切り出した形です。

各社で与信審査の仕組みはあるわけですが、審査の結果「取引できない」というとき、今までならただ失注していただけなのですが、弊社が金融機関向けにスコアをご提供し、オプションで債権の保証や債権の買取もできるので機会ロスを減らせるというメリットがあります。金融機関にとっても、ユーザーにとっても、機会ロスを減らすことのできるのがAI与信審査です。

詳細は開示できませんが、法人であれば250項目のスコアリングで審査しています。家賃保証や外国人の方の与信も可能です。例えば従来の自動車のローン審査でNGだが弊社の審査では2~3割が取引可となり、家賃保証では5割ほどが取引可になりました。機会ロスをなくして経済をよくすることが、私たちの役割です。

ベンチャー・スタートアップ企業もデットの活用を

――ベンチャー・スタートアップ企業は、エクイティ・ファイナンスについては明るい人が多いですが、金融機関からの融資(デット・ファイナンス)についてはあまり活用できていない企業も多い印象です。これも機会ロスと言えばそうですよね。

東小薗:そう思います。弊社では金融機関と協業してベンチャーデットの保証を行っており、2023年の3月から2024年10月までで116件の与信審査を行い、43件は審査通過して融資実行に至っております。業種はバラバラなのですが、経営陣からとても喜ばれています。

ベンチャー・スタートアップ企業の与信審査というのは、まだまだ確立していない領域です。融資を申し込んでも、「難しい」と言われてしまい、諦めてエクイティにばかり目がいってしまう。それは双方にとってもったいないことなので、AI与信審査を活用していただいています。金融機関やVC、財務コンサルティング会社、株主の方などからご相談をいただき、一次審査ではAIスコアリングで定性を、二次審査では財務で定量をみていきます。実際には一次で9割審査結果は決まっており、定性なのでより多くのベンチャー・スタートアップ企業のファイナンス支援ができるわけです。それが、日本経済を底支えすることにつながっていると思います。ちなみにデフォルトは0件です。

事業はあくまでも手段なのですが、しっかりと事業基盤をつくって、小学校設立を一日でも早く実現できるようにしたいと思います。