エスプレッソを楽しむには、専用のマシンが必要ということは第6回で説明した。エスプレッソマシンは2万円程度からあるが、マシン購入はやはり高いハードルになるだろう。しかしエスプレッソ抽出には実はもう1つの方法があった。それが今回紹介する直火式エスプレッソメーカーである。そこで、直火式エスプレッソメーカーの使い方をラッキーアイ クレマスの川崎光広さんにうかがった。

直火式エスプレッソメーカーで淹れたエスプレッソは、どんな味なのだろうか

「ビアレッティ(MOKA EXPRESS)」

同社が取り扱う直火式エスプレッソメーカーは「ビアレッティ(MOKA EXPRESS)」。2杯用3,800円、3杯用4,000円、6杯用4,500円(全て税抜)で、エスプレッソマシンより安価だ。直火式メーカーは、イタリアの家庭でよく使われているのだとか。そして最近では、キャンプなどアウトドアシーンでも活用されているのだそう。「アウトドアでは、使用するコーヒー粉(コーヒー豆を挽いたもの)の量を減らして、エスプレッソではなくレギュラーコーヒーの代用として楽しまれているようです」(川崎さん)。

ここでは、エスプレッソの淹れ方を紹介するが、レギュラーコーヒーも基本的な淹れ方は同じ。コーヒー粉の量を調整するだけでいいので、後ほど書き添えておく。

ラッキーアイ クレマス東日本支店ショールーム。ここにも「LA・MARZOCCO」のマシンが

ラッキーアイ クレマス: 1964年設立。自社ブランド「BONMAC」から、「LA・MARZOCCO」・「BUNN」といった海外ブランドまで取り揃え、家庭用から業務用まで幅広く、美味しいコーヒーを提供するシーンをサポート。その中でも「世界バリスタチャンピオンシップ/WBC」指定機種の「LA・MARZOCCO」は国内外のトップバリスタから熱烈な支持を受けている。

サイフォンの構造と似ている直火式メーカー

抽出作業に入る前に、まずは直火式メーカーの構造を理解しておこう。下の写真左側のように、下部ポットと上部ポット、フィルターから構成されている。フィルター部分は下部ポットにセットするもので、ここにコーヒー粉を入れる。水を入れ、フィルターを付けた下部ポットの上に上部ポットをセットし、火にかけるわけだ。

左からフィルター、下部ポット、上部ポット

沸騰した水はフィルターを通過して、上部ポットに上っていく。上部ポットの下には上の写真右側のように、もう1枚フィルターが付いている。このフィルターによって、コーヒー粉の混入を防いでいるのだ。エスプレッソは上部ポットにたまっていき、完成となる。原理自体はサイフォンとよく似ているのだ。それではいよいよ、エスプレッソを淹れるとしよう。

上部ポットの下にもフィルターが

※ここでは、「ビアレッティ(MOKA EXPRESS)」3杯用を使用する。
1.フィルターにコーヒー粉をすりきりの状態になるよう詰める(おおよそ15~17g)。
2.次に下部ポットに水150mlを入れ、1のフィルターと上部ポットをセットする。上部ポットと下部ポットはしっかりと閉めてセットしないと、後で湯が漏れてくるので注意。
3.エスプレッソメーカーを火にかける。しばらくすると、ポコポコという音が鳴り、注ぎ口から蒸気が出てくる。これは、沸騰した湯が下部ポットから上部ポットに上がっていっているサインである(写真下はポット内容の様子がわかるよう、火にかけている途中で上部ポットの蓋を開けた)。
4.蒸気が出てしばらくしたら火を止める。取っ手は熱くなっているので、ふきん等で巻いてからカップに注ぐ。
5.直火式メーカーで入れたエスプレッソ(材料は全てエスプレッソ3杯分の分量)。

特別なテクニックは不要で、火にかけるだけで淹れることができる。ただ、豆の焙煎度合いには注意が必要で、「お好みにもよりますが、中深~深煎り程度がオススメです」と川崎さん。これは、直火式エスプレッソメーカーがペーパーフィルターやネルを使わないため。金属のフィルターしかないので、豆の成分が吸収されることなくそのまま抽出され、豆の味がストレートに出やすくなる。そのため、浅めの焙煎だと、酸味を強く感じることがあるのだとか。挽き具合は、一般的は極細挽きが推奨されているが、中細挽きでも大丈夫とのことだった。

今回抽出法を教えていただいたラッキーアイ クレマスの川崎光広さん

エスプレッソは本場イタリアでも砂糖を入れて楽しむスタイルが一般的。「コーヒはブラック」という方も、ぜひ一度砂糖を入れて味わってみてほしい。

直火式メーカーで入れたエスプレッソは、大型マシンで淹れたようなクレマは出ないが、サラリと飲みやすい味わいに仕上がる。「エスプレッソは苦くてちょっと……」という方も楽しんでいただけるのではないだろうか。

また、前述のようにアウトドアシーンでレギュラーコーヒーを楽しむ場合は、使用するコーヒー粉を10g(先に紹介した通り、3杯用を使用する場合)に減らすだけでよい。これで、アウトドアでもインスタントではないコーヒーをカンタンに淹れることができる(もちろん、アウトドアでエスプレッソを楽しむことも可能)。

コーヒーの原点、トルココーヒー

この連載ではこれまでに、様々な抽出方法を解説してきた。ドリップコーヒーでは、ペーパードリップ、ネルドリップを紹介した。少し難しい話になるが、ペーパーフィルターやネルを使用した抽出方法は、実は「透過法」と呼ばれている。コーヒー粉に湯を透過させて成分を湯に浸出させつつ、ろ過を行う。この透過法の他に、コーヒープレスやサイフォンのようにコーヒー粉と湯を煮沸して(もしくは浸して)成分を抽出する「浸漬法(しんしほう)」という方法もある。先ほど紹介した直火式エスプレッソメーカーもこの方法に分類される。

そして、この浸漬法の代表格が「イブリック」を使用した抽出法なのである。イブリックとは、下の写真のような小鍋。ここにコーヒー粉と水、砂糖を入れて火にかけ、煮出したものがトルココーヒーだ。

イブリック

コーヒー史を紐解くと、浸漬法は透過法より古い。透過法が登場したのは1800年頃といわれている。それまでは、世界的に煮立て式が抽出の主流で、トルココーヒーの抽出法はコーヒーの抽出法の原点に近いといえる。ということで今回は最後に、イブリックを使ったトルココーヒーの淹れ方も紹介しておこう。

※ここでは「エレガンスイブリック」(12,000円・税抜)を使用。サイズは76×185×70(mm)。今回は卓上コンロを使用するが、写真のような専用コンロもある。こちらは固形燃料を用いる。

イブリック専用コンロ

1.イブリックにコーヒー粉6~7g、グラニュー糖5g、水60~70mlを入れる。
2.軽くスプーンでかき混ぜ、弱火で熱する。
3.鍋底が焦げ付きやすいので、かきまぜながら温めていく。
4.沸騰したら火からおろし、スプーンでかき混ぜ、再度火にかける。この作業を3回ほど繰り返したらカップに注ぐ。
5.1~2分待ち、コーヒー粉が沈殿してから上澄みをすするようにして飲む(材料は全て1杯分の分量)。

「煮出す作業が入るため、濃すぎるのでは? 」と心配しながら飲んでみると、これが意外に飲みやすい。火にかけるため砂糖がカラメルのような味わいになり、コーヒーのほろ苦さをうまく包み込んでいる。

こちらも直火式エスプレッソメーカーと同様、フィルターを使用しないため豆はやや深煎りがオススメとのことだった。注意点としては、手順4で時間をかけすぎないこと。過抽出になり、雑味が前面に出てしまうのだ。

コーヒー抽出法の原点からいまカフェや喫茶店でジワジワと人気を集めているコーヒープレスまで、一通りの抽出法を紹介してきたが、抽出の解説は今回で一旦お休み。次回からは、有名バリスタの方々に登場していただき、オリジナルコーヒーのレシピを披露してもらう。お楽しみに!