今回のテーマは「ミニマリズム」だ。テーマは毎回担当が出すのだが、完全に嫌がらせに入ってきている。ちなみに、次のテーマは「丁寧な暮らし」なので、手始めに担当を丁寧に殺したいと思う。

ミニマリズム、ミニマリスト、昨今よく聞くフレーズだ。当然「しゃらくせぇ」と思うが、それは、それ自体よりも「私ってミニマリストじゃないですか? 」とか「それはミニマリズムに反するよねぇ」等、まずその言動がチャカついている人間が先に思い浮かぶからだろう。

ミニマリストでもベジタリアンでもデストロイヤーでもなんでもいい。ただ、それをやたらむやみに他人に主張しだしたらダメなのだ。ただし、「私ってデストロイヤーじゃないですか」は、言ってみたい。

ミニマリズム自体はいい。むしろ憧れる。できることならそう生きたい。そう思う人間は多いようで、ミニマリスト指南本は何十万部と売れているらしい。そういうのをすぐ買っちゃうから、家に物が増えるのだ。

ミニマリズムとはシンプルとはまた違うようだ。シンプルというのは、必要な物だけある部屋だろうが、ミニマリズムというのは、例え一般的には必要と思われる物でも、自分にとっていらない物なら持たないのである。机やベットすらいらなければ持たず、逆に自分に必要なものなら置くのだ。

よって、ミニマリストによっては、カーテンすらない部屋にマネキンが置いてある等、パリピが肝試しに行って呪われて帰ってくるような部屋になってしまう場合もあるが、それが本人にとっては快適なのだ。「ミニマリスト」で画像検索をすると、実際、「引っ越し当日」か「夜逃げ前夜」みたいな部屋ばかりが出てくる。だが、少なくとも私の部屋よりは快適そうだ。

私の部屋にはとにかく物があふれているし、それがいる物なのかどうかさえも分からない。目を逸らしているからだ。しかし、目を逸らしても物量的に無理やり視界に入ってくる。さらに、私の部屋だけフローリングのツヤが一切ない。足の裏からアクリル溶剤でも出ているのであろうか。

今すぐ全てを窓から投げ捨て、ミニマリストになりたい。しかし、考え方としては私はすでにミニマリストなのだ。前にも書いたが、私は物を買うのが好きじゃない。金をかけるのは、ソシャゲと食い物だけだ。ソシャゲで得られるもの(時々何も得られない)はJPEGなので場所をとることはない。食い物も食えば消える。部屋に物が増える道理がないはずなのである。

しかし、物には「正味」というものがある。甘いパンを買っても、食えるのは中身だけで、袋は食えない。飲み物だって、自販機から直に液体が噴出し、それを口でキャッチする方式だったらいいが、大体缶やペットボトルに入っている。野菜も皮などは食べずに捨てるだろう。また、さらにそれを持ち運ぶためのレジ袋や紙袋が発生する場合もある。

つまり、正味の部分は食べて消えるか、必要なものとして使う。しかし、正味以外の部分が消えてくれないのだ。それはなぜか。捨てないからだ。

飲み物の缶も、外なら備え付けのゴミ箱に捨てればいいのだが、家で飲んだら、まず水洗い等してからしかるべき日に捨てなければいけない。それはちょっとミッションインポッシブルだろう。自分がトムクルーズになる日を待つしかない。それまでとりあえず、机か床にでも置いておくべきだろう。

つまり、私の部屋は「トム待ち」のもの、正味以外の部分で埋め尽くされている。端的に言うと正味100%のゴミだ。

100%というものは意外と少ない。果汁100%と銘打っていても何かしら混ぜてあるものだし、天才だって、99%の努力に1%のひらめきという不純物が入っている。つまり、私の部屋は天才以上、ということになる。逆に、掃除等で手を加えるのは、文化遺産住宅をオール電化にリフォームしようと言っているに等しい。大きな損失だ。

それに、ミニマリストはむやみやたらに物を捨てるというものではない。「自分にとって必要な物、自分の生活を豊かにしてくれる物」なら持つのである。部屋を片付けられない者が、片付ける者に小言を食らった時の主張はいつもこうだ。「全部いるものなんだ」と。全部いる物なら仕方ない。必要な物まで捨てるのは、ミニマリストの精神に反する。

つまり、既に私はミニマリスト、もしくはミニマリスト以上だったのである。しかもこの生活は、いざ何かの間違いで「掃除をしよう」と思い立った時にも役に立つ。物を捨てている内に、捨てることが快感になってしまい、必要な物まで捨ててしまい、後で困ったという経験がある人もいるだろう。しかし、私の部屋は100%ゴミなため、今まで「捨てて困った」という経験が一度もない。何せ、全部ゴミだからだ。

このように、部屋をゴミで埋め尽くすことにより、逆に掃除がしやすい環境ができあがるのだ。このライフスタイルはこれから流行ると思う。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。