漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「最近の悩み」である。
これと言って最近悩んでいることはないのだが、強いていうなら「生活全般が破綻している」ことである。
破綻は1年以上続いているので、最近の悩みというわけではないのだ。
私は「無職の割に昼夜逆転してない」ことと花粉症じゃないことが唯一の自慢だったのだが、最近「午前3時」とか無職らしい時間に寝ることが増えてきた。
しかし起床時間の方にまだ無職らしさが足りておらず、6時に一旦起きて夫に「一応起きた」というポーズ(両腕で頭上に円を作りながらガニ股)を見せた後二度寝するが8時半には起きている。
これですら「8時15分始業(8時には出社し始業準備)」が当たり前な田舎では、全てを諦めるレベルの寝坊だが、無職としては80才以上でなければ許されない早起きである。
つまり睡眠時間が極端に減ってしまったのだ。
私の健康を唯一支えていた睡眠という柱が崩れてしまったせいで、目の端から変な汁が恒常的に出るようになるなど体調があまりよろしくない。
また目の端から変な汁を出したまま明るい気分でいるのも無理である。
むしろ良いことがあっても「それでも目の端から出る汁は止められねえ」とうれしさも半減だ。
なぜ睡眠時間が減ったかというと、仕事が終わらないからである。
終わっても、1つ仕事が終わるごとに3つ催促が来ているし、今ある仕事で手一杯なため、新しい仕事にもなかなか手がつけられず、機会損失をしているような気がするし、その間も目の端から汁が出ている。
そんな状態なのでもちろん部屋を掃除する余裕などない。
現在も足元に、目汁対策のために買った高価な目薬が体液を全て床に撒き散らして死んでいる。という猟奇殺人が起こっているのだが、現場保管のため警察が来るまでそのままにしておく予定だ。
このように、全く誇張ではなく本当に生活が破綻しているのだが、幸い原因ははっきりしている。
それは「ウマ娘。」をやっているからだ。
ウマ娘。をずっとやっているので、仕事が終わらず、睡眠時間が削られるし、ついでにずっとチカチカするスマホ画面を見ているので、目汁が止まらないのである。
ついでに、ガチャに大金を注ぎ込むので仕事が捗ってないのに出費だけ増えるという、ファイナルディスティネーション級のヒトコロスイッチが1年以上発動し続けているのだ。
だが原因がはっきりしているので、解決も簡単である。ウマ娘。を止めれば良いのだ。
しかしそれができない、というより「したくない」のである。
何事も解決策というのは既にわかっていることが多い。
ただその解決過程の中に「したくないこと」が含まれているので「できない」または「まだそこまでする段階ではない」と言ってしまうのである。
カロリー制限をして適度に運動すれば、確実かつ健康に痩せることができる、だがそれをしたくないので「できない」と言ってやらないのだ。
ならば、ライザップから人権意識を奪ったかのような施設に入り、強制的にできる状態にしてみてはどうかと提案しても「そこまでしなくても自分は痩せようと思えば痩せる」というのである。
自分も、ウマ娘を止めれば生活が改善し、目汁が止まるのはなんとなくわかっているのだが、ウマ娘をやめたくないので「まだやめるような段階ではない」と言うし、一旦スマホを破壊してみてはどうかという抜本的改革案を出されても「そこまでしなくてもやめようと思えばやめられる」と言うし、本気でそう思っているのである。
問題の解決過程において一番難しいのは、まず「自分には問題があり、解決するためにそこまでしなければいけない状態である」と「認める」ことと言っても過言ではない。
病院に行けば完治、または改善するとわかりきっていても、本人が自身を病気と認めず、頑なに病院に行こうとしない、というのはよくある話である。
この最初の難関をどう乗り越えたら良いかというと「行くところまで行く」のが一番手取り早い。
つまり「まだあわてるような時間じゃない」と言い張っている動かない仙道がいたら「まだあわわわわあ」となるまで放置し「自分はおかしいのでどうにかしなければいけない」と自覚させることが大事なのだ。
つまり私はまだ、破綻が足りないのである。
一早い自覚、そして回復のためにも、しばらく私のウマ娘を放置していただけると幸いだ。