今回のテーマは「本棚」だ。
私は本をあまり買わない。他人には自分の本を「買って燃やしてまた買え」となどと言っているが、買うとしてもキンドルなどの電子書籍がほとんどである。しかし、自分がしないことを他人に強要するのは恥ずべきことだ。即刻、キンドルが入ったPCをツルハシで破壊して、また買おうと思う。
だが、それは全て厚い本の話だ。薄い本ならしこたま買っている。もっと簡単に言うと、ブラウザゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」のエロ同人誌をクソほど買っているということだ。もちろんエロくないのもある。しかし、低く見積もって8:2でエロだ。
当然、本棚には収まりきらない。よって家の物置のひとつが完全にエロ本小屋と化している。開けたら知らない中学生たちがたむろしていた、という事態が起こっていてもなんら不思議ではないお宝スポットだ。
薄い本とは、文字通り、厚さは薄いが、普通の本より面積がある。それが、地層なら3億年はかかるだろうというぐらい積み重なっているのだ。よって、一見「これは歴史がある」と地層学者をうならせるが、実際には1、2年でできたものである。
そして、その地層にも「関東ローム層」のような種類があり、私のように刀剣乱舞層を作る者もいれば、おそ松層、YOI層を作る者もいる。ある意味、オタクの歴史が見てとれる貴重な資料だ。
私はその地層を物置に築いているが、隠しているかというと全然隠していない。扉を開けた途端、表紙に描かれたほぼ衣服を身に着けていないキャラの尻と目があってしまうことがある。せめてエロじゃない薄い本をトップに置くぐらいした方がいいのだろうが、その点の管理はかなり杜撰である。もちろん、その物置には夫も入る。よって、夫も尻と目があったことが何度もあるはずだし、そこがエロ本小屋になっていることも理解しているはずだ。
しかし、夫も実家の家族も「私の所有物(特に本)に関し徹底して何も言わない」という点が共通しているのだ。「家族にエロ本所有を把握される」と、「エロ本所有が把握され、それについて言及される」との間には、調子がいい時のモーゼが割った海ぐらい隔たりがある。
例えば、母親にエロ本所有がバレたとする。だが。母親が何も言わずに放置すればノーダメージだ。それをきちんと机の上に並べられたりするからダメージが生じ、さらには「せめて私より若い子が出てる本にしなさいよ」などと言われたら、木っ端微塵になる。
だから、私も夫に「長谷部が好きなのは良く分かったが、攻められてる燭台切も好きなんだな」と言われたら、家ごと本を燃やす。もちろん、私も夫も一緒に燃やす。生かしてはおれぬし、生きてもおれぬのだ。
しかし、本当に何も言われないので、「バレても何も言われないならいいや」という意識のままま大人になったし、家族は私が何を読んでいるかなどそこまで興味がないのだろうと思っていた。
しかし、26歳で漫画家デビューが決定し、親に伝えたところ、母親は開口一番「エロ漫画か? 」と言った。別に"おかあちゃんジョーク"ではない。母が下ネタを言ったところなど見たことがないからだ。つまりマジである。そして、母がなぜ瞬時にそういう結論を出したかというと、間違いなく私の持っている漫画類から判断したのだろう。つまり、それについて何か言おうが言うまいが「親は見ている」のである。
先日ネットで「息子のSNSアカウントを全て把握している母」が話題になったが、あれは特に珍しいことではないのだろう。なぜなら、子供は基本的に「そこまで見ないだろう」「SNSとか親に分かるわけがない」と油断しているため、隠してないのだ。隠してないなら見つかるに決まっている。つまり、家族に何か隠したかったら、一子相伝の秘伝書を守る覚悟で隠さないとダメなのである。
逆に、私が家族の買った本などに興味があったかと言うと、割と勝手に読んでいた。高校1年生時、暇だったので兄の本棚にあった村上春樹の『ノルウェイの森』を読んで非常な衝撃を受けたこともある。その後、村上作品は何冊か読んだが、それは難解で分からなかった。しかし、『ノルウェイの森』は今でもフェイバリットである。
しかし今になって、『ノルウェイの森』が好きなのは、エロかったからであり、他の村上作品がピンとこなかったのは、それに比べてエロが少なかったからでは説が浮上してきた。しかし、ただエロさで言えば、中三の時に買って、25歳ぐらいまで持っていた『新世紀エヴァンゲリオン』のエロ同人誌の方がエロかったと思う。よって、私が『ノルウェイの森』が好きなのはエロ目的ではない。
有名になり過ぎて、いろいろ言われることが多くなった村上作品だが、私は春樹との思い出をいいものにしておきたいのだ。
筆者プロフィール: カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。