漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「テレビドラマ」である。

私に外出系の話を振ると平気で10年前の話が出てくると言ったが、それを越える話題が来てしまった。

最後に1クール欠かさず見たテレビドラマは何かと言うと、中山美穂と浜田雅功主演の「もしも願いが叶うなら」である。

どれだけ考えても最後に見たのはこれなのだ、おそらくほむらちゃんばりにループを繰り返しても私は最後にミポリンと浜ちゃんのドラマを見て終わるのだと思う。

浜ちゃんとキムタク主演のドラマ「人生は上々だ」説もあるが、これは全話しっかりは見てなかった気がするし「竜馬におまかせ!」も同様だ。

ともかく浜ちゃんが好きだったことだけは確かである。

「もしも願いが叶うなら」は当時かなり人気のドラマで見ていた人は多いと思うので、割と言いやすい部類だ。

しかしこれ以降の古い記憶になると、森脇健児と戸田菜穂主演の「お願いデーモン!」と若干難易度が上がってくる。

だが、何故それを見ていたのか、と聞かれたら「森脇健児が好きだったから」と堂々と答える。

俺は誰かを好きだったことを「黒歴史」などとは呼びたくない。そんなのは20代前半時のファッションセンスだけで十分だ。

どちらにしても10年前どころか四半世紀前の話しか出てこないのだが。それより前の記憶になると一気に「東京ラブストーリー」になる。

東京ラブストーリーとは「カンチFXしよ!」が一世を風靡した当時の金字塔ドラマだが、私は当時9歳ぐらいで当然FXが何なのかすら知らなかった。

しかし当時、クラスのマセガキどもがこのドラマを話題にしており、主題歌の「ラブ・ストーリーは突然に」を「この曲ヤベーから」みたいな感じで布教していたのだ。

名曲には違いないが、9歳児たちがどの程度この歌詞の意味を理解できていたのか。

あの日、あの時、あの場所、なんてまだ公園の砂場ぐらいしかないだろう。

私も、クラスのイケてる奴が歌っているラブストーリーは突然にを耳コピ、という拷問みたいなことをして覚えたため、未だにこの曲を歌えるのだが、何せ耳コピなため、改めて歌詞を見ると「和正はそんなこと言っていなかった」と判明することも多い。

そして、ドラマも「最終回」だけ見た。

幸いにして、親たちが見ていたため、突然9歳児が東京ラブストーリーの最終回だけ見たいと言って、親を困惑させることはなかった。

もちろん前後の話など一切わからないのだが、その最終回は9歳児にとっても衝撃的なものであった。

簡単に言うと、くっつくと思われた主役カップルがくっつかず、男は別の女とくっついて終わったのだ。

物語と言えば、八方丸く収まるハッピーエンドしか知らない自分にとって、このラストは衝撃的であり、正義と信じていた人間の悪行を見た仙水並みに驚いたし、正直ラスト3分まで「そうは言うても、織田裕二と鈴木保奈美がくっつくんやろ?」と思っていた。

それがそんなこともなく終わってしまったため、私はその後「私が見た初めてのテレビドラマそれは東京ラブストーリーで私は9歳でした、その味は渋くてスパイシーで」と死ぬまでヴェルタースオリジナルし続ける存在と化してしまった。

今でこそ物語は全てがハッピーエンドではなく、バッドエンド、さらにはメリバという難解なものがあり、むしろ原作でハッピーエンドを迎えた推しキャラをバッドエンドかメリバらないと死んでしまう病のオタクがいる、ということも良く知っているが、当時としては衝撃的であった。

さらにその後テレビドラマ界には空前の「暗いブーム」が来てしまったような気がする。

暗いブームとは「高校教師」のような野島伸司脚本を筆頭に、「同情するなら金をくれ」でお馴染みの「家なき子」など、設定が重く、さらに社会問題に深く切り込んでいる系、もちろん最後はハッピーエンドとは言えず、かと言ってバッドとも言えない「貴様らの解釈に委ねる」系が多かった。

このゾーンを潜り抜け、さらにバトルロワイヤルに突入してしまった世代なら、そりゃ推しをメリバしないと死ぬ病にかからない方がおかしい気がする。

最近のドラマの流行りはわからないが、少なくともあの時ほど薄暗くはないような気がする。

ちなみに、ドラマも漫画と同様「終わってからまとめて見る」では応援にならない。

ドラマの評価というのはリアルタイムの人気で計られるため、放送時に悪ければ「打ち切り」ということにもなってしまう。

よって漫画が、買いさえすれば読まなくても良いように、ドラマや俳優を応援したいと思ったら、見なくていいから、そのチャンネルをつけ、放送直後に「(見てないけど)面白かった」等SNSにつぶやきまくることが大事である。