漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今年はコロナに始まって、結局コロナが終わらないまま終わりそうである。

飲食業や観光業などが大きな打撃を受ける一方で、在宅で利用できるものの需要は高まった。

出版業界も書店が閉まり紙の本は売れなくなったが、一方で電子書籍の売り上げはかなり伸びたという。

しかし、電子書籍を出している作家が一律儲かったとは思わないで欲しい。

売れたのは「外にも出れないし、今の内にあのオニメツでも読んでおくか」という、コロナ前から既に知られていた作品、もしくはとてもエロい作品だ。

どれだけ外出自粛で時間があり余り、気が滅入っていたとしても「せっかくだから俺は星の数ほどある電子書籍の中から見たことも聞いたこともない作家の漫画を読むぜ」と、コンバット越前レベルまで人は狂えないものである。

逆に知名度のない作家は書店での一見ワンチャンも狙えなくなったため余計売れなくなってしまった。

つまり、出版業界は例年と同じく「実力通りの結果が出る世界」だったと言える。

他にもシェアを伸ばしたものと言えば、ゲームや動画、あとはとてもエロいゲームや動画などが挙げられる。

ゲームで一番売れたのは、おそらく流行語にもなった「あつまれどうぶつの森」だろう。 しかし、ゲーム一つとっても、ただゲームで時間を浪費する奴と、今できることをする人に分かれてしまうのである。

あつ森は海外でも人気のゲームなのだが、お客様をひも状の物で縛ったり叩いたりするお店にお勤めの方が、コロナで店に行けない間お客様が離れてしまわないように、このあつ森を使って、お客様とコミュニケーションを図っていたのだという。

もちろん、あつ森は健全なゲームなので「ひもでばる」というコマンドや「ボールギャグ」などのアクセサリーはないのだが、他のプレイヤーに命令して仕事をさせたりできるそうだ。

またあつ森は「多様化」に関して極めて先進的な企業が作っている作品なので、男性的なキャラクターにとてもフェミニンな衣装を着せる、ということも可能なのだ。

もちろん、それで得られるのはゲーム内通貨ぐらいのものなのだが、そうすることでお客様が離れて行くことを防ぐことが出来る。

この1年みな同じ条件ではあったが、何もできないからと何もしなかった奴と、こんな時でも出来ることをやろうとした人間とでは大きく差がついたのではないか、と思う。

飲食業も早くからデリバリーに切り替えたところが多く「おとりよせグルメ」は人気を博したようだ。

一時期、おとりよせグルメをはじめとした通販をしすぎて「コロナ破産」に至った人間続出という「コロナに関係なく人間はいつか滅びるだろう」という報道がされていたが、おとりよせが外出自粛期間中の慰めになったのは確かなようである。

ちなみに私は、コロナ前から「おとりよせグルメ」を題材にしたコラムを連載しており、それが今年書籍化された。極めて世相に合った本だと思うので、あつ森を使ったプレイの話を読んでいる暇があるなら早く買えばいいと思う。

担当が選んだ全国各地のおとりよせグルメを私が食べてレポするという内容だったのだが、担当が「甲子園の土」とか送ってこなかったおかげで、どれもおいしくいただくことができた。

私が選んだものを担当が食べるという企画だったらおそらく「砂丘の砂」ぐらいは送っていたと思う。

現在GOTOの一時中止が発表され、再び旅行がしづらい状況になっているが、私は自室神推し同担拒否過激派であり、外出×自分のカップリングは地雷である。

「旅行」も地雷とまではいかないが、ミュートワードくらいには入っている。

よって、地元と仕事で東京に行くぐらいで、行ったことのない県の方が多いため、どのおとりよせグルメも初見のものが多かった。

しかし、逆に言えば、今は全国の名産が家から出ずに食えてしまうということである。

だが、家で食えるんだから、食い物目当てで旅行をするデブは旅行をする必要はない、そもそもドアに引っかかって出られないだろう、ということかというとそうでもない。

チルド商品が現地で食べるものと同じとは思えないし、素人が適当にゆでるうどんと、本場さぬきうどんの店で出されるうどんとでは、うどんを適当にゆでる素人を絞め殺せるぐらいコシが違うはずである。

ライブなども配信に切り替えたところが多いが、配信を見ることによって、却ってライブを渇望する気持ちが大きくなったという人もいるだろう。

コロナの影響により、様々なことを在宅で行うようになったが、外に出る意味や価値がなくなったというわけではない。

価値を感じている人は、コロナが去ったら、また積極的に外に出ると良いだろう。室内のことは俺に任せろ。