漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「ストレス」だ。

我々人間はさまざまなストレスにさらされている。どんなに「悩みがなさそう」と言われる人間でも、そんな無礼なことを言ってくる奴がいる時点でストレスだろう。

  • 敗因はこの私……

我々は何によってストレスを感じるかというと、まずは身体の不調だろう。健康第一と言うように、どれだけ精神的に問題を抱えていなくても、激しく腹が下っていたり、細かく骨が折れていたりするようではストレスを感じるに決まっている。

次に、最低限の衣食住が足りていない時だ。

家がなかったり、あっても段ボール製だったり、腹が減っていたり、朝昼晩輪ゴムを噛んでいたりする状態というのは大きなストレスである。それに比べれば服がないという状態はある意味ではストレスフリーだが、そのせいで国家権力に拘束されるというのはやはりストレスである。

そして、その2つを運よくクリアできた者に待ち受けているのが「人間関係」のストレスであり、あらゆるストレスを突き詰めるとそもそもはこれが原因になっている。

だが、この時点で自分は健康で最低限の衣食住を満たしているから人間ごときのことで悩めるのだ、と思うことができる。

隣にどんなにムカつく奴がいても、内臓が破裂しているようではそれどころではないだろう、つまり人間関係のストレスを解消するには内臓を破裂させるのが一番だ。

現在、私は無職の引きこもりで人と接することがほとんどない、つまり人間関係のストレスからはほとんど解き放たれた状態だ。

その代わり無職ゆえに「衣食住」の問題とは若干向き合うことにはなってしまったが、家に屋根がついているうちはまだ悩まなくていいだろう。

では現在ストレスフリーの快適な生活を送っているかというと、実はそんなことはない。

他人と接しなくて良い、ということは他人の顔色を見たり都合に振り回されたりしなくて良いということである。

するとどうなるかというと、全てにおいて「敗因はこの私」という『スラムダンク』の田岡茂一状態になるのである。自分の生活に関わっているのは自分だけという状態は、すなわち「上手くいかないのは全部自分のせい」ということだ。

「他人にムカつく」ということが一切なくなると、自分にムカつくしかなくなるのだ。

今まで他人に向いていた注意が全部自分に向かうため、毎日自分の欠点ディスカバリーチャンネルと言っていい。

そして不思議なことに長所は発見されない、おそらく受精卵の段階で絶滅したのだろう。

このように、ストレスというものは1つ解消されればまた新しいストレスが生まれる、ドラクエのボスみたいなものなのだ。

しかし、ストレスや不安は撲滅すべき敵のように見えて、ある種の人間にとっては必要な物のような気がする。

カバンにロキソニンが入っていると安心するのと同じように、心に不安があるほうが逆に安心だという人間もいるのだ。

仮に何のストレスも不安もない状態を想像すると「明日死ぬのでは」と不安になる。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。