葬儀などのお悔やみごとは、いつ起きるか予測できません。そこで、社会人になったら、最低限のマナーを心得ておくべき必要があります。
現代礼法研究所の代表でマナーデザイナーの岩下宣子さんに教わり、社会人に必須のマナーと心得をお届けします。今回は知っておきたい「お通夜・告別式・お葬式のマナー」です。
葬儀で知っておくべきこと
――葬儀にはさまざまな宗派があると聞きます。知っておくべきことはなんでしょう?
岩下さん「まず、マナーを知る前に、『お葬式は人生最後のお別れの式であること』を意識することが重要です。お葬式というセレモニーの『主役』は誰かといえば亡くなった方です。とはいえ、亡くなった人はもう動けませんので、喪主が代わりを務めます。
喪主は、亡くなった本人の代わりに訪れてくださったお客様に応対するの人ということになります。そのため、昔は喪主は亡くなった人と同じ白装束でした。今でも歌舞伎役者などの由緒ある家や、富山県の一部などでそのような風習が残っているそうです」。
宗派どころか地域ごと、家ごとの差もあるので、すべて覚えるのは不可能です。こうした細かいことにはこだわりすぎず、故人や遺族を思いやる気持ちを第一にし、マナーや作法は二の次でよいとのこと。
お通夜、告別式、お葬式の違い
――お通夜、告別式、お葬式がありますが、それぞれの違いがわかりません!
岩下さん「お葬式とは葬儀式のこと。冠婚葬祭の『葬』で、人生最後のお別れの式で、亡くなった人がお別れするものです。告別式は大正時代にできたもので、生きている人が亡くなった人へお別れを告げる社会的な式典です」。
――それではお通夜とはどのようなものでしょうか?
岩下さん「人が亡くなると、徐々に体の細胞が活動を止めていきます。最後にダメになるのが心臓のまわりの細胞で、体の細胞が完全に活動を停止するのに24時間かかるといわれています。突然の家族の死を経験し、遺族としては『生き返るかもしれない』という望みを持っていたいわけです。そんな希望を持って過ごせる最後の24時間が、お通夜なのです。
お通夜を過ごしたけど、残念ながら生き返らなかった……となるとお葬式です。現代の葬儀は、葬式と告別式の総称のようなものになっています」。
――お通夜とお葬式ではどちらに参列するべきでしょうか?
岩下さん「訃報を受けたら、故人との関係に応じた対応を行います。親しい仲なら、最後のお顔を見てお別れを告げたいですよね? だから、お通夜もお葬式も行きましょう。
とはいえ、お通夜は『夜』とつく通り、夜(夕方)に執り行われるため会社帰りでも行きやすいですが、お葬式の場合は休暇を使う必要があります。そのため、お通夜のみに参加して、お葬式は欠席というパターンが多いです。だから、世間の認識では、お通夜イコールお葬式になっています」。
こんな時はどうする?
岩下先生のもとに寄せられる「よくある質問と回答」をまとめました。困ったら、こちらを参考にしてください。
- 焼香時のお辞儀の順番
まずは遺族、僧侶にやや深め(45度くらい)に一礼します。 そして香炉に向かい焼香し、その後遺影に向かってもっとも深いお辞儀をしてください。
- マナーや作法が覚えられず、失敗した時
難しく考えることはありません。もし自分が故人や遺族だったらどうされたら嬉しいを常に考えればよいです。もし失敗したとしても、素直に「ごめんなさい」でいいです。謝れば何も問題ありません。
- お別れの会に参加する時の服装
ホテルはお葬式以外に結婚式なども行うところです。そのため、全身真っ黒ではなくダークスーツ、ダークカラーのワンピースやツーピースなどがよいでしょう。案内時に指定があることも多いです。
- 急でネイルや髪の色が派手な時
これらは、それほど問題になりません。もともと明るい色の人や外国人もいます。ネイルもいつもきれいにしている人なら個性のうちです。派手で気になるなら、黒レースの手袋が便利です。
取材協力:岩下宣子(いわした・のりこ)
『現代礼法研究所』主宰。NPO法人マナー教育サポート協会理事長。全日本作法会の故・内田宗輝氏、小笠原流の故・小笠原清信氏のもとでマナーを学び、企業や商工会議所などでマナー指導・講演などを行う。著書に『図解 マナー以前の社会人常識』(講談社)など。