昔は「なりたい職業」上位になっていた客室乗務員。今でも憧れる女性は少なくないと思うけれど、これがいろんな意味で大変な仕事なのよ。意外に肉体労働が多く、結構ハード。珍乗客に振り回されたり、珍事件に遭遇することもしばしば。その分、お笑い系のエピソードには事欠かないのよ。というわけでここでは、昔の記憶を頼りに、スッチー時代のあれこれをつづっていくわ。

着陸態勢に入った機内、誰もいないはずのトイレに…

さかのぼること○年前。それは香港に向かうフライトでのこと。飛行機が着陸態勢に入るとアナウンスが流れ、その合図と共にクルーはキャビンのお客様の座席やテーブルを元の位置に戻したり、ギャレーのミールカートがちゃんとロックされているか、トイレには誰もいないか……といった最終の機内をチェックしてまわるわけよ。

通常だと、そのまま何もなく無事着陸へ……となるはずが、その日は後方のトイレに誰か入っているのか鍵がかかったまま。最終着陸態勢に入ってからは、お客様のトイレ使用はご遠慮するようにお伝えしてあるから、誰も入っていないはずなのに。

念のためノックをしてみると、なんと反応が! お客様がトイレに入ったままでの着陸なんてありえないし、絶対避けなければいけないこと!! 「お客様、どうかなさいましたか」と聞くと、女性の声で「出たいけど、出られないんです……」とか細い声。

一体何が起きたの? ナゼ出られないの?? 頭の中が「?」で一杯になっていると、

「便座に座った途端、おしりがすっぽりはまってしまって、取れなくなってしまったんです……」。

えー! そんなことってあり得るの!? 私のスッチー生活の中でもそれまで経験したことのない事態だったわ。ドアの向こう側で、「どんなに頑張っても取れないの」と半分泣き声のお客様。飛行機は最終着陸態勢に入っていて、ますます焦る私たちクルー!

しかし。ちょっと待てよ。

頑張っても抜けない→しっかり固定→シートベルト並に固定

ということではないの! ナイス、私!!

そこでお客様には、トイレ内の取っ手にしっかりつかまっていただくよう伝え、便器にはまったままでの着陸とあいなりました。着陸後もお客様は便器から抜け出そうと必死に格闘なさっていたわ。でもそんな努力の甲斐もなく、自力での脱出は不可能な様子。

そして、最終的にはなんと救助隊が駆けつけたわけよ。でも、プロが頑張ってもおしりは抜けず。結局、床から便器を切り離し、お客様は亀が甲羅をつけているように、おしりに便器をはめたまま飛行機から降りていかれたのよ。上品な見た目のおばちゃまだっただけに、おしりに便器をはめながら前を隠して降りていく姿は、物悲しさすら漂う光景だったわ。

イラスト: 伊東ぢゅん子

著者プロフィール

pこ
今から、ん年前、外資系某エアラインに客室乗務員として入社し、5年間国際線勤務。月のうち2/3はフライトのために海外へ。ロングステイのフライトでは、観光やグルメ、ショッピングにいそしむ日々。
ファーストフライトとラストフライトで、コックピットのジャンプシート(補助席)からみた着陸の光景は忘れられませぬ。