コラムニストの小林久乃がドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく連載企画『バイプレイヤーの泉』。

第164回は俳優の比嘉愛未さんについて。以前、他の媒体で「なぜ比嘉愛未さんは不幸な役が続くのだろう」とコラムを書いた。あんなに美しくて聡明なのに、ドラマで見かける役柄はどうも幸せな結末を迎えていない。ところが現在出演中の『放送局占拠』(日本テレビ系)の武蔵裕子役で、少し明るい日差しが見えたのかもしれない。

  • 比嘉愛未

    比嘉愛未

演じるのは辛くないのだろうか……?

これまで比嘉さんが演じていた「なぜか不幸な役」をざっくりと振り返りたい。おそらく彼女の存在が朝ドラ『どんと晴れ』(NHK総合・2007年)で知られ、次の波は『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系・2008年~)の冴島はるか役。2nd season(2010年)では医師の恋人が亡くなり、3rd season(2017年)では恋人の子どもを流産している。冴島……キツかっただろうに。『TWO WEEKS』(関西テレビ、フジテレビ系・2019年)の青柳すみれ役は、別れた恋人の子どもを出産して、シングルマザーに。

2021年も何かと役柄が大変そうだった。『にぶんのいち夫婦』(テレビ東京系)では、夫に浮気疑惑のある妻・中山文役、『日本沈没』(TBS系)では、連続ドラマ冒頭で夫に離婚を申し込んだ天海香織役。香織には新しいパートナーがいたけれど、感染症で死別している。

2024年放送『スカイキャッスル』(テレビ朝日系)二階堂杏子役は"モラ夫"に悩む妻役。探していくと枚挙にいとまがないほど、比嘉さんの役柄は不幸に揺れている。時折メディアで見かける様子はあんなに可愛いのに……。

そして現在放送中の『放送局占拠』(日本テレビ系)の第1シリーズとなる『大病院占拠』(2021年)では主人公・武蔵三郎(櫻井翔)の妻であり、医師の裕子役。作品の序盤では別居状態だった武蔵夫妻。が、まさかの夫婦で立て篭もり事件に関わり、裕子は人質となる。第二シリーズの『新空港占拠』(2024年)で武蔵一家は同居を再開して幸せに暮らしていたのに、三郎は空港での立て篭もり事件を担当、裕子は自宅で犯人に軟禁されている。

情報番組で見せた役柄への笑顔

で、当然のように……と表現すると誤解を招きそうだが、放送中の最新シリーズでも裕子はテレビ局で人質になってしまった。それだけではなく実弟の伊吹裕志(加藤清史郎)はテロ武装集団・"妖(あやかし)"のリーダー"般若"と判明。夫は警察、弟は犯人。裕子役の不幸歴もすごいところまで来てしまった。

同時に『占拠』シリーズも視聴しているのが辛くなっていた。毎週辛そうな三郎をはじめとする警察陣。武装集団も実は悲しい過去を抱えているパターンが多く、つい同情してしまう。裕子もずっと人質になるとは、三郎と出会った当時は予想だにしていなかったはず。

そんなモヤモヤに対してついに一つの答えが出てきた。比嘉さんがドラマの番宣で『DayDay.』(日本テレビ系)に出演していた際、司会の山ちゃんに(ニュアンスで)「も~、比嘉さん、すぐ人質になっちゃうから!」と突っ込まれていた。それを受けて彼女は(再度、ニュアンスで)「ねえ、ホントに」と笑っていた。このワンシーンを見て、私はこう思った。『放送局占拠』は畳み掛けるような不幸と危険を、少し笑って見ていればいいのかと。そうだ、昭和や平成初期の刑事ドラマや、戦隊モノシリーズなんて、あり得ないシーンの連続を楽しんでいたじゃないか。その延長戦だ。

比嘉さんもずっと不幸な役が続いている事実を、『DayDay.』で見せた笑顔のように仕事として消化しているのだと知って、安堵した。さまざまなタイプの俳優がいるけれど、これだけこじれた役柄が続くのは稀。ご本人はどう思っているのかと考えていたけれど、そうやら楽しんでいるのだと、ふとこぼれた笑顔で確信した。これから彼女のどんな不幸な役を見ても楽しめそうだ。今回の裕子役もどうかハッピーエンドを頼む。