コラムニストの小林久乃がドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく連載企画『バイプレイヤーの泉』。

第163回は俳優の中島歩さんについて。出演中のドラマ『愛の、がっこう』(フジテレビ系)の主人公・小川愛実(木村文乃)の(仮)婚約者・川原洋二役が話題だ。結婚を申し込みながら、ちゃっかり彼女とも別れていなかった。結婚したかったのは愛実の家柄と職業が、自分のキャリアアップにつながる目論見があるだけ。デリカシーのない発言を繰り返し、愛実の身辺調査を自ら行う。尾行だってお手のものだ。つまりクズ役を中島さんは手中にしている。そんな川原役だけを見るために、この作品を見る価値はある。

でも単に役のインパクトだけで存在感が表れているわけではない。彼を知れば知るほどあふれてくる、普通の俳優ではない情報をここらで一気にまとめてみようと思う。

誠実な夫から希代のクズへ

中島歩

中島歩

川原役がSNSで格好の餌になった理由は、今年出演した朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)で演じた主人公・のぶ(今田美桜)の夫である一等機関士、若松次郎役とのギャップも一因にある。次郎は優しさと誠実さを絵に描いたような人物で、妻を真っ直ぐに愛する姿に視聴者の心も掬われた。次郎が病で命を落とした放送回は、のぶと同じように私も悲しかった記憶がある。もう少し生きてほしかったと、親族でもないのに涙をこぼしてしまった。おそらく前出の視聴者たちの総意でもあった。

が、次郎の死から数ヶ月後、『愛の、がっこう』で演じた川原はあまりにもクズすぎて衝撃が大きかった。この世で結婚したくない男No.1になっていたのだ。次郎役で上がりまくった好感度は一気に没落。が、怪我の功名なのか川原役の強いクセのあるキャラに関心が注がれて、注目度だけは上昇。愛実の友人・町田百々子(田中みな実)に付けられた「川原なにがし」と呼ばれて、動向が注目されている。

中島さんの存在が知られるようになった2024年の冬ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)では妙なダンスを踊る教師・安森役。2025年の年初に配信された『阿修羅のごとく』(Netflix)での体と金をせびる最低男・宅間役など、ここ数年の中島さんの演技の振り幅は広い。メトロノームのように揺れている。

ブレなし、のマイペースぶり

演じる役の振り幅が広いのは、俳優であれば仕事だと割り切られてしまうだろう。ここで中島さんが抜きん出ているのは本人そのもののキャラクターだ。何ものにも動じない、ゆったりとした独特の口調を一度はテレビで目にしたことがあるだろう。

私が驚いたのは中島さんがゲスト出演した『あさイチ』(NHK総合)の回だ。以前、バラエティー番組で引っ張りだこになった、戦場カメラマンを彷彿させるような話し方をする中島さんに目が釘付け。1日の始まりや、朝の忙しさも全く感じさせない振る舞いは貴族のようだった。当日、自身が作家の国木田独歩の玄孫である告白も納得した。

その日は初夏の京都の名所を中島さんが巡るロケが放送された。朝の情報番組であれば「わ~! 可愛い!」「酸味が口に広がっていいですね」と、気の利いたコメントをしていれば番組は成立する。が、そうは問屋が卸さない。カメラワークを気にせず、ゆったり歩き、登場した食べ物を考え込みながら食している。言い換えるとものすごく真剣なのだ。中島さんのマイペースぶりにスタジオも、見ている私も笑いが絶えなかった。「この人、すごい」と感心した。そんな逸材がこの世にいると伝えたく、このコラムを書いている。

どう足掻いても分析できないキャラクターはまだまだ続く。彼が本気のバラエティー番組で芸人泣かせをする、いつか太宰治の役を演じる。そんな日を妄想しながら、次の役(振り幅)はどんな見せ方をするのかワクワクしている。