幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第132回は俳優の若葉竜也さんについて。現在出演中の『アンメット ある脳外科医の日記(以下、アンメット略)』(関西テレビ、フジテレビ系)での演技が評判、巷では「若葉竜也がついに世間にバレた」という声がちらほら。知る人ぞ知る存在だった、若葉さんについて私も追い討ちをかけるように突いてみたいと思います。

『アンメット』の刺客だったのかもしれない

  • 若葉竜也

まずはこちらも巷で話題沸騰中『アンメット』のあらすじについて。

事故による記憶障害で今日のことも明日には忘れてしまう、丘陵セントラル病院・脳外科医の川内ミヤビ(杉咲花)。彼女の婚約者だったという、同じく脳外科医の三瓶友治(若葉)が赴任してきてからミヤビの病状についても調べ始め、主治医である大迫紘一(井浦新)の診療に疑念を持ち、薬の処方がおかしいことに行き着く。三瓶の指示のもと、ミヤビの記憶は錯誤を繰り返しながら少しずつ快方に近づいていく

記憶喪失ドラマが乱立する春ドラマで、他作品とは一線を画す『アンメット』。映像の独特な質感や、出演者のあくまで自然体を汲み取ったかのような演技が視聴者の心を毎週揺さぶっている。私も常に揺さぶられている。

例えば主演の杉咲花のそばかすが見えるナチュラルなメイク。それから第2話でサッカーができなくなるかもしれない患者と、1対1で練習をするシーン。泥をかぶる一幕もあったが、泥の自然な渇き方を見ていると時間をかけて1シーンを撮影したということが伝わる。

その他にも役にはまり込みすぎて、野呂佳代の名前がどこかに吹っ飛んだ、麻酔科医の成増貴子。あえての勝気そうなメイクに、額を全面に出した吉瀬美智子の役作りが光る看護師長の津幡玲子。長台詞で噛んでしまったものの、それが「自然でいい」と採用された、星前宏太医師を演じる千葉雄大の演技。とにかく繊細で多種の要素が絡み合って、『アンメット』が作られている。

その中でも際立っているのが、若葉さん演じる三瓶友治だ。無精髭にくしゃくしゃパーマ、登場だけで「あ、喫煙者だよね」と言いたくなる風貌を従えて、三瓶先生は登場した。お茶の間……ではなく、現代風に言うのならリビングが騒ついた。

どうやら歌もうまいらしい

劇中、三瓶先生の役作りで膝を打ったのは、感情はもちろん表情ゼロで演技をしていることだ。唯一、第六話でミヤビの処方箋に手を加えていた大迫へ怒りを露にしたシーンがあった。ただ紙を床に打ちつけただけで、表情や声色が苛烈することはない。それでも三瓶の思いはテレビ画面いっぱいに響く。

さらに三瓶先生、前述の喫煙者確定というあの風貌なのに、ミヤビへの愛も半端ではない。第5話で記憶をなくしてしまうミヤビが、毎日手作りのロールキャベツを病院のスタッフに振る舞う。「毎日同じだ」と文句をつけるスタッフもいる中、何も言わずにむしゃむしゃとロールキャベツを頬張る三瓶。原作漫画によると、普段は左利きの三平先生が「味わって食べたいから右手で食べる」と、右手で食べていたエピソードもまた……。これには私も「愛だな~!」とリビングで思わずのけぞった。

「彼氏に愛してるって言われたい!」 「夫が好きだと言葉にしてくれない」

と不満を言う女性に言いたい。なにも言わずに自分を受容してくれるだけで、十分な愛なのだと……と、三瓶の罠にまんまとひっかかっている。

演じている若葉さん、どんな人なのかと検索するとご実家は大衆演劇の一座らしい。私もけしてこの分野に詳しいわけではないが、幼い頃から多数の大人に囲まれて育つという、現代人が持ち合わせづらいポテンシャルをすでに秘めている。もうこの時点で若葉さん、手強い。

ご実家の流れには乗らず、映画やドラマ、舞台というエンタメの世界に来てくれたのは『アンメット』を見ているとありがたいと思ってしまう。今回のヒットまで相当数の作品にバイプレイヤーとして出演しているけれど、よくぞ長年腐らずにいてくれた。

『杉咲花の撮休』、朝ドラ『おちょやん』、映画『市子』など杉咲さんとも共演率の高い若葉さん。老婆心ながらとてもよく似合っている二人だとお見受けするので、いつの日かそういう報道が出たら「やっぱり~?」と目をかっ開いて喜んでしまいそうだと思っていた、このコラムを書いている5月21日。まさかの翌日、二人の"そういう報道"がネットニュースで流れてきた。どうか、どうか、お幸せに!