仕事は円滑に進めたいと誰もが思いますよね。仕事上のコミュニケーションもまたしかり。互いに気持ちよく、滞りなく進めたいと願いこそすれ、わざわざ相手を不快にさせようなどとは考えもしないはず。しかし、普段から使用しているフレーズが、無意識のうちに相手を不快にさせてしまうこともあります。

「取り急ぎ」というフレーズもその一つ。「取り急ぎメールにて失礼いたします」「取り急ぎお礼まで」など、締めの一言でよく目にします。何気なく使用している人も多いフレーズですが、場面にそぐわない使用をすると相手を不快にしてしまう可能性があるので注意が必要です。

「取り急ぎ」が相手を不快にする火種に

「取り急ぎ」とは、差し迫ったことに急いで対応する状況を表します。急を要する場面で使用されることが一般的。現段階で十分な情報を伝えることはできないが、急いでいるため現状で報告できることを伝えるというニュアンスを含んでいます。つまり、「取り急ぎ」と書かれたメールは、情報が不足した状態で送られている大前提があります。情報不足のメールは、相手を不快にする火種にさえもなりかねません。

「取り急ぎ」と書かれたメールからは、また別の機会に詳細な連絡があることがうかがえます。近年、働き方の変化やコロナ禍を経て、メールが増えたと感じている人も少なくありません。相手が「初めから詳細を送ってくれればいいのに」と思えば、それが不快感につながる可能性は十分に考えられます。一度で必要な情報が得られるのであれば、それに越したことはありませんよね。同じ用件で何度もメールが届くことを快く思わない人もいるのです。

何気なく「取り急ぎ」というフレーズを使用している人からは、その後の連絡がないことも珍しくありません。情報に不足があるのなら、それを知りたいと願うのは当然のこと。相手は「いつになったら詳細を送ってくれるのだろう」とやきもきしているのではないでしょうか。忙しいから一旦「取り急ぎ」のメールをくれたのだろうと思えば、急かすのも気が引けるもの。用件が完結しないままの状態が続けば、相手がいら立ちを覚えるのも無理はありませんよね。

印象の悪化や誤解を招くリスクも

「取り急ぎ」というフレーズを使用する人は、それを多用する傾向があるのも特徴の一つ。特に返信において顕著に見られます。例えば、投げかけた質問に対して回答が得られた際に、次のような返信をすることが習慣化されているのです。

ご回答ありがとうございます。取り急ぎお礼申し上げます。

時に、メールを受信したら間髪を入れずにこうした返信をすることもあり、まるで条件反射のようなレスポンスにも感じられます。

早いレスポンスが喜ばれるとはいえ、果たして、それは本当に相手が望む対応でしょうか。質問に回答した相手は、それで疑問が解消されたのかを何より知りたいはず。疑問が解消されたことを知ればこそ安心につながるし、やりとりが完結したとも認識できます。「取り急ぎ」のお礼からはその判断がつかないため、追加の質問が来る可能性も拭い切れないままです。

情報不足を前提に送る「取り急ぎ」のメールは、相手に雑な印象を与えかねません。少し時間があれば詳細な連絡ができるはずなのに、自分への対応を後回しにしているのではないかといった誤解を招くことすら考えられます。締めの一言に「取り急ぎ」と書くことが習慣になっているとしたら見直した方が良いでしょう。

自分の気持ちよりも優先すべきは

「取り急ぎ」というフレーズが悪いのではありません。適切な場面で使用されないことが問題なのです。時には、情報不足と知りながらも連絡が求められる場面もあります。詳細な情報よりも緊急性が優先されるケースがそれです。

クライアントとの製品パンフレットに関する打ち合わせを翌日に控えたAさん。担当するデザイナーも同席の予定です。ところが、クライアントの都合で打ち合わせの日程が数日延期されることに。こうした状況であれば、次の日程を決めるより先に、翌日の打ち合わせが延期になったことをAさんはデザイナーに伝えるべきですよね。

明日の〇〇社との打ち合わせは、クライアントの都合で延期になりました。
今後の日程はあらためてご相談しますが、取り急ぎご連絡いたします。

差し迫った予定だからこそ、いち早く延期の事実を伝えることが先決。デザイナーも、空いた時間を別の業務に振り替える調整がしやすくなるというものです。

優先されるのは、単に物理的な時間だけではありません。クライアントへ納品した製品にトラブルが発見されたことを上司に報告するのであれば、発生の原因や今後の対応といった詳細よりも、まずトラブル発生の一報を伝えることが重要な場面もあります。詳細を伝えることを優先するあまり対応が後手に回ってしまえば、より大事に発展してしまう可能性も否定できません。

「取り急ぎ」とは、差し迫ったことに急いで対応する状況を表すフレーズです。緊急性が高い内容であればこそ相手も状況を受け入れ、ひとまずのメールとして理解してくれるはず。大切なのは、自分自身が急いでいる気持ちの強さではなく、客観的に見て急ぐ内容なのかどうかということ。場面に応じた適切な言葉選びが、円滑なコミュニケーションをもたらします。