転送は、自分が受信したメールをそのまま別のアドレスへ送る機能です。受け取った情報を、ボタン一つで簡単に第三者に伝えることができる。その手軽さから、ビジネスシーンでもたびたび使用されています。ビジネスメールを転送するケースとしては、主に以下のいずれかの目的が考えられます。
- 第三者へメールの対応を依頼する
- 第三者へメールの内容を共有する
仕事をする上では、社内・社外を問わず多くの人とのコミュニケーションが必要となります。メールの転送には、電話や対面と違って、受信したメッセージを相手に一字一句違わず伝えることができる、一度に多くの人に伝えることができるといったメリットがあります。ただし、そこには手軽さゆえのトラブルも。使い方を誤れば、信用の低下や、相手の不快感につながることもあるので注意が必要です。
安易な転送が信用を損ねる
ビジネスは、自社だけで完結することばかりではありません。外部の企業から商品や資材を調達する、あるいは業務の一部を委託するといったことはよくあります。「顧客・販売店・メーカー」や「顧客・広告代理店・デザイン会社」などの関係もその一例。中間に立つ販売店や広告代理店は、それぞれからの問い合わせについて確認、返答したり、双方の意向をくみ取って進行に反映させたりと、両者の調整役を担うことになります。当然、メールのやりとりも顧客ならびにメーカー(またはデザイン会社)の両者と交わすことになるはずです。
例えば、顧客からの依頼や問い合わせに対し、委託先へ何らかの対応を求める場面において、顧客からのメールをそのまま委託先へ転送しているケースを見かけることがあります。ここには重大なリスクがあることを忘れてはなりません。
受信したメールをそのまま転送したのでは、転送元のアドレスや送信者の名前は表示されたまま。これらはいずれも個人情報です。多くの場合、顧客と委託先は面識がないと考えられますので、これだけでも完全にアウト。ひどいときには、問い合わせに至る経緯など、事前のやりとりまでもが含まれた状態で転送されているケースも。メールの中には、個人情報のみならず、ビジネス上の機密情報や、親しい間柄だからこそのやりとりなど、デリケートな内容が含まれている可能性があります。原則、社外への転送はNG。万一、第三者への情報漏えいともなれば、重大な事故として扱われ、企業の信用度は著しく低下します。
調整役に求められる要約力
仮に、三者に面識がある場合や個人情報を削除したとしても、受信したメールをそのまま転送することには問題が残ります。業務の一部を委託しているのであれば、顧客からの依頼事項に委託先がすべて関係しているとは限りません。また、依頼の内容が分かりづらかったり、質問の意図が正しく読み取れなかったりするケースもあるでしょう。それをそのまま転送するのは乱暴と言わざるを得ません。調整役を担うのであれば、委託先にとって必要な部分だけを抽出したり、顧客の意図を読み取って問い合わせの内容を要約したりすることが、なすべき仕事のはず。委託先にとってみれば、メールがそのまま転送されたことに雑な印象を受けることでしょう。仕事を丸投げされたようにも感じられ、不快感を覚えるかもしれません。結果、対応品質の低下をも招く恐れがあるのです。
自分の言葉でしか伝わらない思いも
問題は社外のメールだけではありません。社内のメールであっても的外れな転送は考えもの。受信したメールをそのまま転送することには、次のようなリスクも考えられます。
人事部が企画した営業研修。研修の日時や場所、研修内容について営業マネージャーにメールを送りました。営業マネージャーが、そのメールをそのまま営業メンバーに転送し、研修の実施を知らせたとしたらどうでしょう。
営業マネージャーであれば、各営業メンバーの成長、スキルアップを望まぬはずはありません。しかし、人事部からのメールをそのまま転送する方法では、その思いがメンバーに伝わるのか甚だ疑問です。捉え方によっては、人事部に言われて動いているだけ、あるいは人事部の伝言板としか映らないかもしれません。本当にメンバーの成長を望むのであれば、人事部からのメールを受けて、研修の目的や期待することについて、自分の言葉でメンバーに伝えるのがより良い選択のはず。それでこそ営業マネージャーの役割を果たしていると言えるでしょう。
メールの転送機能は、いわば人の言葉を借りて伝える機能にすぎません。ビジネスメールでは、ただ情報を伝達するだけではなく、より高度なコミュニケーションが求められるケースもあります。そのためには、送られた情報を整理したり、相手の意図を読み取って要約したりする力も必要です。時には自分の言葉で伝えることこそが、相手の心に響くことも。それこそが仕事をより円滑に、効果的に前に進めることにつながるのです。