悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、細かすぎる上司に悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「細かすぎる上司とうまくやる方法は?」(54歳男性/IT関連技術職)
上司について「細かすぎる」と感じるのだとしたら、それは「価値観や考え方が噛み合わない」ということになるでしょう。もちろん、実際のその上司には細かすぎる部分があるのかもしれません。が、それ以前に両者はいろいろなことが違う。だから、すれ違ったりぶつかったりしてしまうのではないでしょうか?
だとすれば、まずは"違い"の存在を認めるところから始めるべきでは?
なにしろ"違う"のですから、慣れないうちはいろいろなことが気になり、イラついてしまうことだってあるはずです。けれども他人同士である以上、ある意味では噛み合わなくて当然。
互いに違う個性を持っているからそうなるのです。そこで、「そういう人なんだ」と受け入れることがいちばん大切なのではないかと思うのです。相手が上司であるなら、なおさらのこと。
でも、やってみれば難しいことではなく、ひとたび受け入れる体制ができてしまえば、いつか必ず慣れてしまうのではないかと思います。
いつか時間が解決してくれるというか。
無責任な発言だと思われてしまうかもしれませんけれど、実際のところ、そういうものだと僕は考えるのです。
さて、ビジネス書の著者は、この問題にどう答えてくれるのでしょうか?
きちんと知り合うためにまずは自己開示を
問題の淵源は、「上司と部下は、辞令によって同じ会社の同じ部署でたまたま出会った関係」である、というところにあります。何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、そのことは、上司と部下とのすれちがいを防ぎコミュニケーションをいかに改善するかと、いうテーマに取り組むにあたって、最初にしっかり認識しておく必要がある、と私は思います。(52ページより)
『上司と部下は、なぜすれちがうのか 本音を伝え/引き出す 仕組みと方法』(本田英貴 著、ダイヤモンド社)の著者の考え方にも、僕の上記の主張と共通する部分があります。
上司も部下も、自分から望んでその部署のその役割についたわけではありません。つまり、そこにすれ違いのスタートラインがあるのではないかということ。
同じ会社に所属してはいるものの、そもそもお互いのことをきちんと知っているわけではないのです。しかし、たまたま上司と部下という関係になり、同じ目標に向かって力を合わせていこうということになったのであれば、きちんと知り合う必要性は間違いなく生じます。
そんな関係を著者は、「会社の意向で、たまたま『一緒に住んでね』といわれた疑似家族のようなもの」と表現していますが、だからこそ意識的に行動する必要があるわけです。
では、そのためにはどうすればいいのでしょうか?
それには、まずは「自己開示する」ということが必要です。上司に求められるのは、まず自分のことを知ってもらうという努力です。自分の考え、仕事への思い、これまでのキャリアや人生、趣味や嗜好を含めたプライベートな情報など。何も、それを一度に詳らかにせよというわけではありませんが、対話を重ねながらそれらを相手にきちんと伝えていくことが望ましい。自分にまつわるさまざまな情報を公開することによって「わからない生き物」でなくなって初めて相手の心は開かれます。(54〜55ページより)
著者は「部下に対する上司の姿勢」としてこのように主張しているのですが、同じことは「上司に対する部下の姿勢」にもあてはまると思います。噛み合わなかったりすれ違ったりしてしまうのは、いってみれば情報が不足しているからです。
部下である自分についての情報が上司に伝わっていないから、上司は自分の考え方を部下に当てはめようとしてしまう。その結果、ご相談のように部下は上司のことを「細かすぎる」と感じたりしてしまうのではないでしょうか?
それを防ぐためにも、お互いが自身の情報を開示し合い、「こういう上司なのか」「こういう部下なんだな」と歩み寄っていく。そうすれば誤解は少しずつ溶けていき、(なにしろ"違う人間"なのですからピッタリ噛み合うことこそないにせよ)お互いを理解し合えるようになっていくはずです。
上司のビジョン・目標を理解する
『できる人がやっている上司を操る仕事術』(近藤悦康 著、PHPエディターズ・グループ)の著者は、多くの企業のコンサルティングや、各種セミナー、ワークショップなどを企画・運営しているという人物。
職業柄、部下の立場にある人から上司に対する不平不満を打ち明けられることも少なくないといいます。
そうした相談を持ち掛けられる度にアドバイスするのが、いかに上司の指示命令に忠実に従うかという視点で物事に対処していては、いつまで経っても負のスパイラルから抜け出せないということです。そうではなく、自分が上司を操るという視点で接することができるようになると、上司からの信頼を得られるばかりか、社会人として一回りも二回りも成長することができます。(「はじめに」より)
経験も役職も自分より上にある上司に対し、そんなことできるはずがないと思われるかもしれません。しかしそれは、出世する人や、楽しんで働いている人、すなわち成果を出している人であれば、誰もがやっていることでもあるのだそうです。
そこで本書では、上司を操ることで自分を成長させ、幸せに働くための秘訣を紹介しているわけです。
たとえば著者は、上司のビジョンや目標を理解することの重要性を説いています。自分は努力しているつもりだし、それなりの成果も出している。にもかかわらず、上司からの評価が高くないのだとすれば、それは上司のビジョン・目標をきちんと理解していないからかもしれないというのです。
会社、部署、チームに所属するメンバーの仕事は、リーダーが持っている目標を達成すること。したがって、上司がいま、つくり出したいと思っていることや課題に感じていること、さらには3年先、5年先を見据えて考えていることを、部下も知っておくべきだという考え方です。
知っていれば、「自分はどんなふうに役立てるか」、あるいは、「どういうことをすればその目標に近づけるか」という考えが浮かび、提案できます。上司の側からするとそうしたことを理解し、提案してくれれば、やはり願望に入りやすくなります。(56ページより)
そこで大切な意味を持つのは、通常の朝礼やミーティングに加え、1 on 1ミーティング(面談)や同行指導、食事の席など、さまざまな場面で「自分はどんなことを期待されていますか?」、「どんなことをすれば貢献できますか?」といったことを聞いていくこと。つまり、期待されているであろう役割を正しく認識するのです。そうすれば、「細かすぎる」という上司の背後にある本質が見えてくるかもしれません。
なお、面談をしてもらう際には、次の3点に留意すべきであるようです。
(1)面談は定期的に行うようにして、進捗状況や自分の期待役割に変化はないかを確認しながら進めていく。
(2)期待役割を理解したら、いつまでに何をどのくらいすれば「成功」という評価になるのかという基準を、具体的に上司に確認しておく。
(3)上司のプライベートでの目標や夢も聞いておく。その人に対する見方も変わってくるし、それにつながる情報を自分がキャッチアップしやすくなる。お互いに叶えたい未来を応援し合える関係になれたら、その組織は強くなる。(57ページより)
これらを確認しあうことで、単なる上司と部下が「欠かせないパートナー」という位置づけになっていくということです。
もしかして「クラッシャー上司」?
ところで、決して多くはないかもしれませんが、部下を悩ませる原因が上司の人間性にあるということも考えられなくはありません。つまり、上司自身も気づかないうちに部下を傷つけているというケースもありうるということ。
具体的にいえば、一時期話題になった「クラッシャー上司」もそうしたタイプだといえるでしょう。「部下を精神的に潰しながら、どんどん出世していく人」のこと。そんな人が上司だったとしたら、部下としては対応策を考える必要に迫られてしまうわけです。
では、どうすればいいのか?
『クラッシャー上司』(松崎一葉 著、PHP新書)の著者は、クラッシャー上司を理解することも重要なポイントであると主張しています。そしてまずは、クラッシャー上司がなぜ暴れているのかを理解する必要があるともいいます。
彼らが常軌を逸した行動をとる理由は、鈍感さと、憂さ晴らしだ。
憂さを晴らしたい気持ちの背後には、情緒的不安定性がある。彼らは、どんなに偉そうで、自信たっぷりな様子をしていても、その実は小心者であり、臆病者でもあり、不安と焦燥感にいつもかられている。
その不安定な人間が、自分にとって気に食わないことが起きると幼児退行してハラスメントを行う。あるいは他人に共感ができない、コミュニケーション能力に乏しい人間なのである。(176〜177ページより)
今回のご相談のケースにあてはまるかどうかについてはわからない部分がありますが、とはいえこれは無視できないポイントだともいえます。もしも上司にそのような側面があるのだとしたら、「そんなしょうもない人間である」と捉えることも無駄ではないはずだから。
たとえ仕事ができたとしても、そういう上司は未成熟な人間なのです。そう認識するだけでも、気持ちは楽になるのではないでしょうか?