悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、仕事で効率的に成果を出すためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「効率的に成果を出せと言われるが、うまくいかない」(30歳男性/事務関連)
組織から効率や成果を求められるのは当然の話。ましてや働き方改革や、コロナ禍に伴うリモートワークの浸透もあり、成果主義がさらに浸透している時代でもあります。
とはいえ、人間はやはり人間です。得意分野は人によって違いますし、ペースもまた人それぞれ。にもかかわらず判で押したように「効率的に成果を出せ」と求められても、思うようにいかないことだってあるわけです。
では、どうすればいいのか?
この問題について考えてみたとき、昔ある人からかけられた助言を思い出しました。
「文句をいわせないようにすればいい」
上司から文句をいわれたとか、そういうことで悩んでいたときだったと思いますが、相談をした相手からこういわれたのです。
文句をいわれるのは、"文句をいわせる余地"を与えているから。つまり自分に隙があるからだということで、ならば隙を埋めればいい。隙がなければ文句は出ないのだから。
もちろん簡単なことではないでしょうが、でも、たしかにそのとおりだと思いました。
おそらく、このご相談についても同じことがいえるのではないでしょうか? だいいち、そう考えた方が建設的ですし、なにより気持ちが楽になるはずです。
いいかえれば あえて開きなおり、いまある状況をゲームのように楽しんでしまうべきではないかということ。ビジネス書のなかから、そのための手段を探し出してみましょう。
幅広い知識と決断力が仕事を早くする
仕事のスピードアップをはかるべく、作業効率を上げるためのツールを試してみたり、To Doリストの新たな運用方法を模索するなど、いろいろ試行錯誤した経験のある方もいらっしゃることでしょう。
もちろん、そういう細かな努力も大切です。しかし『リクルートに会社を売った男が教える仕事で伸びる50のルール』(松本 淳 著、フォレスト出版)の著者は、「根本的な仕事のスピードはそれだけでは変わらない。いいかえれば、『仕事が早い人=仕事術に長けている人』ではない」と断言しています。
仕事の速さは、小手先のテクニックではなく、その人の「基礎力」で決まるのだと。
「仕事のスピードを上げる」ということは、1つ1つのプロセスのクオリティを上げていくということ。そのためには、短期的に仕事のスピードを上げるのとは一見関係ないように見える「基礎力」を上げることが必須となる。(32ページより)
ここでいう「基礎力」として著者が挙げているのは、「(浅くてもいいので)幅広い知識」と「割り切る力、決断力」。
まずは前者について。全体的な仕事のスピードを上げるために必要なのは知識の深さではなく、多岐にわたる分野の「ごく基本的なこと」だけでも知っているという"知識の広さ"だというのです。
幅広い分野の知識を持っていると、仕事の中で何か不明なことが発生した場合、その解決が早い。「どうすればその解決方法が得られるか?」のメドをつけやすいからだ。(33ページより)
仕事のスピードアップを妨げるのは、「どうしたらいいかわからず、迷走している時間」。したがって、ある領域に関して少しでも知見があることが大きな意味を持つというわけです。
一方、後者については、「仕事の進捗を妨げるもうひとつの大きな敵」として、「いつまでも迷ってしまうという優柔不断さがある」と指摘しています。
少しでもよい選択をすることは大切だけれども、判断のための熟慮が一定以上の時間を超えると、時間をかけてもあまり意味をなさなくなってくるということ。そのため勇気を持って、ある程度のところでまずはどんどん「決めて」いく必要があるわけです。
それには、「何かを捨てる」勇気が必要。可能性を残しておこうとしてすべてを大事にしすぎると、膨大な時間を消費することになる。いらないものは思い切って捨て、大事なものだけに集中する姿勢は、仕事のスピードアップには欠かせない要素だ。(34ページより)
これ以外にも仕事のスピードを上げるための「基礎力」は存在するでしょうが、いずれにしても本当の意味で仕事を早くするためには、それらの能力をあげていくべきだということ。結局は、それがスピードアップへのいちばんの近道だというのです。
紙1枚にメモをとって整理・整頓する
次に進みましょう。『神メモ 紙1枚で人生がうまくいくメモの技術』(原 邦雄 著、すばる舎)の著者は、仕事の効率化をはかるための手段として「メモをとる」ことの重要性を強調しています。
メモをとるのは特別な手段ではなく、むしろあたり前のことだと感じるかもしれません。しかし、走り書きをした結果、あとから字が読めなかったというのでは無意味。それどころか、書きっぱなしの自己満足で終わってしまう可能性すらあります。
重要なポイントは、メモによって「全体像」を描くこと。全体像が見えていれば、なにを優先すべきかという「優先順位」が明確になってくるわけです。
だからこそ活用したいのが、紙1枚のメモ。やるべきことを書いておけば、優先順位がはっきりします。すると時間を効率よく使うことができるようになり、余裕が生まれ、空いた時間を好きなことに使えるようになるのです。(26ページより)
著者自身もメモを使い始めてから、タスクを取りこぼすことがなくなり、驚くほど時間の余裕を手に入れることができるようになったのだそうです。
ちなみに著者はメモを書く場合、どこにでもあるコピー用紙を使っているのだとか。そしてポイントは「1枚」にすること。
理由は紙1枚にすることで、「整理」と「整頓」の両方ができるからです。
整理整頓という言葉がありますが、「整理」と「整頓」は違います。
・整理……要るものと要らないものを分け、要らないものを捨てること
・整頓……要るものを誰でもすぐに出せるよう、秩序立てて配置すること
(37ページより)
紙1枚にまとめようとすれば、必然的に「整理」することになるはず。不要なものをそぎ落とさなければ、1枚には収まらないからです。さらに1枚にまとめておけば、どこになにが隠れているかが一目でわかるため、結果的に「整頓」になります。
したがって、メモを最大限活用するには「整理」と整頓」の両方が欠かせないということです。
しかも「1枚のメモに情報を集約させる」と決めておけば、1枚を見るだけですべてがわかるので楽。また、あとから自分が見たときに「ああ、このことか」とわかればいいだけなので、1枚のメモに書くのは項目や概要のみで十分。
そんなところからも、手間をかけずに大きな効果が得られるメモの効能を理解できるのではないでしょうか?
理想的な1日の時間割をつくる
忙しすぎて、何からやっていいのかわからない。
やることはたくさんあるのに、あれこれ考えすぎて動けずに多くの時間をムダにしたことがある。
「やりたいこと」「やるべきこと」をする時間がない。
将来のことを考えている余裕がない。
(「まえがき」より)
『すぐ動けない人のための時間割仕事術』(藤井 孝一 著、朝日新聞出版)は、そんな人たちのために書かれているのだそう。いずれも共通するのは「時間を自分のものにしていない」、すなわち時間を主体的にマネジメントできていないということ。
大切なのは、理想的な1日のイメージを持つことだといいます。そのため、「時間割」をつくることが重要だというのです。ちなみに著者のようにグーグルのカレンダーを利用すれば、とても簡単にできるそうです。
大事なことは理想型を持っていることです。家を建てるのにも、設計図があります。同じように人生にも設計図があってしかるべきだと思います。
設計図もなく、やみくもに柱を立て、釘でトンカチやっていても、思っていたとおりの家は建ちません。それと同じで毎日漫然と生きていても「自由で幸せな人生」は手に入らないのです。 1日の理想型は、「こうなりたい」という人生の完成形に向けての設計図です。
時間割は、それを形にしたものといえるのです。(50ページより」より)
先の人生までをも見据えた時間割をつくっておけば、必然的に日々の作業効率も上がるはず。ノウハウがわかりやすく解説された本書を参考に、自分の時間割をつくってみるのもいいかもしれません。