野球ファンの間でも賛否がある「チャレンジ制度」とは

今シーズンからメジャーリーグで導入されることになった、ビデオ判定による「チャレンジ制度」。同制度により、これまで本塁打判定に限っていたビデオ判定の対象が、「セーフかアウトか」などのプレーにまで広がった。各チームの監督はビデオ審議を求める「チャレンジ」の権利を持ち、抗議が正当で判定が覆った場合はもう1回、試合中にチャレンジをする権利が得られる。ニューヨーク・ヤンキースのイチローが度々、ビデオ判定の対象となって日本でも話題になっているが、今回は「チャレンジ制度」の是非について触れてみたい。

イチローへの「チャレンジ」からヤンキースが逆転勝利

日本時間4月5日、ヤンキースに移籍した田中将大のメジャー初登板試合となった、対トロント・ブルージェイズ戦。2-3とヤンキース1点ビハインドの3回表に、そのプレーは起きた。7番・イチローの打球が高く跳ね上がり、セカンド塁上付近へ飛んだ。ダッシュで突っ込んできた二塁手が取ってから矢のようなボールをファーストへ送球。きわどいタイミングだったが、判定はアウトだった。

この一塁塁審のジャッジに、ヤンキースの指揮官、ジョー・ジラルディはベンチから駆け寄ってきて、「チャレンジ」を要求。リプレーされたビデオ映像には、ファーストミットにボールが収まるよりも早くベースを駆け抜けたイチローの姿がはっきりと映し出されており、判定は覆ってセーフとなった。

2死1、3塁からプレーは再開され、続く選手が逆転の2点タイムリーを放つ。リードをもらった田中は、その後をすいすいと投げきり、7回3失点でメジャー初勝利をマークした。

ファンは好感持つも、元プロは懐疑的

この試合でイチローの判定が覆った直後、ツイッター上では「チャレンジ制度」に関するさまざまなつぶやきが見られた。

「イチローの2打席目のビデオ判定は良かったですね。日本ではまだ認めないですが……ミスを認めるのは(審判への)信頼度が増します」「イチローの内野安打のビデオ判定めっちゃでかかった」などの容認派が目立ち、「チャレンジ制度自体知らなかった日本人多かったと思うけど、イチローがその恩恵を受けたことで知名度は急上昇するんじゃないかな」という声もあった(すべて原文)。

ただ、元プロ野球選手の間では消極的な意見が多いようだ。5日の試合の解説を務めていた田口壮は「チャレンジ制度」に対しての評価を「難しい」としており、張本勲や高橋慶彦は日本のアンパイアの高い技術を理由に、プロ野球では現状のまま(本塁打のみビデオ判定)が好ましいとの見解を示している。

「審判を含めて野球」の観点からすれば……

この「チャレンジ制度」については賛否あるだろうが、個人的にはあまりいいものとは思っていない。その理由は、多くのプロ野球選手に共通している考え方ではあるが、やはり「審判を含めて野球」という思いがあるからだ。野球規則にもあるように、大原則は「審判員の判断に基づく裁定は最終のもの」なのである。

「チャレンジ」の度に判定が覆ったとしたら、アンパイアの権威も地に落ちる。そうなってしまったら、野球という競技が本質的な部分で成り立たなくなってしまうような気がしてならない。ファンも最初のうちは物珍しさもあり歓迎するかもしれないが、試合中に頻発されてしまったらゲームへの興をそがれるだろう。

さらに、勝手な推測ではあるが多くのファンは「グレージャッジ」について侃侃諤諤(かんかんがくがく)することが好きなのだと思う。球場や居酒屋でビール片手に、ひいきチームの選手のプレーに対して、「セーフかアウトか」「ホームランかファウルか」と管を巻く。それも「野球」がもたらしてくれる醍醐味(だいごみ)の一つであると考えている。常に正確なジャッジを追い求める「チャレンジ」によって、「完璧」にアウトかセーフがわかってしまったら、その楽しみが減ることになる。

セーフかアウトかの判定一つに生活、へたをすればプロ野球人生がかかっている選手からすれば、ありがたい話であろう「チャレンジ制度」。ただ、一野球ファンからすると、まだ日本では見たくないというのが本音なのだ。                 (敬称略)

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