こんにちは。ファイナンシャルプランナーの中山浩明です。近年、結婚や出産時の年齢が高くなる傾向にあります。連載『晩婚者のためのマネー術』では、そうした"晩婚化時代"に応じる形で、晩婚の方々を対象にした"マネー術"について解説したいと思います。


2015年1月より、70歳未満の高額療養費が改正されています。今回の改正により、医療費の限度額を決めるときの所得区分が、3段階から5段階に変更。高所得世帯は限度額が引き上げられ、低所得世帯は限度額が引き下げられました。

事前の手続きで、窓口での負担も限度額までに

例えば、ある月の医療費の自己負担額が105万円だったとしましょう。さすがに105万円は大金なので「高い」と健康保険組合などに泣きつきます。一般的な所得者の場合、限度額は11万2,430円です 。これは11万2,463円戻ってくるという話ではなく、105万円との差額(つまり約94万円)が高額療養費として戻ってくるという話ですから、相当に助かる制度といえるでしょう。

高額療養費として還付を受けるためには、健康保険組合などへの申請が必要です。還付にはおよそ3カ月程度かかるので、病院窓口でいったん立て替え払いをし、3カ月後に健康保険から差額が振り込まれるとイメージするとよいでしょう。

中には「94万円戻ってくるとはいえ、いったんは105万円を立て替えるほどの十分な貯蓄がない」という方もいらっしゃるかもしれません。そんな時は、病院で治療を開始する前に、加入している健康保険組合などから「限度額適用認定証」を交付してもらうとよいでしょう。これを健康保険証に添えて病院の窓口に提出をしておくと、病院窓口での請求されるのは限度額までとなり、立て替え払いをする必要がありません。

なお、限度額適用認定証は、協会けんぽに加入されている方の場合、各支部に申請をします。申請は直接出向かなくても郵送でできますので、健康なうちから申請書を入手し、必要箇所を記入しておくとイザというときの備えになります 。

図1:限度額適用認定申請書

所得区分と限度額が細分化

2014年12月末までは、高額療養費の限度額を判定するための所得区分は3段階でしたが、2015年1月1日からは5段階に変更されました。なお、今回の改正は70歳未満の方が対象で、70歳以上の方の高額療養費については従来どおりの所得区分となります。

改正前の所得区分と限度額(70歳未満)

表1:70歳未満の高額療養費制度の月の限度額(2014年12月以前)

改正後の所得区分と限度額(70歳未満)

表2:70歳未満の高額療養費制度の限度額(2015年1月以降)

改正後の所得区分を便宜上、(ア)~(オ)としました。これまで「上位所得者」に該当していた方は(ア)(イ)に区分されました。(ア)の限度額は25万円を超えることになり、10万円以上引き上げられています。また、(イ)の限度額は約17万円を超えることになり、2万円ほど引き上げです。ご覧のように、高所得世帯については、医療費の自己負担が増える可能性がありますので、この機会に企業内保障や私的保障など、ご加入中の医療保障を確認し、不安があれば保障内容や金額について充実を図られるとよいでしょう。

一方、低所得世帯の限度額は引き下げられています。これまで「一般所得者」に該当していた方は、(ウ)(エ)に区分されました。(ウ)の限度額は従来と同じ約8万円以上ですが、(エ)に該当する方の限度額は57,600円以上となり、2万円ほど引き下げられています。また、(エ)については医療費の1%の自己負担もなく、月57,600円を超えることはありません 。

従来の所得区分では、一般勤労者で住民税非課税世帯に該当するというケースはまれでしたので、今回の改正により(エ)に該当する人は朗報といえるでしょう。

標準報酬月額を把握する方法

協会けんぽや健康保険組合の場合、(ア)~(オ)の所得区分の判定は、標準報酬月額で行います。標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金保険の保険料や給付額を算定するときの基準となる給与月額です。ざっくりいえば「その年の4月・5月・6月の給料の平均」と考えればよいでしょう。標準報酬月額は入社時と年に1度の定時改定があり、9月から翌8月までを1年度として原則1年間固定されます 。

ご自身の標準報酬月額は給与明細から簡単に知ることができます。まず、給与明細における健康保険料の控除額を確認します。健康保険料の控除額を、ご自身が加入する健康保険組合などの保険料率(労働者負担分)で割り算すると、標準報酬月額がわかります。

東京都協会けんぽの場合、2014年度の保険料率は9.97%です。保険料は事業主と折半して支払いますので、労働者負担分は4.985%です。仮に、給与明細に記載されている健康保険料の控除額が11,964円だとすると、11,964円÷0.04985=240,000円が標準報酬月額となり、所得区分(エ)に該当することがわかります。

健康保険の保険料率がわからないときは、厚生年金の保険料率で求めることも可能です。2014年度の厚生年金保険料率は17.474%です。やはり事業主と折半して支払いますので、労働者負担分は8.737%です。計算方法は先ほどと同じです。ただし、厚生年金の標準報酬月額は62万円が上限のため、(ア)の区分に該当するかどうかは判定できません。

高額療養費の付加給付(企業内保障)も確認を

健康保険組合によっては、高額療養費の上乗せ給付(付加給付)を設けていることがあります。例えば、パナソニック健康保険組合の場合、自己負担の限度額は25,000円と設定されており、それを超えて支払った自己負担は一部負担還元金として払い戻しされます。こうした付加給付についても、今回の高額療養費の改正にあわせて変更されている可能性がありますので、ご自身が加入する健康保険組合に確認されることをお薦めします。

執筆者プロフィール : 中山 浩明(なかやま ひろあき)

株式会社アイリックコーポレーション『保険クリニック』ファイナンシャルプランナー(CFP認定者/DCプランナー) マネー関係 セミナー講師。大学卒業後、ゴルフクラブの職人、パン屋経営と異色の経歴を持つ。2000年にファイナンシャルプランナーとして活動開始、マネー関係のセミナー講師として活躍、これまで500回以上のセミナーを開催。現在『保険クリニック』教育部に所属、保険コンサルタント指導とマネーセミナーの講師担当。専門分野は年金、保険、資産運用、ライフプラン。セミナーでは、お客様の立場で「お金の使い方を知ること」の重要性を唱える。

セミナーHP→http://www.hoken-clinic.com/seminar/

『保険クリニック』HP→http://www.hoken-clinic.com/