お盆には親族で集まって法要を行なったり先祖のお墓参りに行ったりする方も多いと思いますが、法要の際に利用する「仏壇」や先祖の「お墓」はどのようにして相続されるのかご存じでしょうか?
実は、お墓や仏壇は「祭祀財産(さいしざいさん)」と言い、一般の相続財産とは異なる取り扱いを受けます。遺産分割協議によって祭祀財産を承継することもありません。また、いったん祭祀財産を承継した人が「離婚」すると、そのままにはしておけず祭祀主宰者を変更すべきケースもあります。
本稿では、お盆に向けて知っておきたい「お墓の相続」に関するルールを弁護士がご説明します。
お墓は「祭祀財産」
一般に、人が亡くなって相続が発生すると、「法定相続人」が「遺産相続」します。法定相続には民法上のルールがあり、配偶者は常に相続人となりますし、その他の相続人には順位があります。第1順位は子ども、第2順位は親、第3順位は兄弟姉妹となっており、それ以外の親族には相続権が認められません。
しかし、お墓などの財産にはこうした法定相続のルールが適用されません。これらの「先祖をまつるための財産」は「祭祀財産」と呼ばれ、民法上特殊なルールが適用されます。
祭祀財産に含まれるのは、以下のような財産です。
・仏壇、仏具
・神棚
・お墓
・系譜、家系図
・祭具
祭祀財産は「法定相続人」が「遺産分割協議」によって分割することもできません。
祭祀財産の承継方法
では、お墓などの祭祀財産は誰がどのように相続するのでしょうか?
民法は、祭祀財産を「祭祀承継者」が承継すると定めています。祭祀承継者とは、被相続人の死後に法要やお墓の管理をしていく人です。
祭祀主宰者は基本的に1人であり、その家におけるすべての祭祀財産をまとめて承継します。祭祀財産は祭祀を行うのに必要なので、祭祀主宰者が全部承継することが好ましいとの考えです。
祭祀承継者の決め方
それでは、祭祀承継者はどうやって決めれば良いのでしょうか? 法律が定める祭祀承継者の決め方に関するルールは以下の通りです。
・慣習によって定める
・被相続人が指定していた場合、指定された人が祭祀を承継する
・これらの方法で決められない場合、家庭裁判所が指定する
原則的には、地域やその家の慣習によって祭祀承継者が決まります。
ただし被相続人が次の祭祀承継者を指定していた場合には、その内容が有効となります。指定の方法には特に決まりがなく、遺言であってもかまいませんし口頭や遺言以外の書面による指定も有効です。
被相続人による指定もなく慣習によっても決められない場合には、「家庭裁判所」が指定します。
祭祀承継者指定調停・審判について
祭祀承継者を決める方法のひとつに「家庭裁判所が指定」とありますが、具体的にどのようにすれば裁判所が祭祀承継者を決めてくれるのでしょうか?
何もしないで待っていても、裁判所は祭祀承継者を決めてはくれません。家庭裁判所に決めてもらうためには、関係者が自分で「祭祀承継者指定調停」を申し立てる必要があります。調停の相手方は、他の親族(祭祀承継者になり得る人)です。調停を申し立てると、裁判所の調停委員を介して「誰を祭祀承継者とするか」話し合うことになります。合意できれば調停で祭祀承継者を決めることができます。
話し合いがまとまらなければ「審判」となって、裁判所が次の祭祀承継者を指定します。
離婚と祭祀承継
いったん祭祀を承継しても「離婚」すると問題が発生する可能性があります。民法は、次のような規定を置いています。
769条(離婚による復氏の際の権利の承継)
婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第897条1項の権利(祭祀に関する権利)を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。
つまりいったんは祭祀を承継したとしても、離婚すると再度親族同士で協議して祭祀承継者を決め直さないといけないのです。
■離婚による祭祀承継者の決め直しの具体例
離婚によって祭祀承継者を決め直さなければならないのは、例えば以下のようなケースです。
鈴木太郎さんが田中良美さんと結婚して婿養子に入り、田中太郎となりました。その後田中良美の父が死亡して婿養子である田中太郎が祭祀を承継しました。ところがその後、太郎と良美が不仲となって離婚し、田中太郎は鈴木太郎に戻りました。
このとき、鈴木太郎が田中家の祭祀を主催しているのはおかしいので、田中家の者と話し合って祭祀の引き継ぎをしなければなりません。
■離婚によって祭祀承継者を決め直すべき理由
なぜ離婚したら祭祀承継者の決め直しが必要なのでしょうか?
それは、離婚すると「その家の人ではなくなる」からです。特にこの問題は「姓が変わった」ときに大きな問題となります。
法律は「祭祀は姓を同じくするものが継ぐべき」という考えを持っています。つまり、離婚によって復氏(旧姓に戻ること)して、祭祀を主催している家の姓と異なる状態になったら、もはや祭祀をさせるべきではないと考えているのです。
そこで民法は、離婚してその家のメンバーではなくなったら、その家の他のメンバーと話し合いをして祭祀承継者としての地位を譲るべき、と規定しています。
祭祀承継は「家制度」の名残
このような法律の規定内容からわかることですが、祭祀承継の制度は戦前の「家制度」の影響を受けています。
昔は家を継ぐ人(長男など)がすべての財産を継いでいました。今は法定相続人が法定相続分に従って分割する方法に変わりましたが、祭祀財産については相変わらず「1人の祭祀承継者」がすべての祭祀財産を引き継ぎ、「家」を出たら祭祀承継者としての地位を返上すべきとされています。
誰もお墓を継ぎたくない場合、どのように対応すれば良いのか
このような古い感覚とも思える祭祀承継の制度は、だんだんと現代には合わなくなってくるでしょう。最近では、「そもそもお墓を管理したくない、継ぎたくない」という方も多いですし「お墓を管理する人がいない」という問題も発生しています。昔は「先祖のお墓を放置する」など考えられもしなかったでしょうから、ずいぶんと意識が変わっています。
実際に「お墓を継ぐ人がいない」「誰もお墓を継ぎたくない」場合に祭祀承継者を決めるには、どのように対応すれば良いのでしょうか?
被相続人による指定も慣習もないのであれば、「家庭裁判所に指定」してもらうしかありません。
自分が祭祀承継者になりたくないなら、他の親族などを相手取って家庭裁判所で祭祀承継者指定調停を申し立てて、調停で話し合うことになります。誰も祭祀承継者になりたくないのであれば、裁判所に祭祀承継者を決めてもらう必要があります。
墓じまいする方法もある
法律では「祭祀はあくまで承継していくもの」「承継者を決められないなら裁判所が指定してでも決めるべき」という考え方をしています。
しかし現代では、お墓の管理が負担となって誰も管理しなくなったり、そもそもお墓を継ぐべき人がいなかったりする事態が数多く発生しています。祭祀承継者指定調停を申し立てる人すらいない場合もあるでしょう。
そのようなときには、「墓じまい」を検討すべきです。墓じまいとは、お墓からお骨を取り出して永代供養等に出し、お墓から魂を抜いて墓石を撤去して、霊園に墓地を返却することを指します。
このようにしてお墓をなくしてしまえば、それ以後誰もお墓を管理する必要はなくなります。仏壇や仏具についても誰かが承継できれば良いのですが、どうしても保有し続けることが難しければ魂を抜いて処分することが可能です。
祭祀承継者についての制度は、法律ができたときの考え方と現代の考え方が合っていない部分もあり、現代人としては戸惑うこともあるでしょう。もめてしまったときや対応に迷われたときには、お気軽に弁護士までご相談下さい。
執筆者プロフィール : 弁護士 松村 茉里(まつむら まり)
第二東京弁護士会所属。京都大学法学部卒業。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて、主に相続分野を取り扱う。交渉・調停・遺言作成等幅広い相続案件に従事しており、セミナー活動・執筆活動も行っている。NPO法人相続アドバイザー協議会認定会員、「家族で話すHAPPY相続」を執筆。事業承継スペシャリストの資格も有する。