日本各地の空港でコンセプトの見直しや改装が進み、単に飛行機に乗る施設から、遊んで、食べて、楽しめる場所へと様変わりしている。日本の空港が様変わりしている背景には、東京2020大会への対応や増え続ける訪日外国人旅行者の玄関口の設備を充実させる目的もあるが、それだけではない。この連載では、そんな変わりゆく空港の今を紹介していきたい。
下モノと上モノが分けられていた頃
空港改革の原動力は、東京2020大会や訪日外国人需要のほかにも、空港が旅行者や航空ファンにはもちろん、その地域の人々など広く一般に楽しめる施設だという意識の高まりも関係している。
ちょっと例を挙げてみると、福岡空港や大阪空港(伊丹空港)には新しいレストランやショップがオープンし、7月から始まる成田空港の改装では第1・第2ターミナルに広さと明るさが増す。さらに、中部空港(セントレア)には同じく今夏、新鋭機ボーイング787の展示・体験型空間「FLIGHT OF DREAMS(フライト・オブ・ドリームズ)」が誕生。ボーイング社のあるアメリカ・シアトルをコンセプトにしたエリアも造られる。とても一度では紹介しきれない。
90年代から2000年代の前半、ヨーロッパやアジアの空港に行くと驚かされることが度々だった。映画館やスロットマシーン、有名デパートのショップ、庭園やプール、高級車の展示・販売等々、日本の空港にはないショップや施設、アイデアであふれていたからだ。そうした楽しめる施設を造る空港には、空港をフレキシブルに運営するという発想がある。民営化された空港も少なくなかった。
しかし当時、日本の状況は違っていた。空港の運営は、飛行機の着陸料や駐機料など主に滑走路関連の航空系事業(下モノ)とターミナルなどの非航空系事業(上モノ)とに分けられ、日本の空港は下モノを国や地方自治体が、上モノを国や地方自治体と民間出資の第三セクターが所有してきた歴史がある。そのため、例えば着陸料を安くすることでより多くの航空会社に就航してもらい利便性を高め、同時に増えた乗客にターミナルで買い物をしてもらって上モノで収益を上げる。そんな運営もできにくかった。
民営化で活気増す
ただ、その後は状況が変わり始めた。中部空港が開港した2005年頃からだ。この空港に造られた飛行機の離着陸が望める展望風呂(「風(フー)の湯」)は象徴的で、旅行者だけでなく、空港に遊びに来る人たちも意識していた。中部空港や関西空港、成田空港などは国が出資する空港会社が滑走路もターミナルも一括運営しているが、それでも海外の空港サービスから徐々に学んでいったのだ。
そして、2016年には日本の空港にも民営化の波が押し寄せた。4月の関西空港と伊丹空港に始まり、仙台空港、神戸空港、高松空港と続いた。現在も熊本空港、富士山静岡空港などで民営化に向けた動きが進む。
民営化されれば、前述したように上モノと下モノのフレキシブルな運営が可能だ。もっとも、海外では民営化によって利益を優先しすぎ、空港サービスがなおざりになった例もあるが、日本の空港は所有者はそのままで運営権を委託する形をとっている。そのため、委託時にサービス充実や地域への貢献を条件として付けることが期待できる。現に仙台空港などは民営化後、地元色を押し出したイベントや商品展開を行い、フジドリームエアラインズが仙台=出雲線を就航するなど、活気が出てきている。
疎まれたうるさい施設
かつて空港は「騒音」や「赤字」を理由に、どちらかといえば疎ましがられる存在だった。例えば、伊丹空港の騒音公害訴訟が始まった昭和44(1969)年に初飛行した初期のボーイング747型機(通称ジャンボ)の真下の騒音(離陸時約610m以上の高度で航行する場合のピークの騒音)は、100デシベルをゆうに超えていた。100デシベルといえば電車のガード下と同じ状況であり、それを超える騒音といえばどれほどか想像に難くないだろう。しかし、今や初期ジャンボの系列機は国内線からは姿を消し、国際線でも数えるほどになった。
また、飛行機の騒音は時間帯や計測する場所などでも異なるが、その後、エンジンの改良や飛行ルートの工夫などで騒音は大幅に低減された。何より、騒音訴訟で廃港の危機にさえあった伊丹空港が現在、50年ぶりにリニューアルされていることは象徴的な出来事だ。なお、近年便数が増えている格安航空会社(LCC)では旅客機の中でも騒音レベルが総じて低い小型機が使われている。
地方空港も本当は「黒字」?
もうひとつの「赤字」についても、見方が変わってきている。赤字が指摘されてきたのは羽田、成田、中部、関空などを除く、いわゆる地方空港だが、近年の訪日外国人旅行者の急増やLCCの就航で息を吹き返しつつある。収支を見れば改善しているとは言えない状況だが、空港には単にそれだけでは判断できない面がある。
例えば、「のと里山空港の収支状況(平成26年度)」を見ると、空港自体の収支は2.8億円の赤字である。しかしそれとは別に、12億円の首都圏観光客や国際チャーター便観光客による消費効果、5億円の空港ハンドリング業務や企業進出などによる所得発生効果などを合わせ、空港開港による経済波及効果が41億円あるとしている。
空港が地元の宿泊施設や商店などに観光客を送り、また、新たな雇用も生んでいるというわけだ。のと里山空港は観光地として有名であり、日本航空学園を有するやや特殊な状況にはあるものの、どの地方空港にも金額の大小こそあれ同様の経済効果がもたらされているのは間違いないはず。訪日外国人客も増え続けている。
また、地方空港の赤字額をその空港のある自治体の住民ひとり当たりの負担額に換算すると多くて年間4,000円、少なければ数百円との試算もある(※)。この金額をどう見るかは読者によるだろうが、意外と負担額は小さいと思う方が多いのではないだろうか。いずれにしろ、空港は公共の財産であり、みんなのために活用し、役立て、そして楽しむべき公共の財産なのではないだろうか。
では次回から、日本の空港がどう変わり、どう役立てられ、どう楽しめるのかを見ていくことにしよう。
(※)出典: 『空港の大問題がよくわかる』(上村敏之・平井小百合著)より