3月5日のニュージーランド戦ではPKといえ、久々のゴールを挙げた香川真司。だが、依然として所属チームでは厳しい戦いが続く(画像はイメージ)

サッカーは「世界で最も人気のあるスポーツ」と称されることもあるが、その魅力の本質とは一体何なのだろうか。国際サッカー連盟(FIFA)の公式エディターやJリーグクラブで要職を歴任し、国内のサッカー事情に精通する筆者がグローバルな視点から論じる。今回は現在、マンチェスター・ユナイテッドで苦難に直面している香川真司だ。

ファン・マタの加入で一層苦しい立場に

現在のサッカー日本代表の中心選手は、海外リーグでプレーする面々である。その二大巨頭ともいうべき存在が、ACミラン所属の本田圭佑(イタリア・セリエA)と、マンチェスター・ユナイテッド所属の香川真司(イングランド・プレミアリーグ)である。この二人が、文字通りサムライブルーの攻撃陣をけん引しているわけだが、特に後者は今季、厳しい試練の日々を過ごしてきた。

自らを獲得したサー・アレックス・ファーガソン監督が昨季で勇退。後任のデイビッド・モイーズはチーム掌握に苦しみ、その攻撃戦術はあまりにも単調であるとの批判を受け続けている。香川はチーム変革の犠牲者として、出場機会が激減し、3月5日時点でクラブ公式戦ではいまだノーゴール。またこの冬(2014年1月)の移籍マーケットで、スペイン代表のプレーメーカー、ファン・マタが加入し、攻撃的MFのレギュラー争いは一層激化している。昨季リーグ王者のユナイテッドは、既に首位争いから大きく後退しており、来季UEFAチャンピオンズ・リーグ出場権を得る4位以内の座も危うい状況である。

「香川を買っていない」モイーズにより、夏には放出?

こうした状況から、現地イングランドの識者からはこんな声も聞こえる。

「保守的なモイーズは、就任当初(昨年夏)から香川を買っていない。それがそのまま出場機会数にあらわれている。クラブアカデミー出身のアドナン・ヤヌザイ(19歳)を重用し、マタを獲得したことからも指揮官の香川への評価が分かる。このまま夏の移籍マーケットで放出されても不思議ではない」。

それほど厳しい状況だからこそ、去る5日の日本代表対ニュージーランド戦は、本人にとって自信回復の上でも重要な試合だった。3か月半ぶりに日本代表の10番を身にまとい、自らの突破で得たPKでゴールをたたき込む。一連の流れの中でのゴールではなかったものの、試合後に残した「ゴールはゴールなんで」というコメントは、うそ偽りのない喜びと自信の表れだろう。

「良い点取り屋は、一日では腐らない」

香川が切磋琢磨(せっさたくま)するイングランドのフットボール界にはこんな格言がある。

「良い点取り屋は、一日では腐らない」。

点取り屋ならば、点を取ることに苦しむことは起こりえる。だが、一流のアタッカーならば、そのクオリティはそう簡単に劣化するものではない―。1996年の欧州選手権(イングランド開催)を前に、当時のイングランド代表の主砲、アラン・シアラーが代表でゴール欠乏症に陥っていたとき、同国の元エースストライカー、ガリー・リネカーが贈った言葉だ。

香川は代表戦を終え、イングランドでの挑戦に再び旅立った。その彼にふさわしい言葉でもある。

著者プロフィール

鈴木英寿(SUZUKI Hidetoshi)


1975年仙台市生まれ。東京理科大学卒。サッカー専門誌編集記者を経て、国際サッカー連盟(FIFA)の公式エディターに就任。FIFA主催の各種ワールドカップ運営に従事する。またベガルタ仙台(現J1リーグ)のマーケティングディレクター、福島ユナイテッドFC(現J3リーグ)の運営本部長などプロクラブでも要職を歴任。2012年から2013年にかけて英国マンチェスターを拠点に欧州のトップシーンを取材。拠点を日本に移した2014年もグローバルに活動中。

Twitter: @tottsuan1