大学時代のクラスメイトだったHは、現在付き合って2年になる彼氏がいるB型女性である。Hは僕と同い年の33歳。当然、その彼氏との結婚をリアルに考えているわけだが、なぜかHはなかなか踏み切ることができないという。

ちなみにHの話を聞く限り、その彼氏は結構な優良物件だと思う。一流大学を卒業し、都内の大手企業に勤務する安定感抜群の上流サラリーマン。写真を見たが、ルックスも爽やかな好青年といった感じで、清潔感もある。血液型がA型らしいので、典型的なB型女性のHのことを我慢できるのかという不安はあったが、以前、Hが「そんなところも猫みたいでかわいいって言ってくれるの」とのろけていたことを考えると、たぶん大丈夫なのだろう。はっきり言って、「逃げられる前にさっさと結婚しとかないと!」って、Hを急かしたくなるほどの好条件男子なのだ。

では、一体なぜHは彼氏との結婚に踏み切れないのか?

答えは簡単。Hが彼氏の前で年齢を詐称しているからだ。

や、僕も最初に聞いたときは、そんなことが現実にありえるのかと両眉が唾だらけになった。なにしろ、Hは彼氏の前で26歳と大嘘をついているのだ。

「っていうか、そもそもなんでそんな嘘をついたの?」

僕が素朴な疑問をぶつけると、Hは悪びれながらこう答えた。

「だって、最初に出会ったとき彼氏が25歳だったんだもん」

「超年下じゃん!!」

そうなのだ。今から2年前、女友達と一緒にクラブに遊び行っていた当時31歳のHは、25歳のイケメンに声をかけられ、意気投合。そのまま秒殺で彼に身も心も捧げてしまったのだが、なぜかそのときHは年齢を24歳と偽ってしまったのだ。

「だって25歳ぐらいの男って、やっぱ若い女のほうが好きなんでしょ」

まあ、一般的にはそうかもしれないけど、そこまで詐称しなくても……。

「それに、せっかく向こうがわたしのことを気に入ってくれたとしても、30過ぎてるってわかったら引くんじゃないかって。若い男ってアラサー女と付き合うと、すぐに結婚を迫られるから重いって感じちゃうんでしょ」

うーん。それも一概には言えないけど、でも、そうネガティブに考えちゃうのが独身アラサーの繊細な乙女心なんだろう。気持ちはわからなくもない。30過ぎてクラブに遊びに行くという精神性の時点で、まだまだHはガールなのだ。

しかし、なにげに僕はそんな大胆な年齢詐称が通用しているHの容姿と精神年齢の若さに舌を巻いた。確かにHは年齢よりも大幅に若く見える。メイクは多少濃くなったが、ファッションは若いし、スタイルも維持している。ほしのあきとまではいかないが、知らない人から見れば20代半ばで疑う余地はないだろう。

ただし、若さを維持するのはやはり大変なようだ。顔のプチ整形はもちろん、豊胸手術もしたという。ホルモンバランスが崩れるので、よくわからない謎の注射も欠かさない。顔の肌のつっぱりや胸のしこりにはもう慣れたというが、たまに襲ってくる激痛は今でも辛いらしい。おまけに皮肉なことにHの職業はエステティシャンだ。正直、客のエステなんかより自分のことで頭がいっぱいだろう。

「だから結婚ってなると全部ばれちゃうんだよね。やっぱ振られるかな?」

「いや、そこまではわかんないけど、間違いなく一悶着はあるだろうね」

Hの不安はもっともだ。僕も安易に「大丈夫だと思うよ」なんてことは言えなかった。33歳を26歳と詐称かあ。いくらなんでもサバを読みすぎである。

果たして彼は真実を知ったら、どうなってしまうのか。怒りなのか、パニックなのか、それとも笑ってスルーしてくれるのか。人間とは自分の想像を超える事態に遭遇したとき、途端に無責任な野次馬になってしまうものかもしれない。僕はHに悪いと思いながらも、火事場に集まるガヤのようにHの顛末に胸を高鳴らせているのだ。

2009年7月現在、33歳のHはいまだに27歳の彼氏の前で26歳のガールを演じている。家族・親戚はもちろん、女友達にもなかなか彼氏を会わせることができないのが悩みの種。一体、Hはこの先どうなってしまうのか。

新たな動きがあり次第、ここで後日談を綴ります。

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