前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

沖縄の人は本当におおらかだ。よりによって身内の長老の告別式の日に、結婚の挨拶に訪れた場違い極まりない僕に対しても、底抜けに明るい笑顔で「おめでとう」と祝福の言葉をかけてくれる。しかも告別式だというのに、緑のジャケットを着ている人もいた。なんでも暗い部屋の中で着替えたから色の判別が満足にできず、ずっと黒のジャケットだと思い込んでいたらしい。聞けばチーの従弟だという。

だからして、いよいよチーの祖母に結婚の挨拶をするというときも実におおらかだった。なにしろ、チーママ(母親)に促された挨拶のタイミングがすごい。告別式が終わり、近所の参列者たちが帰った直後だったのだ。

「さあ、そろそろオバアに挨拶しようか」とチーママ。

「えっ、今ですか? 葬儀が終わったばっかですけど……」僕は目を白黒させた。

「いいからいいから。今やらないなら、いつやるの?」

「はあ……」そう言われると、首を縦に振らざるをえない。僕は慌てて黒ネクタイを外し、気持ちを弔事から慶事に切り替える。なんという振り幅の大きさだ。

しかも、挨拶の場所もすごい。祖父の祭壇のすぐ隣の部屋である。そんなデリケートな場所で、夫を亡くしたばかりの祖母にお祝い話をしなければならないのだ。

正直、こんなやりにくいことはない。その部屋には線香の匂いが充満しており、すぐ傍では喪服を着た他の親戚が香典の計算をしている。そんな状況の中、一体どんな顔をして「千里さんと結婚させていただきます」と言えばいいのか。

しかし、そんな僕の心配をよそに、祖母はこれまたおおらかな人だった。緊張気味に結婚の挨拶をする僕に「こちらこそ、よろしくお願いします」とにこやかに頭を下げ、用意した顔見世の品(飲料用の陶器)も快く受け取ってくれた。

「わざわざ贈り物までありがとうございます。これ(飲料用の陶器)は大事にしまっておきますねー」と祖母。すると、周囲の親戚から「オバア、しまっちゃダメ。それは遠慮なく使わないと!」と一斉に茶々が入る。なんとも微笑ましい光景だ。

何はともあれ、終わってみればすべてが杞憂だった。祖父の告別式の日に結婚の挨拶をしたことで、結果的に祖母だけでなく他の親戚の方々にもいっぺんに会うことができた。「こんな機会でもないと、なかなかみんな集まらないよ」とチー。確かにその通りだ。もしかしたら、祖父が「このタイミングで沖縄に来なさい」と僕を呼んでくれたのかもしれない。運命とはきっとそういう風に繋がっているのだ。

その後、沖縄の夜は更け、長い一日がようやく終わりを告げた。とはいえ、僕らの旅はまだまだ終わらない。翌日は早朝から壱岐・対馬・五島列島で知られる壱岐島に向かうことになっている。早世したチーパパ(父親)の墓参りだ。

これもまた実に厳しい環境だった。その日の壱岐島は横殴りの豪雨と秒速20メートル超の暴風、さらに北国も真っ青の極寒だったのだ。

初めて対面するチーパパの墓は、豪雨に打たれているためか、なんとなく寂しそうに見えた。冷たい強風に体を吹き飛ばされそうになりながら、必死で線香に火をつける。チーパパが生前大好きだったという酒とお菓子、そして一本の煙草をお供えしした。ここ数年、世間は禁煙ブーム真っ盛りだが、天国のチーパパはそれをどう思っているのだろう。まったく、煙草ぐらい好きに吸わせろ――。チーパパの墓がそうぼやいているように見えたのは、僕が愛煙家だからか。

「はじめまして、山田隆道と申します!」びしょ濡れになりながら、チーパパの墓に向かって叫んだ。「お父さん、ご報告が遅れて申し訳ありませんが、このたび娘さんと結婚させていただくことになりました!!」

その瞬間、どういうわけかますます風雨の激しさが増した。

「子供の頃のチーは大のお父さんっ子だったと聞いております。そんなチーのことを幸せにするには、僕はまだまだ未熟者かもしれません。だけど、天国でお父さんが安心できるよう、未熟者は未熟者なりに全力で頑張ります。だから、どうか僕らのことをお守りください! 天国から僕らに力をください!!」

すると、不思議なことが起こった。それまでの暴風雨が一瞬弱まり、ほんのわずかの間だが、僕らの周囲だけが静まり返ったのだ。

もちろん、ただの偶然かもしれない。偶然かもしれないけど、僕はそれをチーパパからの快諾の返事だと捉えることにした。正直、真実なんかどうだっていい。きっと雲の上の頑固親父が、胡坐をかきながら静かに笑ってくれたのだ。

これから結婚をしようとしている、僕と同じ立場の男性たちへ――。

どうか奥様の親族やご先祖様には、多少無理してでも事前に結婚の挨拶をしてみてください。そのほうが、自分の中により大きな決意と責任が芽生え、同時に胸のつかえが取れたかのような爽快な気分にもなれるでしょう。結婚とは男女二人だけの問題ではなく、互いの家族同士の固い契りなのだと、若輩者なりに思うのです。

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