Mondial de l'Auto 2026 78年目の再会|パリのサロンで、未来は昔の顔をしていた

2年に一度のパリのモーターショー、モンディアル・ド・ロトモビルが91回目の幕を閉じた。会場を歩いて気づいたのは、どのスタンドでも過去の車が息を吹き返していたことだ。2CV、8ゴルディーニ、5ターボ、エスパス、205ターボ16、A310、そして33ストラダーレ。電気で走る未来の車が、なぜ揃って昔の顔をしているのか。駆け足のパリ取材から、その理由を考えてみた。

【画像】2CV、8ゴルディーニ、5ターボなど、昔の顔をした未来の車が数多く見られた今年のパリ・モーターショー(写真31点)

帰ってきたパリのサロン

今年のモンディアルはポルト・ド・ヴェルサイユのパリ・エクスポで、10月12日から18日まで開かれた。出展者は100を超え、自動車メーカーは60社以上。5つのホールに屋内7万㎡、屋外1万5000㎡という規模である。メーカー数は2022年が20、2024年が48。コロナ禍以降やせ細っていたパリのサロンは、完全に息を吹き返したと言っていい。BMWとMINIは参加を見送った。

存在感が際立ったのは地元の2大グループだ。ルノー・グループは5000㎡に50台を並べた。ステランティスは8ブランド、5340㎡、60台以上の大展示で応え、そのうち9台がコンセプトカーだった。そして両陣営が、示し合わせたように「過去」を持ち込んでいた。

主役は2CV

今年の主役は誰もが認める。2CVが初めて一般に公開されたのは1948年10月7日、このパリのサロンだった。78年後、同じ舞台に電気の2CVが帰ってきたことになる。原型のTPV(トゥート・プティット・ヴォワチュール)計画の精神に立ち返るというプロジェクトは2026年3月に正式承認され、5月21日にデトロイトで最初のティーザーが示された。目標価格は補助金抜きで約1万5000ユーロ、現行ë-C3の下に位置する。このコンセプトは市販型を90%まで予告するもので、2028年末までの発売を見込む。隣には2CVフルゴネットの電動版コンセプトまで置かれていた。詳細は次回の単独記事に譲る。

ルノー 博物館から歩き出した車たち

足が止まったのがこの青いクーペだ。1964年のルノー8ゴルディーニは、リアに95馬力のエンジンを積む後輪駆動で、GTI時代の10年前に手の届く高性能を大衆に届けた。8ゴルディーニ・コンセプトは4ドアを捨て、全長4.12m、全幅1.88mの2シータークーペになった。幅は1964年型より40cm近く広い。リアに置いた270馬力のモーターで後輪を駆動するレイアウトは、オリジナルへの律儀な敬意である。社内コンペに集まった300枚以上のスケッチから生まれ、塗色はかつてのブルー・ド・フランスを思わせる。ゴルディーニの象徴である2本の白線はステッカーではなく塗装で、車体構成の軸になっている。室内には大型タッチスクリーンがなく、物理スイッチと針式メーターが並ぶ。市販予定はなく、2028年初頭に開館予定のフランのルノー博物館に収まる。

同じ「懐古」でも、こちらは実際に売られる。ルノー5ターボ3Eは540馬力、生産台数は初代5ターボの登場年にちなむ1980台。基本価格は15万5000ユーロで、オプション込みでは20万ユーロに届く。カーボンモノコックの専用車体は標準のR5とは機構的にまったく別物で、デリバリーは2027年に始まる。80年代グループBの怪物を、ポルシェ911並みの値段で甦らせたわけだ。

もう1台のワールドプレミアは、SUVの時代に逆らうミニバンだった。1984年、マトラとの協業で生まれた初代エスパスは、当初あまりに斬新で、人々はどう受け止めればいいか分からなかった。その年のパリ・サロンでは、ルノーがスタンドを実演の場に変えて使い道を説明しなければならなかったという。42年後のE-Spaceコンセプトは全長4.70m、全幅2.02m、全高1.67mと初代に近いプロポーションを持ち、室内は赤のグラデーションで満たされる。あくまでデザインスタディで、発売時期は示されていない。

アルピーヌ A310の再来とワニのA290

新型A110(電動)は布をまとった彫刻での予告にとどまり、アルピーヌは代わりにA310の復活を思わせるコンセプトを用意した。1971年登場のA310は、1962年のA110より広く快適なGT寄りのクーペで、デザインも張りつめた幾何学的な線を持っていた。A310ヴィジョンは全長4.55m、全高1.18m、リア全幅2.03m。オリジナルは全長4.18m、全高1.15m、全幅1.62mだった。黄色い大きなヘッドライトは極細のLEDに置き換わり、内装には色面構成のパーツとハイファイ機器に着想した物理スイッチが並ぶ。基盤は電動A110用のAPPプラットフォームだが、アルピーヌによれば、ルノー、吉利、アラムコの合弁会社Horse PowertrainのV6エンジンも搭載可能だという。この一文は後半の考察にも関わってくる。

ブランド創設70周年の最後の年を飾るのが、ラコステとの初のコラボレーション「Beware of the Crocodile」A290ラリーだ。室内はワニの舌を思わせる赤で統一され、ラリーシートには鹿の子編みのポロ生地が張られている。FIAの電動ラリー規定eRally5に適合し、2026年からフランス・ラリー選手権内のワンメイク戦、トロフェ・アルピーヌA290ラリーを走る。ラコステの創業者ルネ・ラコストが、もとはテニス王者だったことを思えば、スポーツと服飾のこの組み合わせはむしろ原点回帰と言える。

最後のガソリンA110を見送る役は、A110 Rウルティムが担った。2024年のパリで発表された110台限定の最終仕様で、出力は345馬力。A110 Rテュリニより160kg大きなダウンフォースを生み、価格は26万5000ユーロから。ポルトローナ・フラウとサベルトの協業による内装まで選べる。2つのアルピーヌ・ブルーを融合させた「ラ・ブルー」仕様は、わずか15台である。ディエップの工場でのA110の生産は今年6月に終わった。電動の新型が彫刻としてしか示されなかった今年、その隣に置かれた青いウルティムは、ひとつの時代の墓標にも見えた。

プジョー 205の幽霊たち

プジョーのスタンドで、まず目に入るのは前年秋に発表されたポリゴン・コンセプトだ。2025年11月12日に公開された全長4m弱のハッチバックで、ステア・バイ・ワイヤと四角いステアリング「ハイパースクエア」を初めて組み合わせた。舵角は左右それぞれ170°で、駐車でも持ち替えずに済む。スタンドにはこのハイパースクエアを体験できるシミュレーターが2台置かれた。ペッパーポット型のホイールとリアピラーの菱形のエンブレムは、まぎれもなく205 GTiの引用だ。ステア・バイ・ワイヤは2027年に市販車へ載る。

その205の血をもっとも過激に煮詰めたのがE-T16コンセプトである。205ターボ16の2度の世界ラリー制覇から40年を記念し、モーターは前1基、後ろ2基の計3基で816馬力。0-100km/h加速2.5秒、0-300km/h加速16秒をうたう。205ターボ16の側面にあったエアインテークの位置には、充電口とドアの開閉スイッチが収まる。800Vアーキテクチャーに85kWhのバッテリーを組み合わせ、次期E-208の「究極のヴィジョン」と位置づけられた。

RCZヴィジョンはSTLA Oneプラットフォームを基にステア・バイ・ワイヤを採用し、ポリゴンで示された運転環境を次の段階へ進めている。市販車ゾーンでは新型E-208 GTiが205 GTiと並べられた。

そして奥に鎮座していたのがル・マン・ハイパーカーの9X8だ。今季まとった白、黒、赤のカラーリングは、1984年に205 GTiが発売されたときのボディカラーから選ばれた。ポリゴン、E-T16、E-208 GTi、そして耐久レーサーまで、プジョーのスタンドは丸ごと1台の205に捧げられていたと言っていい。

DS 名前だけを借りたブランド

対照的だったのがDSだ。初代DS 3が全長3.95mでBセグメントの中心にいたのに対し、F3VERは4.19mでCセグメントの境目に位置し、次期DS N°3を予告する。部品点数を減らして重量と複雑さ、視覚的な過剰さを抑える「デザイン・インテリジェンス」を掲げるこの車には、1955年の「女神」を思わせる要素はまったくない。

イタリアとドイツから

アルファロメオはクオーレロッソ(赤い心臓)をワールドプレミアした。全長4.70m、全幅1.98m、全高1.33mの2+2クーペで、断ち切ったようなコーダ・トロンカの後端に2つの丸いテールランプを置き、33ストラダーレへの目配せを隠さない。ダッシュボードも1967年の33ストラダーレに着想を得た。注目すべきは中身で、電気専用ではなく、2.9リッターV6のフルハイブリッドに4輪駆動のQ4を組み合わせる「マルチエナジー」戦略を示した。量産はされない。

その隣にいたのが本家の33ストラダーレだ。1967年のオリジナルは、レーシングカーのティーポ33のシャシーにフランコ・スカリオーネがデザインしたアルミボディをまとい、カロッツェリア・マラッツィが手で仕上げた。2.0リッターV8は8800rpmまで回り、約230馬力を発生した。2023年に甦った現代版はわずか33台で、1台およそ170万ユーロという価格にもかかわらず生産開始前に完売している。今回はパリに捧げた一品物も並べられた。

フィアットは、1958年のヌオーヴァ500スポーツの装いをまとった電動マイクロカー、トポリーノ・スポーツとともに、ピックアップの実用性とSUVの快適さを1台にまとめたムルティプレイを展示した。名前の通り、あの奇妙なムルティプラの非公式な再来である。小さな2人乗りにまで、過去の記憶が着せられていた。

ドイツからはオペルのSTXコンセプトが来た。名前はスポーツ・ツアラー・エクスペリメンタルの略。オペルは1953年のオリンピア・レコルト・キャラバンでワゴンの大衆化に貢献したと自負しており、SUVに押されるこのボディ形式をあえて未来に据えた。グリルとライトを一体化した「バイザー」は細く薄くという流行に逆らってむしろ大きくなり、4輪駆動で最高速度は200km/hを超える。

電気とガソリンが同じ床に並ぶ

モーターショーにレーシングカーが置かれるのは珍しくない。それでも今年は、その顔ぶれが時代の分岐点を正直に映していた。

オペルのスタンドでは、STXの脇にフォーミュラEのGSE 27FEが、コルサGSEやモッカGSEに囲まれて置かれていた。最新のGEN4規定に挑む完全な電気のレーサーである。

一方、アウディは今季参戦を開始したF1マシンR26を持ち込んだ。ザウバーを買収して誕生したワークスで、ドライバーはニコ・ヒュルケンベルグとガブリエル・ボルトレート。車体前半の銀色は1930年代のアウトウニオンへの目配せだ。2026年のF1はパワーのほぼ半分を電気モーターが担うが、心臓はなお1.6リッターV6ターボである。

ランチアのイプシロン・ラリー2 HFインテグラーレも見逃せない。ランチアが世界ラリー選手権に公式復帰したこのマシンは、参戦初年度の今季、パラグアイ・ラリーを終えた時点でWRC2のチームタイトルを確定させた。デルタ・インテグラーレの記憶を背負った名前が、再び世界の頂点に立ったことになる。

アルピーヌのA290ラリーとプジョーの9X8を加えれば、ここには純電気、ハイブリッド、ガソリンのすべてが並んでいた。市販車が電動化へ一方向に進む一方、モータースポーツはまだ答えを決めかねている。その迷いもまた、今年のモンディアルの正直な一面だった。

見えてきた方向性

フランスから見て、今年のモンディアルが示した流れは3つある。

ひとつめは、小さく安い電気自動車への回帰だ。2CVの1万5000ユーロ、トゥインゴの1万9500ユーロ。2026年9月には新車登録の10台に4台が電気自動車という記録が出ている。高価なSUVで始まった電動化は、ようやく大衆車の領域に降りてきた。

ふたつめは、SUV一辺倒からの脱却だ。ミニバン、クーペ、ワゴン、ピックアップ。電動化はボディ形状の画一化を意味しない、ということを示す場としてサロンが使われた、という見方に僕も同意する。

3つめは、触れる操作系への回帰だ。8ゴルディーニの針式メーターも、A310の物理スイッチも、画面に吸い込まれていった運転席への静かな反論に見える。

そして、そのすべてを貫いていたのが過去のモデルの再解釈だった。

なぜ未来の車が昔の顔をするのか

ここで思い出したいのがDSの来歴だ。2009年、シトロエンは伝説の名をDS 3というハッチバックに与え、2014年にはDSを独立ブランドへと切り離した。このときシトロエンは「DS」という名の重みだけを借り、姿形は1955年の女神にまったく寄せなかった。過去は名前として掲げるもので、デザインはあくまで前を向く。それが10数年前の作法だった。今年のF3VERも、その姿勢を守っている。

ところが同じグループのシトロエンは今、最先端であるはずの電気自動車に2CVの姿をまとわせた。ルノーもプジョーもアルピーヌもアルファロメオも同じだ。未来を売るのに、なぜ懐かしさが必要なのか。考えられる理由は4つある。

第1に、顔を失った車の問題だ。エンジンがなくなりグリルの意味が薄れた電気自動車は、どれも似たようなつるりとした形になりやすい。ルノー・グループのデザイン責任者ローレンス・ヴァン・デン・アッカーはそれを「顔のない電気自動車の海」と呼び、ノスタルジーはそこから一瞬で抜け出す手段になったと語っている。

第2に、甦ったのがことごとく「庶民の車」だという点だ。2CV、4L、R5、トゥインゴ。いずれも、その時代のフランス人に初めて移動の自由を与えた車である。電動化の最大の課題が「普通の人に買える値段」である今、TPV計画の精神を呼び出すのは理にかなっている。とはいえ、1万5000ユーロの2CVでさえ最低賃金の10カ月分にあたるという指摘もある。そして同じ懐古が、5ターボ3Eでは15万ユーロを超える収集品になる。懐かしさは、大衆車にも富裕層の玩具にも同じように効く。

第3に、規制への感情的な緩衝材としての役割だ。電気自動車は、消費者が自ら望んだというより、規制によって選ばされつつある車でもある。パリ首都圏では低排出ゾーン(ZFE)の違反取り締まりが2026年末まで猶予され、2028年の環境マルスは最大10万ユーロに達する。2035年のエンジン車新車販売禁止についても、フランス政府は2025年12月、5閣僚連名の書簡で「的を絞った柔軟性」を受け入れる姿勢を初めて示した。上からの電動化に対する迷いは、政府の中にすら漂っている。そこへ懐かしい顔の電気自動車を差し出すのは、反発そのものではなく、苦い薬を甘い衣で包む行為ではないか。A310ヴィジョンにV6が載るという一文も、クオーレロッソのV6ハイブリッドも、メーカー自身がまだエンジンへの未練を手放していないことを正直に告白しているように読める。

第4に、展示されていた「レトロ」の多くが市販されないという事実だ。8ゴルディーニは博物館へ行き、E-Spaceもクオーレロッソも量産計画はない。ヴァン・デン・アッカー自身、リバイバルの波はR5、R4、トゥインゴで打ち止めとし、今後は過去のアイコンに頼らず未来を示すと述べていた。それでもサロンには過去が溢れていた。懐古は商品というより、ブランドが自らの物語を語るための言語になりつつある。量産車が未来を向くためにこそ、ショーカーは過去を振り返る。そんな分業が生まれているのかもしれない。

懐古趣味か、政府への反発か。おそらくどちらでもあり、どちらでもない。人は新しい道具を、知っている顔を通して受け入れる。初代2CVがフランスの農村に入り込んだのも、それが「傘の下に4つの車輪」という素朴な約束だったからだ。

1948年10月、同じパリのサロンで、人々はブリキの小屋のような2CVを笑い、そして買った。78年後のポルト・ド・ヴェルサイユで、電気の2CVのまわりには、あの頃を知らない若者たちの人垣ができていた。未来はいつも、少しだけ昔の顔をしてやってくる。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI