Bibioが語るDorian Conceptとの化学反応──ふたつの才能が生んだ、美しく有機的な共鳴

美しく、有機的な共鳴──ビビオ(Bibio)とドリアン・コンセプト(Dorian Concept)の初のコラボレーション・アルバム『Answers』は、まさしくそんな形容がぴったりの一枚だ。長い時間をかけて自身の音楽を磨いてきたふたりのミュージシャンが、それぞれの美点を自然に融合させているからだ。

2009年にはじめて出会い、それから途切れずに交流してきたというビビオとドリアン・コンセプトだが、『Answers』はビビオがドリアン・コンセプトのミュージック・ビデオ作品に感銘を受け、音楽だけでなく映像作品の共同制作を持ちかけたことから始まった。それから制約を設けずに自由な発想でやり取りを重ねた結果、予想を超える形で発展していったという。

実際、『Answers』は初期ビビオ作品に通じるフォークトロニカやドリアン・コンセプト作品に顕著な細やかなIDMと即興性が、さまざまな時代のアナログ機材による柔らかくノスタルジックな質感のもとで混ざりあっている一作だ。単純にそれぞれの音楽要素を組み合わせたのではなく、きわめてシームレスなものとして完成されていることに感嘆せずにはいられない。併せて制作されたローファイかつ詩的な感触のオーディオビジュアル作品もまた、本作の叙情性を際立たせている。

そこで『Answers』について、ビビオとドリアン・コンセプトのそれぞれに別で話を聞いた。お互いの視点が明確になるように、あえて半数ほどは同じ質問を投げかけているが、そのことでかえってふたりがアーティストとして深い部分で共感しあっているということがわかるものになっていると思う。

それではまず、ビビオことスティーヴン・ウィルキンソンのバージョンをお届けしよう。メールで回答してくれた。

二人の出会い、音と映像が溶け合うまで

―あなたとドリアン・コンセプトのオリヴァーさんは2009年に出会って、それから交流を続けてきたそうですね。それはあなたが『Ambivalence Avenue』(2009年)をリリースし、ドリアン・コンセプトは1stアルバム『When Planets Explode』(2009年)をリリースしたタイミングで、それからお互いの音楽的な変遷を見てきたことになります。彼の音楽のどのようなところにシンパシーを感じてきましたか。

スティーヴン:(シングルの)「Trilingual Dance Sexperience」(2009年)をはじめて聴いたときの衝撃は、いまでもよく覚えているよ。自分でDJプレイを行っていた頃にも頻繁にかけていたし、他の多くのDJたちもプレイしていて、じつに斬新で新鮮、そして独創的に感じられた。その感覚はいまでも変わらない。ドリアン・コンセプトについて自分が昔から感銘を受けているのは、彼の卓越したリズム感とタイミングの捉え方だ。彼はエレクトロニック・ミュージックを非常に有機的で人間味あふれるサウンドに響かせる。もちろん彼が優れたキーボーディスト/ピアニストであることは明確だが、どんなスタイルの音楽を作ろうとも、たとえ音の素材自体がどれほど人工的で電子的なものであっても、そこにはつねに手作りのような温かみと質感が宿っている。

―『Answers』は、あなたがドリアン・コンセプトの映像作品「Let It All Go」に刺激を受け、彼に共同制作を提案したことから始まったそうですね。「Let It All Go」のどのようなところにインスピレーションを受けたのでしょうか。

スティーヴン:彼のミュージックビデオ制作へのアプローチはユニークであり、彼の音楽と人柄をじつに色濃く反映していると感じさせられた。彼の音楽にはつねに遊び心のある要素が存在し、ときにはユーモラスで、ときには奇妙で、ときにはエモーショナルだが、その遊び心や奇妙さは多くの場合そこに息づいている。彼のビデオにおける余白の使い方──空白のフレームや単色のカラーブロック、シンプルな長方形──そしてそれが周りの世界で彼が何に気づいているかを垣間見せる、奇妙に並置された映像の断片へとカットインしていく手法がじつに魅力的だ。写真が好きな自分としては、人々が世界をどう捉え、何に気づき、何にレンズを向けると決めるのかにもっとも胸が高鳴る。

また、彼は撮影を終えて停止ボタンを押す前のカメラの揺れのような、意図しないクリップも取り入れているようだ。自身が撮影した映像を見返し、フレッシュな視点で面白い瞬間を見つけ出す能力に長けているように思えるが、そうした瞬間は決まって「隙間の瞬間(合間の瞬間)」なんだ。結果として生まれるビデオは、大胆で気取らない自由さがありながらも、非常に緻密に選ばれ編集されており、深く考え抜かれていながら決して気取りすぎたり人工的すぎたりしない絶妙な融合体となっていると思う。

―当初から音楽だけでなく、映像作品を作りたいと考えていたのはなぜでしょうか。

スティーヴン:自分は長年、カメラやビデオカメラ、8mmや16mmの映画用カメラをいじり回すのが好きだったため、映像制作には昔から親しんできた。ドリアン・コンセプトの「Let It All Go」のビデオを見たとき、それをきっかけに機材について会話が弾み、彼のアプローチや使用している機材に強く興味を惹かれた。お互いに映像が好きという共通点はあったが、彼はまた別のディープな沼にはまりこんでいたようだ。

ふたりの年齢差はそれほど大きくないが、育った時代はわずかに異なる。自分は1978年生まれで、彼は1984年生まれだ。そのため、インターネットの普及具合に関しても、10代から20代前半を過ごした時代背景は確実に違っていた。また、当時はアナログからデジタルへと急速に移行していた時期でもあった。自分はよりアナログ機材に囲まれて育ったため、VHSビデオカメラのようなアナログのビデオカメラに惹かれがちだ。一方、オリヴァーはMiniDVや2000年代のテクノロジーに惹かれる傾向がある。自分にとってみれば、それらはいまでも十分モダンに思える機材だけどね(笑)。

―制作においては、共有フォルダに音楽をアップロードするというやり方を取っていたそうですね。この手法によって、どのようなメリットがありましたか。

スティーヴン:間違いなく、コラボレーションの工程はすべてリモートで行われた。大半の録音はウルヴァーハンプトンにある僕のスタジオで行ったが、コラボが進むにつれてウェールズの農村部へ引っ越す準備を進めることになった。新居を探すためにウェールズ中を何度も往復し、さらに2024年にパートナーと購入した家をリノベーションするために何度も足を運んだ。その車中では、『Answers』の初期バージョンがよくBGMとなっていた。

お互いに特定の作業を押しつけるようなプレッシャーは一切かけず、短時間のジャム演奏や音楽のスケッチ、過去のアーカイブ素材、ルーパーペダルでのジャムなどを大量に共有し、各自が気の向くままに作業を進めた。どちらかが曲のアイデアを思いつけば要素を加えて送り出し、それがトリガーとなってさらに多くのアイデアが生まれ、急速に楽曲が形作られていった。

また、共有フォルダを使ってビデオクリップも共有していたが、しばらくは楽曲制作が最優先となった。アルバムに収録する楽曲が決まってからは、新しい素材の撮影に加え、映像素材の収集や編集作業に本格的に取り組んだんだ。

―撮影やレコーディングには多くの古いアナログ機材を使用したそうですが、なぜそうしたのでしょうか。また、とくに『Answers』のトーンを決定づけた機材は何でしょうか。

スティーヴン:自分たちの動画で使用した映像機材は、1970年代の日立製ビジコン撮像管カメラから最新のソニー製ミラーレスカメラに至るまで多岐にわたる。同じく撮像管(サチコン管)を搭載した1985年製のJVC GR-C1 VHS-Cビデオカメラも使用した。さらにMiniDVカメラ、スマートフォン、アナログビデオミキサー、エフェクト機器、90年代のビデオタイトルジェネレーター、ビデオスキャナー、ビデオ顕微鏡なども使用したね。

したがって、このプロジェクトにおいて純粋主義的なこだわりは一切なく、特定の時代を忠実に再現したり、時代考証に沿ったミュージックビデオを作ろうとしたわけでもない。自分たちは質感や視覚的なノイズ・効果に強い関心があり、粒状感、ピクセル、ノイズ、ボケ、輪郭のあいまいさ、グロー(光の滲み)、残像など、異なるテクノロジーそれぞれが持つ独特の個性に惹かれていたんだ。

また、それぞれの良いところを活かすために異なるテクノロジーの特性をかけ合わせた。例えば、Sony α7S IIIにライカのタンバールレンズを装着して撮影した映像を、標準画質のアナログビデオミキサーに通したり、VHSにダビングしたり、さらには日立のビジコンカメラで画面越しに再撮影したりした。個人的には、最新のフルサイズデジタルセンサーが持つ動画のダイナミックレンジが大好きだけど、同時にアナログビデオ特有のローファイなノイズ感も好む。そのため、それぞれの技術を単なるプロセスの過程として扱い、鮮明で高精細な映像をあえて古い映像機材で劣化させることが、異なるテクノロジーのお気に入りの要素を凝縮させる方法となったんだ。

―映像作品でも古いカメラを使って風景などを撮影したそうですが、とくに撮影していて印象に残るのはどのようなものでしたか。

スティーヴン:自分たちの動画でとくにお気に入りの映像クリップの多くは、オリヴァーが撮影したものだね。彼が撮影した現場に自分はいなかったため、それらのロケーションに対して個人的な思い入れはないけど、彼がそこから拾い集めてきた映像を純粋に楽しんだよ。

自分で撮影したなかでお気に入りのクリップのひとつは、ウェールズの木道の上に立ち、小川を見下ろして撮影したものだ。ハイライト(明るい部分)を柔らかく発光させるライカのタンバールレンズを使って撮影していた。撮影時には気づいていなかったが、1羽の鳥が水面の上に差し込む光のなかに飛び込み、ほんの一瞬、翼を羽ばたかせる鳥のシルエットが眩しく輝いた。まるで鳥自体が純粋な光でできているかのようで、鳥はすぐに木の陰へと移り、姿を消した。ありがたいことにスローモーションで撮影していたため、そのわずかな瞬間を少しだけ長く残すことができたんだ。

「ノスタルジーはタイムマシンではない」

―『Answers』はあらゆる意味で、とても統一された美意識に貫かれたアルバムであると感じます。サウンドのテクスチャー、プロダクションのトーン、テーマに至るまで。こうした美学を、コラボレーションのなかでどのように擦り合わせていったのでしょうか。

スティーヴン:すべてはじつに自然な流れで起きた。アルバムにおいて特定のスタイルやテーマを目指したわけではなく、互いの音源に応答し合っただけであり、まったく異なるふたりのスタイルのユニークな組み合わせが、それ自体で新しいスタイルを形作っていったように思う。自分たちは考え方や姿勢、美学といった面で多くのものを共有しているが、アーティストとしてはまったく異なる。それこそが刺激を保ち続けてくれた理由だと思っている。

オリヴァーにトラックを送るとき、それがどう返ってくるかはまったく予想がつかなかった。そして彼から送り返されてくるものは、これまでに聴いたこともないようなものでありながら、どこかじつに彼らしいサウンドでもあった。彼が自分のトラックに加えようと思い立つアイデアは、自分では到底思いつかないようなものばかりで、それは自分にとって非常に魔法のような体験だったね。

―制作の過程で、オリヴァーさんのミュージシャンとしての能力や魅力をあらためて感じましたか。

スティーヴン:その通りだね。もっとも、どのようにしてそうなったのかを言葉で説明するのは難しいけど。また、彼が作ったパーツをどのようにして生み出したのかについて、自分があまり根掘り葉掘り追求しなくなったことにも気づいたね。出来上がった成果や、彼が多くの音をどうやって生み出したのかというミステリーそのものを楽しんでいる自分がいた。

15〜20年前の自分であれば、細部に至るまで問いただしていたかもしれない。しかし今回の自分は、共同作業者としてだけでなく、ひとりのリスナーとしても彼の貢献を楽しんでいた。手品のタネを知りたがらないのと同じだ。タネ明かしはイリュージョンの魅力を損なってしまうからね。

―『Answers』は『Fi』などごく初期のあなたの作風とも通じる部分もあるように思います。”過去”は本作のテーマのひとつでもあると思いますが、『Answers』の制作において、あなたの初期の音楽作品やその制作を思い出すことはありましたか。

スティーヴン:自分たちは20年以上にわたる音楽制作のなかで培い、集めてきた経験やテクニック、そして機材までも惜しみなく注ぎこんだ。また、このコラボレーションを始めると決めたとき、ふたりとも手のかかる細密で完璧主義的なアプローチではなく、より自由で実験的、かつ直感的なものを作りたいと思っていた。

そのため、楽しみながら実験したいという欲求が、自然と自分たちを若き日の自分自身へと引き戻したんだと思う。過去のプロジェクトを意図的に再訪しようとしたわけではないけど、このアルバムはある意味で初期の作品と似たスピリットを持ちつつ、そこに20年以上の経験が上乗せされて作られたんじゃないかと思っている。

―あなたの多くの作品ではノスタルジーは重要な要素ですし、『Answers』にもそうした部分があると思います。『Answers』にノスタルジーが存在するとすれば、それは何に対してのものなのでしょうか。

スティーヴン:自分自身の立場からしか言えないけど、自分の活動におけるノスタルジックな要素は、内側から自然と湧きあがってくるものなんだ。音楽やサウンドによってノスタルジーを誘発する感情や力に惹かれるが、かといって過去に固執したり、過去に戻りたいと願っているわけじゃない。

惹かれるのは、薄れゆき手が届かなくなった過去へのポータルのような、記憶の印象主義的で曖昧で夢のような質感や、それがもたらす感情に対してだね。そうした意味で、自分にとってのノスタルジーとは、現在という「いま自分がどこにいるか」に関わるものであり、遠い過去の解けていく記憶や幻想を抱えながら歳を重ねた存在であることに関するものなんだ。自分は前へと進み、当時の眼差しで世界を二度と見ることはできない以上、それは過去に戻ることができないという不可能性に他ならない。

自分にとってノスタルジーという感情はタイムマシンではない。現在に立ちながら過去を振り返りつつも、自分が確かに現在にいることを自覚し、そうすることによって湧きあがる複雑な感情を観察することなんだ。

―『Answers』というタイトルはどのように出てきたのでしょうか。また、複数形にしたのはなぜでしょうか。

スティーヴン:オリヴァーはアルバム全体を8分ちょっとに凝縮したビデオミックスを編集していた。自分は、ビデオデッキのタイマー予約を使って何度もテレビ番組を上書き録画した家庭用VHSテープのように見せるため、テレビ番組のランダムな映像を差し込むことを提案した。VHS全盛期を知るひとなら覚えておられるだろうが、そうするとテープにはニュース番組の一部分や天気予報の断片、録画したかった番組の前に放送されていた番組のエンドロールなどが必然的に紛れ込むことになる。

オリヴァーが追加したクリップのなかに「ANSWER」という単語が含まれたものがあり、アルバムタイトルの候補をいくつか吟味した結果、最終的にその言葉に戻ってきた。まるでタイトルの方から運命的に自分たちを見つけ出してくれたかのように感じられた。映像クリップやジャム音源を送り合い、それらに応答し合うという、問いと答え(Questions and Answers)のような自分たちのプロジェクトのあり方にもじつにしっくりきた。複数形(Answers)にしたのもそれが理由だね。

―『Answers』という作品の制作において、あなたはアーティストとしてどのような芸術的な問いや課題を立てていましたか。また、その問いの答え(Answer)はどのようなものでしたか。

スティーヴン:このコラボレーションの基本精神のひとつは、あらかじめ何も決めないことだった。自分たちがいっしょに作業したらどうなるかを確かめるための、共同実験だったんだ。アルバムを作ろうと狙っていたわけでもなく、どこまでたどり着けるかもわからなかったけど、コラボレーションは自然とスムーズに流れていったね。しばらくして、アルバム1枚分に十分な楽曲が集まっていることに気づいたんだ。

そこで、ミュージックビデオを添えてアルバムとしてリリースすることについて話し合い始めた。自分が〈Warp〉に打診したところ、彼らは喜んでリリースを引き受けてくれたよ。

自分たちにとって明確になった答えをひとつ挙げるとすれば、それは「自分たちは問題なくコラボレーションできる」ということだね。コラボがうまくいく保証などどこにもない。共同作業者やバンドメンバーの間には適切な「化学反応」が必要だとよく言われるが、タイミングも同じくらい重要だと思う。

自分とオリヴァーがこれを始めたとき、ふたりは適切なタイミングで適切な交差点に立ち会っていたように思える。だからこそ数年前ではなく、いま実現したんだろう。だがいまとなっては、このコラボレーションを今後も継続していけるという確信があるよ。

Bibio & Dorian Concept

『Answers』

2026年10月16日リリース

CD 国内盤;ボーナストラック、6ページブックレット、解説書封入

詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15976