『クイーン:ブダペスト』徹底解説──フレディ最後のツアーを4Kで追体験、絶頂期のライブが今なお特別な理由

フレディ・マーキュリー生誕80周年を迎えた2026年。絶頂期のクイーンが1986年のブダペストで繰り広げた歴史的公演が、映画『クイーン:ブダペスト』として10月7日より劇場公開される。35mmフィルムで記録された映像は4Kレストアされ、サウンドもオリジナルのマルチトラック音源から新たにリミックスされた。フレディが参加した最後のツアーとなった『ザ・マジック・ツアー』の熱狂、東西冷戦下のハンガリーで実現した公演の歴史的意義、そして4人がステージ上で見せた圧倒的な一体感。荒野政寿(シンコーミュージック)に映画の見どころを解説してもらった。

「ライヴ・エイド」から1年、無敵状態でブダペストへ

フレディ・マーキュリーの初ソロ作『Mr. Bad Guy』がリリースされたのは1985年4月。このアルバムが全世界でビッグセールスを記録していたら、クイーンの歴史は終わっていたかもしれない。しかし結果は全英6位、全米では159位と予想以上に苦戦。同年7月、クイーンの4人が再び力を合わせた『ライヴ・エイド』出演を機に、メンバー間の絆は改めて強固なものとなり、『The Works』(1984年)以来となるニュー・アルバムに向けて動き始める。そんな流れで生まれた同年11月発売のシングル「One Vision」はバンドの原点であるハード・ロックに立ち返り、心機一転したバンドの高揚感をストレートに伝えていた。

その「One Vision」を含む『A Kind Of Magic』(1986年)は映画『ハイランダー』に提供した曲も含む形で構成されたアルバムで、久々に全英チャートNo.1を獲得。先行シングルに選ばれたタイトル曲「A Kind Of Magic」が全英3位、「Friends Will Be Friends」が全英14位、「Who Wants To Live Forever」が全英24位とヒットが続き、クイーン完全復活を広く印象付けていく。

『A Kind Of Magic』リリース後の『ザ・マジック・ツアー』は、86年6月7日のスウェーデンを皮切りに、オランダ、フランス、ベルギー、西ドイツ、スイス、アイルランド、イギリス、オーストリアを経てハンガリーに到達。その7月27日、ブダペストはネープシュタディオンでのライブを35mmフィルムで記録した映像作品が『クイーン:ブダペスト』だ。熱心なファンはVHSやDVDで繰り返し観てきた作品だが、4Kレストアを経た映像は驚くほどクリアな高画質。新たなリミックスによってサウンドも俄然迫力を増し、期待を遥かに上回る仕上がりだ。

今回新たに、ブライアン・メイとロジャー・テイラーの最新インタビューが冒頭に加えられた。それを見ると、1986年当時に共産主義国のハンガリーで西側のロック・バンドがコンサートを行なうことがどれほど異例なことだったか、よくわかると思う。ビリー・ジョエルが旧ソ連のモスクワで公演を行なって話題を集めたのは翌87年7月。ベルリンの壁が崩壊するのはさらに2年後の89年11月であった。熱狂的な盛り上がりでクイーンを迎えたブダペストのオーディエンスによって特別な夜が演出されたことは、本作を見れば一目瞭然。それに加えて、『ライヴ・エイド』からたった1年後、全員がまだ30代で脂が乗り切ったクイーンのパフォーマンスである。最大限に高まった観客の期待と、無敵状態のバンドがぶつかり合い、恐ろしいまでの相乗効果を生んでいる。

※以下、本編セットリストのネタバレあり

映画『クイーン:ブダペスト』場面写真(Courtesy of Sony Music)

ライブの冒頭を飾るのは、堂々たる「One Vision」。ステージ上を闊歩しながらオーディエンスを煽るフレディ、一心不乱にイントロ〜ソロを弾くブライアン・メイ……高解像度で画面から飛び出してきそうなメンバーの躍動感に、のっけから思わず身を乗り出した。サウンドも中〜低域が旧版よりグッと豊かになった印象で、大音量で聴くとジョン・ディーコンのベースもロジャー・テイラーのキックも、本物のライブさながらの圧で体にビンビン響いてくる。公民権運動の指導者であった故マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師のスピーチからインスパイアされた「One Vision」を、民主化以前のハンガリーで彼らが演奏したことも実に意義深い。その2年前、U2もキング牧師の思想にインスパイアされた「Pride (In The Name Of Love)」をリリースしていたことを思い出す。

選曲は新旧取り混ぜたオールタイムベスト的な構成をベースに、『A Kind Of Magic』から4曲、前作の『The Works』から5曲を選んでセットリストにちりばめている。ファンが定番曲を求めるのは承知の上で、最新モードのクイーンをうまく伝えようと考え抜いた跡が窺える見事なセットリストだ。「One Vision」の熱が冷めぬうちに「Tie Your Mother Down」へと繋ぎ、「In The Lap Of The Gods… Revisited」の美麗なメロディに酔わせ、「Seven Seas Of Rhye」〜「Tear It Up」をメドレー的に聴かせてから、新作からの「A Kind Of Magic」に到る怒涛の流れにはただただ圧倒される。

本作は途中にメンバーの素顔を見られるのも魅力のひとつ。無観客のステージで場内の広さを確かめるように「デーオ」を練習するフレディの姿が忘れられない。ああしたイメージトレーニングを経て、完璧なパフォーマンスが出来上がっていたのだ。続く「Under Pressure」の後、実際は「Another One Bites The Dust」が演奏されたのだが、映画には残念ながら未収録。11月6日にリリースされる2CD版『クイーン:ブダペスト』にノリノリのライブバージョンが収められているので、こちらを聴いてステージ上の様子を想像して欲しい。

個人的に本作の最初のクライマックスとして押したいのが、フレディが「次は新曲をやるよ」と前置きしてから歌い始める「Who Wants To Live Forever」。映画『ハイランダー』にクイーンが提供した曲のひとつで、作者はブライアン・メイだ。劇中では不死身の剣士、コナー・マクラウドが老いて死んでいく妻に向き合うシーンで使用されたが、今では普遍的なバラードとして広く愛される曲になった。歌詞に込められた心情を丁寧に表現していくフレディの歌いっぷりは、躊躇なく”名唱”と言い切れる。

特別な夜のクライマックス

「I Want To Break Free」の後には、「Looks Like It's Gonna Be A Good Night」と題された即興パートがあったのだが、映画には未収録。2CD版『クイーン:ブダペスト』でこれを聴くと、全てを決め込むのではなく、ステージ上で起こるマジックの瞬間を活かしていたクイーンの一面を知ることができる。続くブライアンの長尺ギターソロもまさにそれで、ディレイによってフレーズを自在に操りながら描き進んでいくソロはエレキ1本だが極彩色の華やかさ。そして「Now I'm Here」で一気にエネルギーを発散させる。

フレディとブライアンのアコースティック・セットはいつもライブの見せ場だったが、この日は特別。「Love Of My Life」に続いて披露されたのは、ハンガリーでは誰もが知っている民謡「春の風(Tavaszi Szél Vizet Áraszt)」だった。場内が得も言われぬ祝祭感で包まれる、感動的な場面だ。そこから、メッセージソングの「Is This The World We Created...?」へ。もともとはブライアン・メイがニュースで見たアフリカの貧困問題に着想を得て生まれた歌詞だが、今では社会全体、地球全体規模の問題として受け止められるシリアスな内容だ。社会的なメッセージを作品に込めたがらないミュージシャンもいるが、クイーンはそういう人々とは違い、自分たちなりのスタンスで想いを言葉にし続けてきた。

映画ではリトル・リチャード「Tutti Frutti」のみが採用されたロックンロール・カバーのコーナーは、エルヴィス・プレスリー「(You're So Square) Baby I Don't Care」、リッキー・ネルソン「Hello Mary Lou (Goodbye Heart)」の2曲を含む2CD版『クイーン:ブダペスト』で全貌を楽しめる。このように自分たちのルーツを見せ、新しい世代に先達の偉業を伝えていくこともクイーンは積極的に行なってきた。その後に挿入されるジョン・ディーコンのオフ映像も必見。子供とのちょっとした会話に、ジョンの柔和な人柄が垣間見える。

映画『クイーン:ブダペスト』場面写真(Courtesy of Sony Music)

2024年2月のクイーン+アダム・ランバート来日公演で本編ラストに置かれた「Bohemian Rhapsody」は、この日は少し早めに演奏。観客が掲げる花火の映像が気分を盛り上げてくれる。場内大合唱を経て、「Hammer To Fall」「Crazy Little Thing Called Love」とロックンロールをたたみかけて本編終了、という構成は、ビギナーからすると意外に見えるかも。疲れてきた客をさらに煽りまくり、何も出なくなるまで盛り上げるフレディの”粘り”を味わってほしい。

ロジャー・テイラーが気持ち良さげに車を走らせるオフ映像を経て、アンコールの「Radio Ga Ga」に突入。バックボーカルでは、この曲の作者であるロジャーの高音ヴォイスがやはり利いている。一旦退場してからの2度目のアンコールでは、ユニオン・ジャックを背負って出てくるフレディ。よく見ると、その裏はハンガリー国旗だ。「We Will Rock You」でガッツリ盛り上げてから、新作からの「Friends Will Be Friends」で「すべての希望を失っても、君には友達がいるよ」と観客に歌いかけて泣かせる。こうやってファンとの信頼関係を何度も結び直してきたことが、クイーンを特別なバンドに押し上げたポイントのひとつと言えまいか。

「We Are The Champions」~「God Save The Queen」で大団円を迎えるまでのセットリストを改めて眺めると、構成の巧みさに唸らされる。理系のブライアン・メイがいるせいなのか、明確な力学に基づいて曲順を決めていたのでは、とすら思える見事な流れだ。これがフレディ・マーキュリー存命中の最後のツアーになってしまったことが惜しすぎる、ライブバンドとしての輝きに満ちた名パフォーマンスを、是非ともスクリーンで見られるうちに、大音量で体験して欲しい。まだ全員が30代後半の4人から溢れるパワーとパッションを生々しく感じ取れる4K版、これは全ファン必見だ。

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『クイーン:ブダペスト』上映情報

2026年10月7日(水)より期間限定公開

※基本上映日は10月7日(水)、10月10日(土)の2日間。一部劇場では10月7日(水)〜15日(木)まで上映

上映形式: 4Kレストア版/2D通常上映、Dolby Atmos上映

IMAX特別先行上映: 10月7日(水)TOHOシネマズ 新宿、TOHOシネマズ 名古屋栄

鑑賞料金: 3,000円一律

※IMAX、Dolby Atmosほか特別スクリーン・座席は別途アップチャージあり

配給: カルチャヴィル合同会社

ホームページ:https://www.culture-ville.jp/queen

『クイーン:ブダペスト』リリース情報

2026年11月6日(金)リリース

※劇場公開終了後、映像商品/サウンドトラック・アルバムとして発売。デジタル配信も同日スタート

再生・購入:https://queenjp.lnk.to/BUDAPESTJPAWRS

〈Blu-ray国内盤[完全生産限定盤]〉

価格:5,940円(税込)

仕様:4面パネルソフトパック

映像:MPEG-4 AVC 1920×1080(4Kレストア)

音声:DTS Stereo/DTS-HD Master Audio 5.1/Dolby Atmos

日本盤限定:MC部分日本語字幕、日本語ブックレット(解説・歌詞・対訳付き)

〈2CD国内盤〉

価格:3,960円(税込)

仕様:ジュエルケース/Blu-spec CD2

DISC 1:全13曲(57:50)

DISC 2:全14曲(48:54)

日本盤限定:日本語ブックレット(歌詞・対訳・解説付き)、ハーフカット型抜きステッカー(初回仕様限定封入)

〈輸入盤〉

4K UHD Blu-ray/DVD/2CD(4面パネルソフトパック)/3LP(日本語帯付き予定)

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