リバイバルは“懐かしさ”ではなく、カルチャーへのリスペクトだ──A.G.Oとの対話 Ettone『Loose Dial』vol.3

クリエイティブガールグループ「Ettone」が、”人と音楽のつながり”を探るトークセッション連載企画『Loose Dial』。第3回のゲストは、ビートメイカー/プロデューサーのA.G.Oだ。

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R&B、HIP HOP、ポップスを横断するサウンドを手がけてきたA.G.Oは、生演奏のグルーヴをデジタルの音像へ落とし込み、アーティストの声や言葉、空気感を引き出しながら楽曲を形にしていくクリエイター。EttoneのプロデューサーALYSAの盟友でもある彼を、今回は”音を作る側”の視点を持つゲストとして迎えた。

「音楽は楽しいもの、愛すべきもの」と語るA.G.Oと、Ettoneのyuzuki、anri。音楽との出会い、制作におけるグルーヴの感覚、流行とAIへの向き合い方、そしてリバイバルとは”懐かしさ”なのかカルチャーへのリスペクトなのか──三者の対話は、音楽が”誰かのもの”から”みんなのもの”へ渡っていく過程を浮かび上がらせていった。

音楽は「楽しいもの」であり、「愛すべきもの」

yuzuki:A.G.Oさんにとって音楽って、言葉にするとどんなものですか?

A.G.O:一番に来るのは「楽しいもの」ですね。楽しいもの、愛すべきもの。この2つです。シンプルですけど。

anri:それは物心ついた時からそういう感覚があったんですか?

A.G.O:きっかけでいうと、僕の家はそんなに音楽を聴く家じゃなかったんです。車の中でも「家族で会話しなさい」っていうタイプで、音量を上げると「うるさい」って絞られちゃう。でも小学生くらいになると流行が入ってくる。CD世代なので、自分でCDを買ってラジカセでこっそり大きい音を出した時に「おっ」と思う瞬間があって。そこから結構好きだなと思うようになりましたね。あと、自分で買ったCDだったというのも大きい。

yuzuki:その時に感じていた音楽との距離感と、今の音楽との距離感は変わりましたか?

A.G.O:より近づいた感じはします。すごく大きな、素晴らしい友達に一歩近づいたようなイメージですかね。

yuzuki:当時初めて買ったCDは何だったんですか?

A.G.O:19(ジューク)さんというフォークデュオです。当時ポップスとしてすごく流行っていて。姉の影響もあって、「これ聴きなよ」みたいな感じで、お小遣いで買いました。

Photo by Rika Tomomatsu

「モテたい」と「音楽が好き」が組み合わさって、楽器を始めた

anri:最初に「音楽を作ってみよう」と思ったのはいつですか?

A.G.O:まず楽器を始めたかったんですよ。学園祭で誰もやってなくて、スポーツの学校だったので。「モテるかな」みたいな下心と、「音楽が好きだな」という気持ちが組み合わさって、楽器を買ってもらった。しばらく経つと「自分で作れた方がかっこいいんじゃない?」と思うようになって。自分が聴いているアーティストが、自分で作っているのを見てすごいなって。

yuzuki:周りがスポーツをやっていた中で、別の道を行くことにありましたか?

A.G.O:ありました。みんな放課後は部活にバーッと行く感じで、軽音楽部もなかった。だから作ったんです。担任の先生にめちゃめちゃ迷惑をかけながら、変な倉庫みたいな部屋を借りて、吹奏楽部で壊れたドラムを置かせてもらったり、拾ってきたギターアンプを置いたりして。電気だけは通っている物置でやっていました。

yuzuki:その当時から、ゼロから立ち上げる力があったんですね。

A.G.O:用意されていないから、サバイブ力がついたのかもしれないですね。

好きなもの、アーティストの個性、世の中の流れ──その3つが重なる場所を探す

anri:プロデューサーって、その人の音楽を作るという目的と、ビジネス的な側面も考えなきゃいけない部分があると思いますが、アーティストの作りたい音楽、A.G.Oさんがいいなと思う音楽と、ビジネス面はどう捉えていますか?

A.G.O:これはプロデューサー同士でもよく話します。自分が好きなこと、やりたいこと。アーティストが好きなこと、やりたいこと。そして、聴いている人たちと世の中の流れ。たぶんこの3つがあって、どこかに合致するポイントがある。

anri:ベン図みたいな(※ベン図=複数の集合の関係を、重なり合う円で表す図)。

A.G.O:まさにベン図ですね。常に真ん中を捉えるのは難しいけど、「真ん中って何だろうね」と考えることが大事で。自分も大事だしアーティストの成功も考えなきゃいけない。でも世の中の流れだけに寄せちゃうと、好きなものが薄くなる。「こういうのをやってみたら」とひねり出すのが、プロデューサーの仕事だと思います。

anri:流行は常に追うように意識されているんですか?

A.G.O:追い切れない部分も正直あります。今は音楽のプラットフォームよりSNSの方が早いですから。基本的には「このカテゴリが勢いあるよね」というのは常に追っていて、「これは僕に合いそう」と思ったものは研究して、自分でも作ってみる。全部追いかけたら全部がペラペラになっちゃうので。多すぎるし、早すぎる。こちとら人間なんで。

anri:AIが音楽を作る潮流はどうお考えですか?

A.G.O:僕もたまに使いますが、一個のツールとして使っているイメージですね。結局「楽しい」の部分ってすごく人間的な部分で、リリックだったらその人の経験、想い、楽しい、悲しいというところがコアじゃないですか。コアに人間の想いがあります、というのは、AIがどれだけ上手になっても変わらないと思います。なので僕は「時短ツール」と呼んでいます。

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リバイバルは”懐かしさ”ではなく、カルチャーへのリスペクト

anri:先ほどのAIの話とも少しつながると思うんですけど、最近、90年代や2000年代の音楽がリバイバルされている流れがありますよね。私たちもそういう音楽を新鮮に感じることがあるんですが、プロデューサー目線では、この流れをどう見ていますか?

A.G.O:楽しいですよね。たまんないですよね。小学生の頃に聴いていたものが一周してくるのって、すごくいいことだなと思っていて。

少し昔の話をすると、僕は70年代のファンクがすごく好きで、レコードをいっぱい持っているんです。その後、HIP HOPのプロデューサーがそれをサンプリングして曲を作ったじゃないですか。要するに、それと同じことが起きているだけで。歴史をリスペクトして、「昔これすごく良かったよね」というものを、改めて新しいものと組み合わせて消化している。だから僕は、カルチャーリスペクトだし、素晴らしいことだという捉え方です。

yuzuki:ノスタルジックというより、新しいものというイメージですか?

A.G.O:そうですね。全く同じ音をやっているわけじゃないじゃないですか。みんなうまく組み合わせている。当時の勢いと同じことをやっても敵うわけがない。それを今の時代にチューニングしてやっているからいいんだろうなと思います。

yuzuki:懐かしいと新しいの融合って、どうしたらうまくできるんだろうって悩むんです。

A.G.O:「懐かしい」って何だろう、という話でもあって。僕の懐かしいとお二人の懐かしいは違うんですよ。

anri:90年代や2000年代って、私たちはまだ生まれていない時代の音楽でもあるので、「懐かしい」という意味合いはわかるんですけど、幼少期に流行っていた音楽というよりは、逆にちょっと新しいものとして聴いている感覚もあって。世代によって、”懐かしい”の感じ方って違うのかなと思うんです。

A.G.O:昔っぽいということは、昔すごくポピュラーだったもの、勢いがあったもの。時代を象徴するような音じゃないですか。それは素晴らしい。時代を作っているんだから。

yuzuki:服とか画質とか、音楽に限らずリバイバルってありますよね。懐かしいというより、リスペクトだったり、その時代への憧れが少しあるのかもしれない。

A.G.O:そっちかな。たぶん、もう戻れないじゃないですか。だから、そういう目線なのかなという気がします。

yuzuki:90年代や2000年代の時代を作った音楽は、今の私たちから想像しやすいじゃないですか。でも、今の時代を象徴している音楽って何なんだろう、と。

A.G.O:それは、後でわかるんですよ。あと10年ぐらいしないとわからない。今、僕らが「こうだ」と思っていても、10年後から見たら違う。これに関しては時が経ってみてわかることだと思います。

全員が知っている曲が生まれにくい時代をどうサバイブするか

yuzuki:今はSNS時代で、あらゆるスピードで流行が発展していって、いろんなところから才能が爆発していく。全員が知っています、という音楽は生まれにくいなと思うんですけど、この時代をサバイブする難しさは感じていますか?

A.G.O:感じますね、早いし。悲しいのが、僕自身も影響を受けているなと思うんですけど、「2週間前のニューリリース覚えてる?」って言われたら、僕はめちゃめちゃ音楽をチェックしている人なんですけど、2週間前、1カ月前のリリースのイントロを言ってみてって言われたら、ちょっと言えないんですよね。

yuzuki:ファスト的になってきていますよね。

A.G.O:これが元に戻ることはないと思うんです。むしろどんどん早くなる。だから、忘れたくないものは形に残すようにしています。すごく好きなアーティストのニューリリースがあって「素晴らしいアルバムだ」と思ったら、レコードを買う。見た目で残るじゃないですか、家に。でかいし。半年経っても「これ最近聴いてないな。聴こう」となる。

yuzuki:ピン留めする感じというか。忘れたくないものは形に残すのが大事ですね。

A.G.O:そうですね。ピン留めしていきましょう。

yuzuki:「売れる音楽」と「残る音楽」。ここに違いはあると思いますか?

A.G.O:あると思います。特に今のスピード感でいうと、売れる音楽は花火みたいな感じなんですよ。バーンって。すごく大きな花火として、一瞬でSNSを席巻して、みんなが「聞いたことある」で終わっちゃう。

yuzuki:サビしか知らないとか。

A.G.O:そうそう。「残る音楽」って何だろうなと考えた時に、全員にとっての残る音楽はもうできないと思うんですよ。だけど、誰かの生活に寄り添った音楽があるならば、もうそれが残る音楽でしょうと。13億人が知らなくても、1万人が知っていて、その1万人がずっと口ずさめるんだったら、それはもう残っているじゃないですか。今だからこそ、「売れる」と「残る」って本当に違うと思います。

90年代みたいに「みんなが知っています」というものはもう正直生まれない。でも、同じものが好きな人たちにしっかり届けていく。それでいいと思うんですよね。細分化されていく中で、「この丸の中にはこういう人たちがいて、ここはみんなで楽しみたいから、ここにしっかり届けましょう」みたいな意識です。

Photo by Rika Tomomatsu

音楽が持っている「力」

anri:今日お話を聞いていて、A.G.Oさんの根源には「楽しさ」とか「愛」があって、でもプロデューサーという職業として、それをどうアプローチして、ビジネスとして芸術作品につないでいくかを考えている方なんだなと思いました。音楽を作る人であり、届ける人でもあるA.G.Oさんは、音楽ってどんな力を持っていると思いますか?

A.G.O:難しい質問ですね。音楽は、突き詰めると気持ちだったり、思い、願いだと思うんです。それはやっぱり人を動かすし、僕みたいに、リリックというよりも音がすごく好きで、それに突き動かされて音を作り始めた人もいる。だから、人の人生に寄り添って、かなり大きな影響を与えるものなんじゃないかなって思いますね。

anri:A.G.Oさん自身にも、実際にそういう経験がありますか?

A.G.O:そうですね。いろんな漫画とか映画とか、好きなものはいろいろある中でも、結局一番好きだったのが音楽だったという、すごくシンプルなことなんです。歌詞カードを見ながら、「こうやって面白いことを書くんだな」と思ったりもしました。でも、自分が得意な部分として、音のことをすごく好きだなと思った。ギターを始めたのもそうですし。得意なことと好きなことを考えた時に、「これをやろう」と思えたんです。そういう意味でも、人生を動かされたという感じですね。

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音楽は、みんなのものであってほしい

yuzuki:最後に、音楽プロデューサーのA.G.Oさんにとって、音楽って誰のものだと思いますか?

A.G.O:これは難しいですね。でも、僕は音楽プロデューサーでもあり、超ヘビーリスナーでもある。シンプルに言うと、みんなのものであってほしいなと思います。僕が作ったものでも、誰かに聴いてもらいたいから作っているわけで、それってやっぱりみんなのものじゃんね、と。

yuzuki:音楽って、言語でカバーできない部分の、人間の詩的なものも表現しうる媒体だなと思っています。言語を知らない人とでも、音楽さえあれば、その人の持っているパーソナリティとか、何に幸福を感じるかがわかってくる感覚があって。「みんなのもの」というのが、より深いところにあるみんなのものであったら嬉しいなと思います。

A.G.O:言語が関係なくても、「これ好き」とか、「これ、あの時聴いてた」って共通じゃないですか。やっぱり「みんなのもの」という感覚の方がバチッと来るかなと。

yuzuki:今日お話ししていて、音楽って”作る人”のものでもありながら、聴く人のものでもあって、いろんな人の中を渡っていくものなんだなと思いました。最初に「音楽は楽しいもの、愛すべきもの」とおっしゃっていたのが、最後まで全部つながっていた気がします。

A.G.O:作る側にいると、考えなきゃいけないことが増えるんですよ。どう届けるか、どう聴かれるか、今の流れにどう合わせるか。でも、それだけになっちゃうと、自分が最初に好きだった音楽から離れていく気がする。だから、自分にとって音楽が「楽しいもの」であることはすごく大事にしています。楽しくないと、愛を入れられないし、愛が入っていないものはやっぱり届かないと思うので。

左から、anri、yuzuki(Photo by Rika Tomomatsu)

3rd Digital Single「トワイライト」

Ettone

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A.G.O

新潟出身、東京を拠点に活動するビートメイカー/プロデューサー、キュレーター。生音と先進的なサウンドを組み合わせたグルーヴィーなプロダクションを得意とし、アレンジ、ミックスダウンも自身でこなす。これまでにAyumu Imazu、&TEAM、TWS、King&Prince、SIRUP、BE:FIRST、春野、Furui Rihoなどの作品を手がけ、注目を集めている。

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