
日本野球機構(NPB)は26日、読売ジャイアンツから、阿部慎之助監督に代わり、橋上秀樹オフェンスチーフコーチが監督代行を務める旨の届け出があったことを発表した。名参謀役として知られる橋上氏だが、チームの勝利のためにどのような考え方を持った人物なのか。橋上秀樹氏の著書『常勝チームを作る「最強ミーティング」プロ野球監督に仕える「参謀」の役割』(カンゼン刊)から一部抜粋、再編集して公開する。(1/2)
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前人未到の記録を打ち立てた田中
[caption id="attachment_262200" align="alignnone" width="1200"] 楽天時代の田中将大【写真:産経新聞社】[/caption]
難攻不落のピッチャーを打ち崩すには、チームとして「ひとつの作戦を徹底させる」。
2013年の日本シリーズにおける、楽天の田中将大がまさにそうだった。この年の田中の成績は、もはや語るまでもあるまい。28試合に登板して24勝0敗。防御率1・27。24勝も驚異的な数字だが、0敗で終わったことのほうがすばらしい。何せシーズンでは一度も負けなかったのだ。過去のプロ野球界で、もちろん誰もいなかったし、未来永劫、これほどまでの記録を樹立するような選手は出てこないかもしれない。
けれども、この年の春に開催された第3回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック) では、田中の調子は今一つだった。侍ジャパンのエース格として期待されていたのだがストレート、スライダー、フォークボールと、投げる球はことごとく打たれ、首脳陣からも「怖くて使えない」という声が上がるほどだった。その結果、大会の途中からは先発ではなく、中継ぎとしてブルペンで待機してもらうことにした。
それがWBCからペナントレースに戻った途端、投げては勝ち、また投げては勝ちと、連勝記録が伸びていった。同時に、楽天も夏場以降からあれよあれよという間に快進撃を見せ、最終的には球団創設初のパ・リーグ制覇、優勝を決めた西武戦では、田中がみごとに胴上げ投手となった。
日本シリーズで徹底した“田中対策”
[caption id="attachment_262200" align="alignnone" width="1200"] 田中将大から決勝タイムリーを放った高橋由伸【写真:産経新聞社】[/caption]
その年、私が戦略コーチを務めていた巨人もセ・リーグ連覇、さらにはCS(クライマックスシリーズ)も勝ち抜き、楽天と日本シリーズで相対することとなった。
楽天でもっともマークすべきは、当然連勝をマークした田中だった。チームとしても、楽天に勝つということ以上に、田中を打って勝ちたいという気持ちのほうが強かった。
私が田中対策として選手に出した指示は、次のとおりだった。
「コントロールの精度が高いし、いろんな球種を追いかけたところで、まず打てないだろう。それならば『このコースに投げてくる』と、ピンポイントに的を絞って勝負していこう」
まさに捨て身の戦法をとっていこうと考えていた。ピンポイントに絞るべきボールは、それこそありとあらゆる状況を想定し、ある選手には、
「アウトコースのスライダーは捨てて、カウント球として投げてくるストレートを狙っていきなさい」
と指示をし、またある選手には、
「ひざの高さのボールはすべて見逃せ。そのゾーンからはストンと落ちるフォークボールを投げてくることが多い。だから振る必要はない」
そう断定して伝えるようにしていた。そうして最後には必ず、
「狙いが外れたら『ごめんなさい』でいい。そう割り切って作戦を徹底させていこう」
とも話しておいた。バッターは作戦面で決めごとを作っていても、バッターボックスに入った瞬間、「打ちたい、打ちたい」と焦る気持ちが出てくることもあれば、カウントが不利になると、「次に来るボールはなんだろう?」と、心理的に焦って冷静さを失うこともある。だからこそ、「失敗することもあると思っているから」と伝えると、選手は落ち着いてバッターボックスで相手ピッチャーと勝負できるのだ。
田中攻略もシリーズに敗れた巨人
[caption id="attachment_262200" align="alignnone" width="1200"] 日本一達成を喜ぶ楽天ナイン【写真:産経新聞社】[/caption]
そうして各自が狙うべきボールを定め、田中との勝負に挑んだ。その結果、第2戦では敗れたものの、第6戦では高橋が決勝タイムリーを打ち、4対2で勝利。打線も安打を放ち、田中対策は功を奏した。
試合終了後、巨人のベンチ内は、まるで日本一になったようなお祭り騒ぎだった。パ・リーグのどのチームも、田中に対して土をつけることができなかったが、それを巨人が果たしたからだ。
ただし、この勝利で巨人の選手たちは満足してしまった感があった。本来であれば、あとひとつ勝たなければ、日本一にはなれないはずなのに、肝心の第7戦は楽天ペースで試合が進み、最終回はまさかの田中のリリーフ登板で抑えられ、楽天に悲願の日本一を決められてしまった。
たしかに巨人打線は田中を攻略した。この点がみごとだったのは間違いない。だが、肝心の「日本一になる」という目標を、最後の最後に私も含めたみんながどこかに置き忘れてしまった。それが巨人の日本シリーズの敗因であったことも、また事実なのである。
【了】
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