仕事ではKPIを追い、SNSでは「いいね」の数を気にし、職場では空気を読み、人には好かれたい――。そんなふうに周囲の期待や評価を意識して過ごしているうちに、「自分は本当は何をしたかったんだろう」と、ふと分からなくなってしまうことはないでしょうか。
今回は、『静かな時間の使い方』(安斎勇樹/朝日新聞出版)より、あなたが弱い「ソーシャルノイズ」についての診断をご紹介します。同書では、「ソーシャルノイズ」とは「正しくあれ。ふつうであれ。ルールからはみ出すな。もっと成長しろ。数字が足りない。いいねを稼げ。輪を乱さずに、空気を読め。即レスしろ。マネジャーなら、こうふるまえ」などの外圧のことと定義しています。
こうした「外圧」が、私たちの頭の中には常に鳴り響いていて、日々の思考や行動に影響を与えているとのこと。
ソーシャルノイズの分類
ソーシャルノイズの3つの分類「社会の規範」「市場のスコア」「共同体の空気」
同書では「ソーシャルノイズ」を下記の3つに分類しています。
(1)社会の規範:世間に共有された正しさの平均値
(2)市場のスコア:数値化された価値の評価システム
(3)共同体の空気:暗黙の役割期待や同調圧力
「(1)社会の規範」は、法律、慣行、世間体、マナー、道徳観などによって形づくられる、「正しさ」「ふつうさ」「恥」などの価値基準の平均値のようなもの。こうした規範意識があることで世の中の秩序と安全が守られますが、過剰になると行動の基準が"納得"ではなく"体裁"へとすり替わってしまいます。
「(2)市場のスコア」は、資本主義社会を生きる私たちが常に示される売上、利益、KPI(重要業績評価指標)達成率、ランキング、フォロワー数、偏差値などの評価体系のこと。うまく活用すれば成果を見える化し、改善の手がかりをつくり、競争や成長を促す指標になります。一方で、裏を返せば、数値は常に「足りないもの」を自覚させ、「他人との優劣」を意識させる装置にもなりうるものです。
「(3)共同体の空気」は、家族、職場、業界、地域など、多くの人が所属する何らかの「共同体(コミュニティ)」による同調圧力を指します。これは共同体の内部の協働やコミュニケーションを円滑にする一方で、過剰になると"ムラ社会"的な排除やいじめ、忖度や気疲れの原因に。これは、仲が良く居心地がよい共同体においても例外ではなく、大好きだからこそ、嫌われたくないからNOが言えなくなると言ったような「過剰反応」が起こりうるのです。
ソーシャルノイズが悪影響を及ぼすときの「誘惑」と「抑圧」
同書では、上記のソーシャルノイズ自体は決して悪ではなく、むしろそれらがあるからこそ、倫理観が保たれたり、経済が成長したり、集団が結束したりといった良い効果が生まれるとしています。しかし、ソーシャルノイズが過剰になったときに悪影響を及ぼします。そのアプローチとして「誘惑」と「抑圧」の2パターンが存在するとのこと。
「誘惑」とは、私たちの注意や行動がソーシャルノイズによって過度に動機づけられ、近視眼的な行動に駆り立てられる状態です。例えば、職場で自分の部署のKPIを達成するためだけの短期施策に走ること、自分の評価を上げるために上司からのメールを1秒でも速く返そうとして、通知チェックと即レスをくり返すこと、SNSのフォロワー数を稼ぐために、炎上狙いの過激な投稿でインプレッションを増やす行為などが起きます。
また、「抑圧」とは、ソーシャルノイズが監視の圧力として働き、本来自分がやりたいと思っていた内発的な行動や発言が抑え込まれてしまう状態を示します。上司や親など他社からの評価や制裁を予期して不安になり、「黙っておこう」「やめておこう」と、自己検閲やリスク回避行動が強化されていきます。
診断チェック──あなたはどのノイズに弱いか?
自分がどんなノイズに影響を受けやすいのかを知るために、簡単なセルフチェックをやってみましょう。タイプは大きく次の6つに分かれます。
「社会の規範」に影響を受けやすいタイプには、誘惑されやすい「A:常識礼賛タイプ」と、抑圧されやすい「B:逸脱不安タイプ」があります。
「市場のスコア」に影響を受けやすいタイプには、誘惑されやすい「C:競争中毒タイプ」と、抑圧されやすい「D:評価疲弊タイプ」があります。
「共同体の空気」に影響を受けやすいタイプには、誘惑されやすい「E:承認依存タイプ」と、抑圧されやすい「F:視線過敏タイプ」があります。
あなたはどのタイプに当てはまるでしょうか?
それぞれのチェック項目について、0点(まったく当てはまらない)~3点(よく当てはまる)で直感的に答えてください。集計して、点が高かったタイプほど、あなたが影響を受けやすいノイズです。
A:常識礼賛タイプ(社会の規範×誘惑)
□「正解」や「正しい手順」があると安心する
□ルール・前例・常識に照らしてから動くことが多い
□ちゃんとしている人を見ると、背筋が伸びて自分もそうありたいと思う
□マナー違反・非常識を見かけると、強い違和感や怒りが湧きやすい
B:逸脱不安タイプ(社会の規範×抑圧)
□「非常識だと思われないか」が頭をよぎり、行動が慎重になる
□発言前に、炎上するリスクを想像して言葉を削ってしまう
□服装・言葉づかい・振る舞いを「無難」に寄せがちだ
□失敗よりも「恥をかくこと」「レッテル」を強く恐れる
C:競争中毒タイプ(市場のスコア×誘惑)
□数字・順位・伸び率を見ると、やる気が上がる
□売上、フォロワー、PVなど、数値を1日に何度もチェックしてしまう
□他人の成果を見ると、燃えて追いつきたくなる
□達成してもすぐ次の目標を立てて、休むのが下手だ
D:評価疲弊タイプ(市場のスコア×抑圧)
□KPI・目標・評価面談が近づくと、気力が目に見えて落ちる
□数字で測られると、工夫より"失点回避"の発想になりやすい
□比較・ランキングの話題が出ると、距離を置きたくなる
□うまくいっても「次に落ちたら終わりだ」と不安が先に立つ
E:承認依存タイプ(共同体の空気×誘惑)
□上司や家族に期待されている答えを先回りできるとうれしい
□本音より周囲の人たちに「共感される言い方」に寄せがち
□好かれたい気持ちで、頼まれると断れず引き受けやすい
□反応が薄いと不安になり、説明を足したり埋め合わせたくなる
F:視線過敏タイプ(共同体の空気×抑圧)
□周囲の視線や空気を読みすぎて、言いたいことが飲み込まれる
□即レスしないと悪く思われる気がして、焦って返信しがち
□誰かの機嫌が悪いと「自分が何かした?」と落ち着かなくなる
□波風を立てないために、皆がやりたがらない雑務も引き受ける
A~Fのそれぞれの点数を計算してみてください。
・0~3:低め(そのノイズの影響は受けにくい)
・4~7:中くらい(状況次第で影響)
・8~12:高め(生活や仕事の意思決定を左右しやすい)
ソーシャルノイズのタイプ別に計算してみたり、誘惑・抑圧のどちらに弱いのかを集計してみても参考になるかもしれません。
・社会の規範=A+B
・市場のスコア=C+D
・共同体の空気=E+F
・誘惑されやすい=A+C+E
・抑圧されやすい=B+D+F
今回の診断を通して、自分はどのようなソーシャルノイズの影響を受けやすく、さらにそれが「誘惑」されやすいか、「抑圧」されやすいかを知る機会になったのではないかと思います。
たとえば、評価や数字が気になって焦っているときは「自分は今、“市場のスコア”に強く影響されているのかもしれない」と立ち止まってみる。あるいは、空気を読みすぎて本音を飲み込みそうになったときには「これは“共同体の空気”のノイズかもしれない」と振り返ってみる。
そうして一度自分の状態を言葉にしてみるだけでも、外からの圧力と少し距離を置き、自分の納得感を取り戻すヒントになるかもしれません。



