
イタリアのデザイン文化の面白さは、異なる価値観が衝突するのではなく、共存することで新しい美を生み出す点にある。家具、建築、ファッション、そして自動車——それぞれの領域が互いに影響し合いながら、ひとつの文化を形づくってきた。
今回発表されたフォルナセッティとポルトローナ・フラウのコラボレーションも、まさにその典型だろう。一方は幻想的な装飾世界を展開するアートアトリエ。もう一方は、イタリア最高峰のレザーファニチャーブランド。一見すると意外にも思えるその組み合わせは、背景にあるイタリア的な”工芸と芸術の距離の近さ”を感じられて実に興味深い。
装飾という詩を生むフォルナセッティ
ピエロ・フォルナセッティが生み出した世界は、家具というよりもむしろ視覚詩に近い。
皿、キャビネット、スクリーン、壁紙。
彼の作品はあらゆるものの表面に現れ、そこに幻想的な物語を刻み込む。
今回のコラボレーションに使われている「Ultime Notizie」は、1950年に生まれたフォルナセッティの代表的なモチーフである。新聞の断片を思わせるタイポグラフィのコラージュの上を蝶が舞うデザインで、視覚的なリズムと詩的なイメージが同居する。
タイトルの意味は「最新ニュース」。だがそこに描かれる蝶は、情報が持つ儚さを象徴している。ニュースは瞬時に消費され、すぐに過去になる。フォルナセッティは、その儚い情報の上を蝶が舞うという、どこかユーモラスで哲学的なイメージを生み出した。
つまり彼の装飾は単なる装飾ではない。
そこには常に、見る者の想像力を揺さぶる”物語”が潜んでいる。
時間とともに完成するポルトローナ・フラウ
一方のポルトローナ・フラウは、1912年創業のイタリアを代表する家具ブランドである。
同社のプロダクトに共通するのは、レザーと職人技が生む圧倒的な触感だ。ポルトローナ・フラウの家具は視覚的なデザイン以上に、座ったときの感覚や経年変化によって価値を増していく。
今回のコレクションのベースとなる「1919」アームチェアは、その象徴的な存在だ。サヴォイア家の公爵のために特注されたといわれるこの椅子は、カピトンネの背もたれやプリーツ状のアームレストなど、熟練した職人技が細部にまで宿る。
さらに、ジャン=マリー・マッソーがデザインしたトランク型ドリンクキャビネット「Isidoro」も今回のコラボに登場する。こちらは本のように開く構造を持つホームバーキャビネットで、機能性と造形の美しさを両立させたプロダクトだ。
幻想と工芸が重なる瞬間
今回のコラボレーションの面白さは、両者が互いの個性を消していない点にある。
ポルトローナ・フラウの構造やクラフツマンシップはそのままに、そこへフォルナセッティの幻想的なグラフィックが重ねられている。結果として生まれるのは、装飾と構造という異なる価値のレイヤーが重なった家具だ。
重厚なレザーと確かな構造が身体を支える一方で、その表面では蝶が舞い、新聞の文字が視覚的なリズムを生み出す。この二重性こそが、今回のコレクションの魅力である。
「ニュースは儚い」というメッセージ
今回のコレクションには、フォルナセッティのアーティスティックディレクター、バルナバ・フォルナセッティの言葉が刻まれている。
「ニュースにとらわれすぎてはいけない。ニュースは儚いものだから」
情報が溢れる時代において、この言葉は象徴的である。
ニュースは消えていく。だが、よく作られた家具は何十年も使い続けられる。刹那の情報と、長く残る工芸。その対比こそが、このコラボレーションの本質ではないだろうか。
今回のコレクションは、家具という枠を超えて、芸術と工芸、装飾と構造という二つの思想が交差する場所に生まれた。それは、イタリアという国が長い時間をかけて育ててきた「文化としてのプロダクト」の姿そのものなのである。
ポルトローナ・フラウ
公式サイト:https://www.idc-otsuka.jp/poltrona-frau-tokyo-aoyama/
ポルトローナ・フラウ東京青山
TEL:03-3400-4321
ポルトローナ・フラウ大阪
TEL:06-6201-4321
文:前田陽一郎(オクタン日本版) 写真:ポルトローナ・フラウ
Words: Yoichiro MAEDA (Octane Japan) Photography: Poltrona Frau




