スポーツメディア業界の関係者を対象にしたイベント「WSC Sports Summit Tokyo」が26日、都内で開催され、フジテレビの野村和生コンテンツ事業局プラットフォーム事業センター室長が、世界最高峰の自動車レース「Formula 1」(F1)における取り組みについて語った。
2026年から5年間にわたる独占オールライツ契約によって、放送と配信を一体運用する体制を整えたフジ。11年ぶりの地上波復活とFODでのライブ配信を両輪に、どのような視聴体験を提供するのか。グローバルプラットフォーマーとの競争をにらんだ5年後を見据えた戦略を明かした。
世界のF1視聴者の43%は女性だが…
29日まで三重・鈴鹿サーキットで「日本グランプリ」が開催中のF1。かつてはアイルトン・セナらスター選手の活躍に、古舘伊知郎の名実況もあいまって一斉を風靡したコンテンツだが、近年はDAZNとフジテレビで放映権が分かれ、「フジテレビとして盛り上げても、視聴者がDAZNさんに行ってしまうというところで、積極的に報道などができない現状がありました」(野村氏)という課題があった。だが、今回の独占オールライツ契約によって、フジの持つメディアで横断的に展開できる環境が整った。
この契約が締結できた背景に、日本特有のF1のファン構造があると推測。世界ではF1の視聴者の43%を女性が占めるが、日本ではFODの契約者ベースで9割以上が男性という状況が長年続いていることから、新たな女性のファン層を獲得するために「F1側としても、1社のメディアで多角的に展開するほうが良いと判断したのではないかと思います」と見ている。
それを踏まえ、フジのミッションは、「各国でのグランプリが旅行や食事も含めたエンタテイメント体験の場になっているので、ただレースを放送・配信するだけではなく、そこに足を運んでいくような広がりを作っていく」ことが大きなテーマに。「朝から晩までいろんなニュースでF1を取り上げて、土壌を作っていく。その後に、ライト層から課金層にどうやって引き込むか」と、まずは地上波で裾野を広げていく戦略を示した。
象徴的な事例として、「『めざましテレビ』でF1の結果が報じられるようになりました」と挙げ、「これまでは日本人ドライバーが表彰台に上がらないと取り上げないというところがありましたが、昼の番組でも夜の番組でも、日常のニュースとしてF1を伝えていくことがまず大事だと思います」と位置づけた。
確実にAppleが契約を取りにくる
アメリカではこれまで配信していたESPNから放映権が移行し、2026年から5年間にわたりApple TVが独占配信する契約を締結した。こうした流れから、野村氏は「(現在のフジとの契約が終わる)5年後には、確実に日本でもAppleが契約を取りにくると思います。その時に、F1側がフジテレビと組んで良かったと思ってくれるように、この5年間でどれだけ裾野を広げていけるかが大事になってきます」と気を引き締める。
この意識は、配信プラットフォームのライバル関係であるU-NEXTとしても、「放映権は簡単にグローバルに取られてしまうので、そこと戦っていくために、日本の市場でファンを作るというのは非常に重要だと思います」(野村氏と対談した本多利彦U-NEXT取締役COO)と理解。
今回のF1のような大型スポーツIP(知的財産)を生かすことは、単にコンテンツ戦略だけではなく、“市場防衛”としての側面もあるようだ。
このイベントは、世界で650以上のリーグや放送局のスポーツの試合映像からAIを活用してハイライト動画を自動生成・配信するプラットフォームを提供するグローバル企業・WSC Sportsが初開催したもの。野村氏と本多氏のセッションのほかにも、Jリーグ・Bリーグ、DAZN、YouTubeの担当者がメディア戦略を語り、WSCの担当者が2030年のビジネスビジョンなどを示した。

