ビーチ・ボーイズの新メンバーはInstagramで発掘された「自分でも何と言えばいいのか……」

クリス・クロンは2023年、ザ・ビーチ・ボーイズ「Wouldn't It Be Nice(素敵じゃないか)」のカバーをネット上に投稿。その動画は『フルハウス』ジェシーおじさん役で知られるあの俳優も魅了し、そこから彼の人生は一変する──育児と副業に追われた音楽家が、ブルース・ジョンストンの後任を務めるまでの物語。

今年の初め、ナッシュビルを拠点に活動し、ビーチ・ボーイズのトリビュート・グループ「Pet Sounds Live」でボーカルを務めるクリス・クロンのもとに、ビーチ・ボーイズの音楽監督ブライアン・アイヘンバーガーから一本の電話が入った。その内容は、彼を絶句させるに十分なものだった。

「『ブルースが引退するんだ』と彼は言いました」とクロンは語る。ここでいうブルースとは、1965年にグループに加わり、過去61年間で6000回以上のステージを共にしてきたビーチ・ボーイズのメンバー、ブルース・ジョンソンのことだ。「『それで、彼のポジションを埋めてくれる人を探しているんだ。興味はあるかい?』と言われました。そのオファーは、当時の自分には到底現実味のない話でした」

しかし、創設メンバーのマイク・ラヴが率いる現在のビーチ・ボーイズ・ツアーバンドやアイヘンバーガーにとって、そのオファーは極めて理にかなったものだった。クロンのInstagramのフィードは、往年のビーチ・ボーイズのハーモニーを驚異的な精度で再現し、メンバー一人ひとりの独特なボーカルスタイルを模したバイラル動画で溢れている。「Pet Sounds Live」でも、彼はその歴史的な完璧さへのこだわりを全米のステージで発揮しており、昨年末にクリスチャン・ラヴの代役としてボーカルとギターを務めた際にも、現在のラインナップにとって貴重な戦力であることを証明していた。

それでも彼は、自分が単なる一時的な代役以上の存在になるとは予想だにしていなかった。ましてや、「California Girls」やアルバム『Pet Sounds』で歌声を披露してきた黄金期のメンバーの、正式な後任になるなどとは。

「周囲からは『君はビーチ・ボーイズのメンバーなんだね!』と言われます」とクロンは言う。「それに対しては、『ええ、現在はツアーメンバーとして参加していますから、そうなるんでしょうね』とお答えしています。でも、自分でも何と言えばいいのか……どう考えればいいのか分かりません。ただただ、楽しいです。僕の人生設計には、全く入っていない出来事でしたから」

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挫折を経験したインディーロック時代

この瞬間に至る道のりは、40年前のカリフォルニア州オレンジカウンティから始まった。クロンはザ・ビートルズ、エルトン・ジョン、スティーリー・ダンを崇拝する家庭で育った。

「Windows 95が発売されたとき、ウィーザー『Buddy Holly』の粗いミュージックビデオが同梱されていたんです」とクロンは言う。「12歳のときに(ウィーザーの)『ブルー・アルバム』が出ました。自分自身のものとして心から愛した、最初のアルバムだと記憶しています。その後、ユースパスター(教会の若者向け指導者)からイギリスの第二次スカ・ブームを教えてもらって、すっかりその世界にのめり込みました」

2000年、クロンはインディーロック・プロジェクト「Mêlée(メイレイ)」を結成し、最終的にワーナー・ブラザースと契約を交わした。彼らは夏の「ヴァンズ・ワープド・ツアー」に2度参加するなど精力的にツアーを行い、3枚のアルバムを制作した。クロンの言葉を借りれば、初期はサムシング・コーポレイトのようなスタイルで、最終的には「エルトン・ジョンとキーンが出会ったような」サウンドへと進化していった。しかし、バンド活動中に徐々に衰退していった音楽業界の中で、確固たる足場を築くことはできなかった。バンドのラストアルバムにいたっては、アメリカ国内でリリースすらされなかった。

「そのアルバムを回収して他のレーベルに持ち込んだのですが、どこも相手にしてくれませんでした」と彼は振り返る。「自分はただ疲れ果てて、燃え尽きていました。メンバーには、もう辞めると伝えました」

30歳の誕生日を数カ月後に控え、実家暮らしを続けていたクロンは、バンドのない自分にどんな未来が待っているのか、深い不安に包まれていた。彼はアイスクリームショップのコールド・ストーン・クリーマリーやスーパーマーケットで働き、結婚を経て、最終的にナッシュビルへ移住して人生をやり直す決意をした。妻が事務職で働く傍ら、彼はナッシュビルのYMCAで放課後プログラムの監督を務め、建設現場の雑多な仕事も請け負った。

ある時、彼はパラモアのヘイリー・ウィリアムスの自宅キッチンで作業中、彼女と対面することになった。数年前、Mêléeのツアーでパラモアがサポートアクトを務めたことがあったのだ。

「彼女の家のキッチンで、配管修理などの仕事をしていたんです」と彼は語る。「そこで彼女に言いました。『覚えているかどうか分かりませんが、昔、あなたたちのバンドが僕らの前座をやってくれたことがあるんですよ』と。彼女は覚えていてくれて、とても親切で素敵に対応してくれました。ワープド・ツアー時代の古き良き思い出について語り合いました」

Instagramがもたらした人生の転機

クロンの人生に転機が訪れたのは、父親になり、家族を養うための安定した収入を優先し始めた頃だった。彼はフルタイムの音楽活動から離れ、イスラエルのソフトウェア会社「Simply」で、音楽学習アプリ用の楽曲を制作する仕事を得た。著作権料を抑えるために名曲をレコーディングし直すというその業務の中で、彼は「Wouldn't It Be Nice」を歌うことになる。

もともとビーチ・ボーイズの代表曲は知っていたが、彼がその奥深い世界に心酔したのは2003年のことだ。自身のバンド「Mêlée」のレコーディング中に手にした『Pet Sounds』のセッション音源がきっかけだった。楽器演奏のみのトラックやアカペラを聴き込み、ポップ・ロックの枠を超えた多彩な楽器編成と魔法のようなプロデュースワークに、彼は大きな衝撃を受けたという。

それから20年後、アプリの仕事で「Wouldn't It Be Nice」を録音した際、ふと思いついたことがあった。

「フォロワーもいなかったし、インフルエンサーになろうなんて思ってもいませんでした」と彼は振り返る。「ただ、何が当たるか試してみようという軽い気持ちだったんです。『手元にこの曲のトラックが全部あるし、ビーチ・ボーイズっぽく歌うコツを教える動画でも出してみようかな』と思い立ちました」

クロンがその動画を投稿したのは、2023年4月13日のことだった。

「2、3時間後にチェックしたら、1万回再生くらいになっていたんです。自分史上最高の数字でした」とクロンは語る。「さらに見直したら4万回まで伸びていて。妻に電話して、『動画がバズっちゃったよ』なんて冗談めかして報告しました」

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その動画は最終的に200万回近い再生数を記録し、彼はその後もビーチ・ボーイズ関連の動画を次々と投稿していった。あるファンがコメント欄でジョン・ステイモス(『フルハウス』のジェシーおじさん役で知られる俳優、ビーチ・ボーイズのサポートメンバーとしても有名)をタグ付けしたところ、彼がクロンをフォローしたのだ。

「『フォローありがとうございます』とメッセージを送りました」とクロンは言う。「すると彼から返信があって、そこからやり取りが続くようになったんです。その後、車で20分ほどの距離に住んでいるブライアン・アイヘンバーガーを紹介してくれました。二人でコーヒーを飲みに行って、すぐに意気投合しましたよ」

この動画は、アル・ジャーディンのバックバンドのメンバーであり、自身もビーチ・ボーイズのトリビュートバンド「Good Vibrations」を率いるジェフ・セレンターノの目にも留まった。彼はクロンを、相棒のジェイソン・ブリューワーと共に立ち上げた新しいツアープロジェクト「Pet Sounds Live」に誘った。彼らの目的は、トリビュートバンドのサーキットにおいて、アルバム『Pet Sounds』と往年のヒット曲を音符一つ狂わぬ完璧さで再現することだった。

「彼らともInstagramを通じて知り合いました」とクロンは語る。「『ベースプレイヤーが必要なんだ』と言われて、ベースを買って練習を始めました。デモ音源でベースを弾いたことはありましたが、シンプルなパンクロック程度のものでしたから。キャロル・ケイ(伝説的セッションベーシスト)のパートをすべて習得するのに1カ月ほどかかりましたし、最初の数公演は少し危なっかしいところもありました。でも、最終的にはしっかり自分のものにして、すべて暗記しました」

しかし、公演は散発的なもので、クロンは引き続き単発のボーカルセッションの仕事もこなしていた。日本のCMソングや、スウェーデンのハウスDJ向けのパーツ録りなどだ。この頃、クロンと妻の間には二人の子供がおり、仕事が不規則なせいで、ある月は3000ドルにも満たないかと思えば、翌月には2カ月分を稼ぎ出すといった不安定な生活が続いていた。

クロンはアイヘンバーガーと連絡を取り合っていた。互いに同じ年頃の子供がいたこともあり、家族ぐるみの付き合いが深まっていった。2024年の春、アイヘンバーガーはクロン一家をケンタッキー州でのビーチ・ボーイズの公演に招待した。クロンはステージに招かれて「Kokomo」を歌い、子供たちもステージに上がって「Barbara Ann」に合わせて踊った。その光景は、1988年にドラマ『フルハウス』でタナー家が演じたあの名シーンさながらだった。

61年分のバトンを受け取る決意

1985年から時折ビーチ・ボーイズのステージに立っているステイモスもまた、クロンとの交流を続けていた。「彼は人と人を繋げたり、助けたりするのが大好きなんです」とクロンは言う。

「知り合って間もない頃に、彼から『僕の誕生日会の招待状は届いたかい?』と聞かれたんです。『何のことですか?』と驚きましたが、結局妻と一緒にカリフォルニアでのパーティーにお邪魔しました。そこには僕の他にも、彼がネットで知り合ったドラマーなど、何人もの人たちが招かれていました。彼はただ、恩返しをするのが大好きなんです」

クロン自身、ビーチ・ボーイズのツアー本体との関わりは、ケンタッキーでのゲスト出演のようなささやかなものに留まると考えていた。しかし2025年11月、フロリダのエプコット・センターでの公演を含む数ステージで、クリスチャン・ラヴの代役としてギターとボーカルを務めてほしいという依頼が舞い込んだ。

「家族を連れてディズニー・ワールドへ行きました」とクロンは語る。「まさに現実離れした体験でした。そこにはブルース(・ジョンストン)もいて、とても温かく迎えてくれたんです。彼は私の息子に『大学には行ったほうがいいよ』なんてアドバイスまでくれました」

ブルース・ジョンストンがビーチ・ボーイズに加入したのは61年前のことだ。ブライアン・ウィルソンの最初の代役だったグレン・キャンベルが、わずか数カ月で身を引いた際のことだった。1972年から1978年の一時期を除き、彼は2025年末までグループに留まり続けた。そして彼が引退を決意したとき、バトンはクロンへと渡された。

「ブルース・ジョンソンの代わりなんて、誰にも務まりません」とクロンは言う。「『彼の後釜に座る』なんて、おこがましくて言えません。僕はただ、彼が戻ってくるまでの間、その場所をお預かりしているだけなんです」

クロンには、2月中旬にニューメキシコ州アルバカーキへ飛び、2日間の猛特訓に臨むまで、心の準備をする時間はわずか3週間しかなかった。リハーサルでは、ショーの全行程を何度も何度も繰り返し演奏した。キーボードの主要なパートを担当するティム・ボノムが、クロンがどこで音を差し挟むべきかを教え、彼を支えた。

「基本的にはピアノとオルガンの補助パートを担当しています」とクロンは言う。「『Darlin'』では、ベースギターを補強するピアノの低音フレーズを弾きつつ、タンバリンも叩きます。ボーカルについては、ブルースのパートをすべて歌います。昨年はクリスチャンのパートを覚え、今回はブルースのパートでショー全体を完全に覚え直さなければなりませんでした。それに加えて、まだ『Pet Sounds Live』にも在籍しているので、頭の中には3つの異なるパートが混在している状態です」

リードボーカルの大部分はマイク・ラヴとアイヘンバーガーが務め、クリスチャン・ラヴやドラマーのジョン・ボルトンにもそれぞれ見せ場が用意されている。しかしクロンも、「Surfer Girl」のブリッジ部分を歌い、「Do You Wanna Dance」ではリードを執る。さらに「California Girls」の〈I wish they all could be California〉という印象的なフックも担当している。そして何より、一晩中、グループ全体のボーカル・ブレンドの一翼を担い続ける。

この新しい仕事により、クロンは1年の大半をツアーに費やすことになる。特に「Pet Sounds Live」での活動も継続しているため多忙を極めるが、彼はその挑戦への準備ができている。

「ビーチ・ボーイズからのオファーについて話したとき、妻は目を丸くしていました」と彼は語る。「彼女は『絶対にやるべきよ。このチャンスを断るなんてありえない』と言ってくれました。ツアーに出るのは、2010年に以前のバンドをやっていた時以来です。当時は新婚で子供もいませんでしたが、今はどっぷり結婚生活で、子供もいます。大きな変化ですが、家族も本当に喜んでくれています」

驚くべきことに、これらすべてはInstagramなしには起こり得なかった。「本当に不思議な感覚です」と彼は言う。

「ソーシャルメディアには弊害もたくさんありますが、これはその数少ない明るい兆しの一つですね。それに、こんなこと計画してできるはずがありません。ボブ・ロス(画家)が言うところの、まさに『幸せな偶然(happy accident)』ですよ」

From Rolling Stone US.

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