「在庫が残りわずか」などの事実とは異なる文句で購入意欲を煽ったり、サービス利用に不要な個人情報を入力させたり……。消費者を意図的に騙したり、不利な条件に導いたりするようなUIやデザイン設計を「ダークパターン」と言います。その撲滅に向けた取り組みを行う一般社団法人ダークパターン対策協会が制作した啓発動画を教材として、2月19日と27日に大阪府・豊中市立第十一中学校でダークパターンの手口や対策を学ぶ授業が行われました。ここでは、その様子をレポートします。
そもそも「ダークパターン」ってなに?
お試しで1回だけ購入したつもりが定期購入になっていたり、解約したくてもその方法が複雑で不当に高い手数料が必要だった、なんて経験をしたことはないでしょうか? 「ダークパターン」とは、このように利用者を意図的に誤解させたり、不利な条件に誘導したりするようなUIやデザイン設計のこと。例に挙げた以外にも、自社商品の税抜き価格と競合の税込価格を並べて安く見せる、広告と分かりにくいものをクリックさせる、サクラの口コミで商品を魅力的に見せるなど、さまざまな手法があります。消費者にとって直接的な不利益になるだけでなく、誠実な企業が正しく評価されずに“悪貨が良貨を駆逐する”ことで悪循環が起こりやすくなるという問題もあります。
こうした問題を解決するため、中立な立場からWebサイトを審査・認定し、改ざんできない認定マークを付与する「NDD(Non-Deceptive Design)認定制度」を立ち上げて運用しているのが、一般社団法人ダークパターン対策協会です。NDD認定以外にも、ダークパターンの手口や対策を周知し被害を防ぐための啓発動画を制作するなどの活動を行っており、その動画は消費者庁の「消費者教育ポータルサイト」や同協会のYouTubeチャンネルで視聴できます。
2026年には、株式会社タツノコプロの『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』とタイアップした動画も公開。ヤッターマンやドロンジョを起用することで、ダークパターンの被害を受けやすい小中高生にも被害を身近に感じられる内容になっており好評を博しています。
今回の大阪府・豊中市立第十一中学校の授業は、そのタイアップ動画「それ、ダークパターンかも!?」などを教材にして行われました。
生徒たちが教え合いながら「ダークパターン」への理解を深める
授業は、豊中市立第十一中学校の1年生約40名を対象に行われました。担当講師は同校の家庭科教員として、ジェンダー問題の視点も取り入れた家庭科の授業実践に取り組んでいる松崎弘太教諭です。
冒頭、松崎教諭は生徒たちに「財産5億円のAさんと貯金1万円のMさんの二人から儲け話を持ちかけられた場合、どちらを信用する?」と質問。続いて、Aさんの財産の内訳がローンで購入した家と車などで、現金は1万円しか持っていないことを明かしました。一方、Mさんは貯金1万円のほか、財布に10万円、銀行預金に500万円を持っていると説明。「Aさんの財産が5億円というのは嘘ではないが、本当にお金を持っている方はMさん」と、分かりやすいたとえ話で情報に潜むワナを解き明かし「お金や消費生活についてしっかり学ぶことの大切さ」を訴えました。
その後、生徒たちは前述のタイアップ動画「それ、ダークパターンかも!?仕方なく同意編」を視聴。ストーリーは、ドロンボー一味がWebサイトのクッキー(Cookie)同意画面から「拒否」ボタンを消して「同意」ボタンだけにし、利用者の個人情報を盗み取ろうとしたところにヤッターマンが駆けつけるという内容です。松崎教諭はその動画をもとにダークパターンの概要を解説。理解を深めるため「みんなに先生になってもらいます」と話し、グループワークの方法を説明しました。
グループワークは3名1班に分かれ、それぞれが先生役として残り2名に教えるジグソー学習法で行われました。教材として使用するのはダークパターン対策協会が制作した小学生向けの啓発動画で、クイズを交えながらダークパターンの手口や対策を学ぶことができるもの。松崎教諭は自ら手本を見せながら、先生役として授業する際のコツを伝授しました。
実際のワークは、まず先生役となる生徒たちが集まって授業を考え、動画を視聴して説明の練習をしたあと、自分の班に戻り授業をするという流れで行われました。授業時間は一人2~3分という長さでしたが、先生役の生徒も、その授業を受ける生徒たちも真剣な眼差し。先生役の生徒が動画視聴の際に説明のポイントとなるところをスクリーンショットに撮り、それをもとに分かりやすく伝えようとしている姿が印象的でした。
授業の最後に松崎教諭から、国内でのダークパターンの年間被害総額が推定1兆円を超えているという説明があり、生徒たちはみな驚きの表情を見せていました。松崎教諭は、そんな生徒たちに「普段から安全性の高いWebサイトを示すNDD認定マークなどをチェックしてトラブルに巻き込まれないようにしてほしい」と呼びかけ、「(1)ダークパターン対策協会のサイトから啓発動画の『中学生向け②』を視聴する」「(2)今日の授業を振り返り、学んだことを頭の中で復習する」「(3)学んだことを身の回りの大人に伝えて消費トラブルの被害を防いでいきましょう!」と3つの宿題を出しました。
授業を終えた感想を尋ねたところ、生徒の一人は「これまでダークパターンを知らなかったのですが、いろいろ種類があってそれぞれにしっかりとした対策があることを知ることができ、勉強になりました。普段あまり人にものを教えるということがなくていい経験になりました」とコメントしてくれました。
また、別の生徒は「ダークパターンを身の回りの人に教えることができたら、1兆円の被害も減らせそう。実際に友達が被害にあったと聞いたことがあるのですごく怖いです。通販サイトなどを使う際にこういうことがあるんだよということを周りの人にも教えたいですし、NDD認定マークなどもこれから意識したいと思います。(先生役については)自分で教えるのは意外と難しくて、いつも授業をしている先生はすごいなと尊敬しました」とのこと。しっかりダークパターンを“自分ごと化”している様子がうかがえました。
学んだことを今後の生活で活かしてもらうことが目的
授業の終了後、松崎教諭に今回の授業の目的や感想をお聞きしました。
「ダークパターンという言葉を多くの人が知らない現状があったので、子どもたちがまずそれを理解して宿題で周りの大人に伝えていくことで、少しでも広まっていくようにと思いながら授業を構成しました。啓発動画を見るだけでもダークパターンについて理解はできますが、他人に教えることでより深い理解につながるのではないかと思い、生徒が先生役となって他の生徒に教える形をとりました」(松崎教諭)
近年オンラインショッピングを利用する世帯は急速に増えており、生徒たちの家庭でも9割近くが利用しているのだそう。松崎教諭は「それだけ身近なところにトラップが潜んでいるということ。オンラインショッピングは消費者トラブルにつながりやすいので、生徒たちに授業で学んだことを今後の生活で活かしてもらい、1兆円という被害総額を少しでも減らすことができれば」と期待を寄せました。
松崎教諭が担当する家庭科の授業でダークパターンを取り上げたことについては、「家庭科の内容も時代とともに変わってきています。お金や消費生活のトラブル、今回の授業で取り上げたダークパターンなどは、今後生活の中でも関わってくる内容。家庭科の授業を通して、生徒たちがそれをしっかり受け止めてくれたなという実感があります。これからの生活に活かしてもらえたら嬉しいですね」と語ってくれました。
なお、ダークパターン対策協会の小川晋平代表理事によると、欧米の場合は包括的な規制があってダークパターンのような欺瞞的な行為に多額の制裁金を課すことができるそうですが、日本の場合は包括的な規制がなくグレーゾーンが大きいため、民間主導でNDD認定制度を立ち上げることになったそうです。今後、同制度の一層の周知を図り、消費者の方に安心してWebサイトやサービスを利用してもらえるような流れを作っていきたいとのこと。消費者の方には「怪しいと思ったサイトでは取り引きしないのがいちばん。どうしても何か買いたいと思ったときは、本当に必要なのか一度立ち止まってみてください。それだけでも冷静な考えになり、被害を防ぐことにつながります」とアドバイスをくれました。
















