姫路。世界文化遺産・姫路城を有する旧城下町だ。そんな姫路に、開店前から行列の絶えない寿司屋があると聞いた。
これは寿司好きとして体験してみたい。そう思い、神戸のちょい先へ足を運んでみた。
オープン前。すでに行列
神戸からは、三宮駅から新快速に乗れば約40分・新幹線だと15分、とあっという間に姫路駅に到着する。しかし「ちょっと西」なだけなのに、雰囲気が少し変わったように感じる。姫路駅周辺を散策していると、昼前だというのに酒場の暖簾が出ていて、すでにお酒を飲んでいる人を見かける。観光客もいるが、地元の人たちがワイワイと談笑しているようだ。神戸よりいくばくか緩やかな雰囲気が漂っていた。
お目当ての寿司屋さんは「立ち喰い寿司 魚路(ととろ)」だ。姫路駅に隣接している「ビエラ姫路」の東館にある。
兵庫、特に神戸近郊では、JRや阪急、阪神線といった東西に走る線の北側を「山側」、南側を「海側」というが、こちらは駅構内の海側だ。
開店10分前に到着。さすがにスッと入店できるだろうと思っていた。 しかし甘かった。
すでに列ができている。
慣れた様子で待つ地元民らしき人たち。カップル、ご夫婦、友人同士。おひとり様もちらほら見える。
並んでいる客に、これまた慣れた様子でスタッフさんがメニューを手渡していく。
おいしそう。そして、値段に驚愕する。
本まぐろ290円!?
めちゃくちゃ安くないか!?
気づくと店の外周を囲んでいくように、行列が筆者の並びの後ろにも続いていた。
11:30、オープン。
しかし1巡目には入れず、2巡目となった。
20分ほどすると声がかかり、店内の中待ち合いへ向かう。
立ち喰いだからか、テーブルだけの寿司屋より回転が早い印象だ。
並び始めてから約50分後。
「どうぞ」。
神の声がかかった。
立ち喰いの本気寿司
のれんの奥に入ると、20名ほどが並べるカウンターがあり、思っていたよりも小ぶりだった。しかしカウンターには2名ずつ仕切りがあり、カウンター下に荷物が置け、上着をかけられる衣文かけも背面の壁にある。コンパクトながら手狭感を感じない設計だ。
カウンター越しの職人さんは、適宜元気な声を出しながら素早く握っている。
無駄な動きがない。
回転もいいのに、丁寧な仕事をしているように感じる。
これは期待できるぞ。
メニューには単品寿司と「特上にぎりセット」「上にぎりセット」「お気軽セット」という3つのセットが書かれていた。
姫路だから名物の穴子は外せないと思っていた筆者は、「特上にぎりセット」をオーダー。
なんと、セットを注文すると生ビールと枝豆のセットが390円でつけられると書いてある。
ワンコイン以下!?これは頼むしかないじゃないか。
ということで、この2セットを頼んだ。
ちなみに一緒に行った友人はビールが苦手だったため、レモンサワーに変えてもらった。
「お待たせしました」
ものの数分でビールと枝豆が到着。
泡の具合もとてもいい生ビールでのどを潤す。キンキンでとてもおいしい。
そして飲みながら友人と話していると……
「お待たせしましたー!」
特上にぎりセットがやってきた。
と同時に、隣にいた地元の女性のお客さんが我々のセットを見て「うわー!」「すごい!」と声を上げた。
お話を聞くと、どうやら上にぎりか特上にぎりか迷って上にぎりにしたらしい。
特上にぎりセットを眺めて少し後悔した様子だった。
まず、全体的に1貫が大きめだ。
そしてネタがとてもキレイな色味で照り・ツヤが美しい。
新鮮な魚であることが見てわかる。
本まぐろ大トロ、ハマチ大トロ、穴子一本、サーモン大トロ、生大エビ(頭付き)、ヒラメ、特上イカ、玉子、赤貝。
なんと魅力的なラインナップだろうか。スターづくしである。
どれから食べるか少し迷い、赤貝に手を伸ばす。
最初の一貫を口に入れた瞬間、並んだ50分という数字がどうでもよくなった。
シャリがうまい。
粒が立ち、ほろりとほどけ、ほんのり温かい。
赤貝の甘みと食感と、シャリの甘みと食感が混ざり合う。
「うーん!!」と思わず目を閉じる。
特上イカの粘りと甘味、ヒラメの透明感、エビの香ばしい風味。
噛むほどに旨味が口に広がっていく。
ハマチやサーモン、本マグロと、脂ののった大トロ群もまたいい。
まったくしつこくない脂の旨味に驚きが隠せない。
甘い。
特にマグロの甘さは印象的だ。
最後に姫路の食の代名詞でもある穴子を手に取る。
一本なのでシャリを挟んで上下にネタがあるのだが、なんと身が旨いことか。
ネタが倍あるにもかかわらず甘ダレの量は一般的な穴子寿司よりも少なめ。
だからこそ感じられる穴子本来の身の旨味。
この寿司職人たちは「ネタの力を信じてる」のだろう。
立ち食いというスタイルから想像する手軽さを、軽々と超えてくる本気具合だった。
ちなみに立ち喰いとはいえ、本格寿司屋なのでわさびは挟まっていた。さび抜き希望の方はあらかじめ伝えたほうがいいだろう。
並ぶ価値ある寿司だった
平日のランチタイム。ビジネスマンは午後からの仕事がある時間だが、ここではすでにジョッキを傾け、少し顔を赤らめながら寿司とお酒を楽しんでいる。
姫路駅周辺には、「昼に軽く一杯」できるお店が多い印象だからこそ、立ち喰い寿司でビールという組み合わせも、まったく浮かない。
シャリのほのかな酸味。
ネタの甘み。
そこにビールの苦み。
50分並んだあとの一杯は、たまらなくウマい。
さらに、昼も夜も赤だしがついてくる。それで特上にぎりセットが2,350円、上にぎりセット1,950円、お気軽セット1,550円。観光地価格とは思えない設定だ。
神戸で同じ満足度を求めるなら、もう少しお財布も膨らませていかないといけないだろう。
だがここでは、肩の力を抜いて楽しめる。
関西の主要都市から見ると、姫路は少し遠い存在だ。とはいえ、神戸からなら電車でたった40分。
昼から一杯やりながら、本気の寿司に舌鼓を打つ。スタンディングならではの、隣り合わせた人とのちょっとした会話も楽しみながら、ローカルな空気を感じる。
そんな店が姫路にある。
行列には、ちゃんと理由があった。
そう思いながら、上機嫌で電車に乗り込んだのだった。








