
スイスの山岳リゾート、サンモリッツ。この地が1月の雪に覆われたウィークエンドの間、世界中のカーガイを集める他に類を見ないコンクール・デレガンスが開催された。”The I.C.E. サンモリッツ”である。
【画像】クラシックカーから最新ハイパーカーまで!ラグジュアリーカーがスイスの氷上で競演(写真64点)
ゴルフコースやラグジュアリーホテルに珠玉の名車を並べる従来のコンクールとは異なり、アルプスの凍った湖の氷上を総額では考えられないほど高額な個体たちが本気で走る姿を楽しむことかできる。これまでのエディションでは豪雪で当地が孤立してしまって直前の中止宣言が出たり、季節外れの高温で表面の氷が解け始めてしまったりと、トラブルが起こったこともある。でも、その不便さと意外性が楽しくもある。今回はパリのレトロモビルと開催日程を続けたこともあり、世界中からやってきたギャラリー達がイベントを楽しんだ。
このイベントは、クラシックカーソサエティに長年関わってきたマルコ・マカウスの独創的なアイディアから2019年に誕生した。アートとスポーツ、静と動を融合させた、コンクール・デレガンスの世界でも類を見ないコンセプトである。参加車両の50台は厳格にセレクトされ、ギャラリーの数も制限され、彼のフィロソフィーは厳密に守られているのだ。
今年の氷のコンディションは最高であり、天気も文句ないものであった。とはいっても真冬のアルプス。寒暖計はマイナス19度を表していたから、完全武装で臨む必要がある。最古のモデル、1924年ブガッティ・タイプ13から、1999年のポルシェGT1、パガーニ・ゾンダC12プロトタイプまでよくぞこれだけ異なったカテゴリーの名車を集めたな、と感心させられるほどの興味深いラインナップとなった。
「Living Legends」カテゴリーでは、ユニークかつおよそ氷上での走りには適さない個体がすさまじいドリフトを繰り広げた。あの幻の一台、日産 R390 GT1(1998年ル・マン参戦車):も、日本ではおなじみのエリック・コマスのドライビングで登場だ。さすがは元F1ドライバー、想定外のスピードでコーナーを攻める姿には感動しかない。アウディ・スポーツ・クワトロ S1 E2やランチア・デルタ S4と共に、激しい雪煙の中をドリフトして駆け抜けていくのだから、このシーンを見るだけでも元を取った(笑)気分となった。
このイベントでは氷上に用意された”サーキット”を走り、全力走行する個体のダイナミックさも、大きな評価のポイントとなる。審査員の前をそろそろと数十メートル走らせるだけの一般的なコンクール・デレガンスとはまったくスタンスが異なる。そう、やはり車は走っている時が一番美しい。
今回、この祭典にさらなる輝きを添えたのは、スイス空軍の公式アクロバットチーム「パトルイユ・スイス」の特別参加であった。1964年以来、スイス航空界の誇りである彼らが、金曜日のトレーニングと土曜日の本番の2回、午後2時に湖とエンガディンの山々の上空を舞った。それは、氷上の名車たちと共に素晴らしいシンフォニーを奏でてくれた感動のエアショーであった。そして、この「F-5 タイガー」にとって、今回の飛行が当地で見せる最後の雄姿(フェアウェル・サリュート)となったというストーリーもあったから、このサプライズは皆をなおさら感動させた。
「Barchettas on the Lake」とは、およそ冬の湖上には最も適さないカテゴリーのように感じるかもしれないが、実はライトウェイトと細いタイヤのおかげで、みずすましのような機敏さを魅せてくれた。1953年OSCA MT、1955年フェラーリ 750 モンツァ、1955年アルファロメオ・ジュリエッタ・スパイダー・プロトタイプ、1956年マセラティ 300Sなどの精鋭たちが駆け抜ける。個人的にはウルトラレアな空力スタディモデルである1965年ポンティアック・ヴィヴァンの走りにワクワクした。6ℓV8の咆哮と未来的なスタイリングとのコンビネーションと併せて、まさにSFの世界そのものだった。
「Open Wheels」カテゴリーの各車は、まるでスピードボートのように湖上を駆け抜けた。巨大な1928年ベントレー 4.5リッター、元スクーデリア・フェラーリのアルファロメオ 8C 2300というアイコニックなモデルの走りが楽しめるのだから、こちらも文句ない。
「Birth of the Hypercar」カテゴリーは昨今のネオクラシック・ブームもあり、一般的に言えば最も注目を集めたのかもしれない。1995年フェラーリ F50、1996年マクラーレン F1や、1999年ポルシェ GT1などが並んだ。ケーニグセグの最初のプロトタイプ、1996年ケーニグセグCCといったレアカーまでも氷上でダンスを繰り広げたのだからエキサイティングだ。しかし、このカテゴリーの各車が氷上の走りにおいては一番ハンディがあったかもしれない。重いボディとファットなタイヤ、そろそろと走ったり、スタックして牽引される個体も多発したのだった。
このイベントを継続的にスポンサードしているマセラティは、このThe I.C.E.を限定モデルのアンヴェイルの場に選んだ。カーリングやスケートのアクティビティを楽しむためのより”低μ”な氷上にて、独自のアイ・アクア・レインボーとグロスオレンジアクセントのペイントが施されたMC PURA Cielo FROZEN MAGMAと称すフォーリセリエモデルが披露された。立っているのもままならないつるつる滑る氷上に現れた特別モデルを楽しむことができた。ブランドとしては1949年製マセラティ 4CLTが”Open Wheels”カテゴリーで見事ベスト・イン・クラスを獲得。マセラティ兄弟が関与した最後の時期に開発された戦後グランプリ・シングルシーターのマスターピースである。
「ベスト・オブ・ショー」を射止めたのは、フリッツ・バーカード所有の1937年タルボ・ラーゴ T150C SS「ティアドロップ」であった。フィゴーニ&ファラスキによるその流麗な造形は、一般的なコンクール・デレガンスのグリーン上でも素晴らしく美しいのはもちろんであるが、この白銀の世界の中ではさらにその美しさを増すように感じた。
その他の主な受賞車:
Legendary Liveries: 1976年ランチア・ストラトス
Open Wheels 1949年 マセラティ 4CLT
Birth of the Hypercar: 1993年 ジャガー XJ220
Hero Below Zero(一般投票): 1996年 マクラーレン F1 GTR(Larkカラー)
Spirit of St. Moritz: 1967年 フェラーリ・ディーノ 206 S(観光ポスターのラッピング仕様)
The I.C.E.を訪れるためのアドバイス
このエレガント極まりないイベントをそのスタートからずっと応援している筆者から、幾つかのアドバイス。前述のようにチケットは限定数販売だからウェブサイトをまめにチェックし、メーリングリストにも参加されたい。金曜、土曜の二日間の開催となり、1日目がディスプレイ主体で、2日目が走行主体+セレモニーだ。一日目の方は展示車両をそれぞれ目の前で観察することができるし、走行も行われるから、どちらか一日の参加ならば、金曜日の方がより楽しむことができるかもしれない。
アクセスはチューリッヒから、もしくはミラノからの二つのルートがメインであろう。ミラノからティラノ経由で絶景を楽しむことのできるベルニナ急行でゆっくり行くのもよい。サンモリッツのホテルはこのシーズン、ほぼ満室であるし、良いところはとんでもなく高価であるから、ベルニナ急行沿いの小都市に宿泊する手もある。こぢんまりとしたポスキアボはお勧めだし、サンモリッツまでベルニナ急行で1時間半ほどだ。
ウェブサイト:https://theicestmoritz.ch/
Special thanks Marco Makaus, Desiree Baldini,
Words: Shinichi EKKO
Photography: The I.C.E. St. Moritz, Alessandro Barbieri, Shinichi EKKO