業務の効率化や従業員の負担軽減のために、ChatGPTをはじめとした生成AIには期待が寄せられている。しかし、生成AIが労働現場に定着しているとは言い難い。生成AIを普及させるための取り組みは手探り状態が続いている印象だ。
「はたらいて、笑おう。」をビジョンに掲げるパーソルグループは、生成AIの普及に関する報道関係者向けのオンライン記者勉強会を開催。パーソルキャリアの研究員・田村氏が登壇し、パーソル総合研究所が実施した「生成AIとはたらき方に関する実態調査」の結果を踏まえ、生成AIが働き方にもたらす影響を解説した。
生成AIの日常的な利用率は4割以下
まず、田村氏は生成AIの利用状況を解説する。業務利用(32.4%)と日常生活利用(39.9%)は半数以下で、週4日以上利用しているヘビーユーザーは1割強にとどまっているという。 性年代別・雇用形態別で分けた場合、男女ともに若い世代のほうが、さらには正社員や嘱託社員、公務員・団体職員などの割合が高いことがわかった。
職位別の割合では、「事業部長相当」(79.6%)・「部長相当」(62.0%)といった管理職層は高い一方、「役員担当」(43.6%)・「代表取締役・社長相当」(40.2%)といった経営層に加え、「一般社員・従業員」(35.5%)は低い。また、従業員数の多い企業ほど、利用率は高く、さまざまな利用格差が見えてきた。
生成AIを利用しない人の特徴を掘り下げていくと、理由としては「自分の業務には必要性を感じない」「使い方がわからない」「どのような業務で使えるのかイメージできない」などが世代に関係なく高い。
一般職層と経営層にわけると、一般層は「使い方がわからない」(13.2%)、経営層は「自分の業務には必要性を感じない」(27.6%)という理由が目立っていた。
削減できた時間を仕事に充てる
次に生成AIが働き方にもたらした影響を紹介する。生成AI未利用時と比較して、生成AI利用時の所要時間は平均16.7%(26.4分/週)の削減に成功。用途別にみると「企画・相談・思考整理」や「文書・資料作成/編集」などで貢献している。
また、職種別では「IT・開発」「営業・販売」で削減幅が大きい一方、「事務職」「サービス」は相対的に小さかった。
用途別・職種別の利用格差に加え、生成AI利用の課題としてヘビーユーザーの負担の多さを指摘する。ヘビーユーザーほど、周囲の利用支援や使い方の指導に関する負担を感じており、さらには、過去1年間の生成AI利用によって「学習に充てる時間の総量」「人に教える頻度」も増えている。生成AI普及の負担が特定層に集中している現状を語った。
また、生成AIで削減できた時間のうち約6割は「仕事をする」ことに使われており、「睡眠・休養」「趣味・買い物・スポーツなどレジャー」といった私生活を充実させることに活用させるケースは少ない。
田村氏はここまでの結果を踏まえ、「生成AIを使用すると、タスクレベルでは効率化されている一方、労働時間の削減などにはつながっていません。その理由として、大きく3つあり、1つ目は活用の領域が狭すぎること。2つ目は普及のコストがかかっていること。3つ目は(空いている時間ができても)日常業務に吸収されることが挙げられます」と生成AI活用の現状や課題を考察した。
成熟度とタスクの削減時間の関係性
具体的に生成AIの活用方法を探っていく。田村氏は生成AIの利用率や頻度ではなく、成熟度(どう使いこなしていくか)に目を向ける必要があると強調。続けて、「文書作成・要約などの定型作業に使っている」「調べ物や情報整理に使っている」など、成熟度を測定するための10項目を紹介する。
この項目の成熟度を高めることが、「仕事のスピードが上がっている」「作業時間を短縮できている」といった“作業の効率性の高さ”と、「ミスや抜け漏れが減っている」「成果物の質が高まっている」といった“品質・創造性の高さ”に寄与するとした。
生成AI成熟度の高い群ほど、タスクの削減時間が長く、低い群の2倍以上になるという。また、浮いた時間の使い方として、「改良・再設計」や「探索」といった付加価値業務に充てられる比率が低成熟群の約1.5倍と高い。田村氏は成熟度の追求が、質の高い業務に注力できることを指摘した。
職場の4つのタイプとは?
生成AIの成熟度を高めるための方法論を解説する。まず個人の特性に着目し、「新しいことを見ると、とりあえず試してみたくなる」「うまくいかなくても、まずはやってみようと思う」といった“問いを楽しむ志向性”や、「新しいアイデアを思いつくと、人に話したくなる」「自分と違う意見を聞くと新しい発想が浮かぶ」といった“他者に共有する志向性”が高い人ほど成熟度が高い傾向が見られるという。
田村氏は「問いを楽しんだり、周囲にアウトプットを共有したりなど、それらが見られる人の成熟度はどんどん高くなりますね」と示す。
次に組織に目を向ける。成熟度の高い組織の特徴として、「独自性・創造性に富んだ意見・考えを持つことが求められる」「目先の成果よりも、長期的成果の追求を重視するところがある」ということが影響しており、さらに上司のマネジメントでは「新しいデジタルツールの利用可否の場面とルールを具体的に示している」「私達の中長期のキャリアについてアドバイスしてくれる」などが高い傾向にあると話す。田村氏は短期的ではなく中長期的な視点を持てるかどうかが、成熟度を大きく左右すると語った。
そして、生成AIの普及タイプとして、「まずやってみよう」が通る職場“仕組み化タイプ”、正解を探しながら走っている職場“手探り運用タイプ”、点では強いが線になっていない職場“現場任せタイプ”、間違えないことが最優先の職場“統制タイプ”の4つに分類した。
削減時間は“現場任せタイプ”で最大(52.2分/週)だったが、継続的に回す運用基盤は弱い可能性を指摘する。成熟度は“仕組み化タイプ”が最も高く、生成AIを活用するためのハードルが多いために“統制タイプ”は削減・成熟度ともに低水準にとどまった。
生成AIを普及させるための3つの提言
田村氏はまとめに入り、生成AIが普及している組織の特徴として、「1つ目は目の前の成果やリスクではなく広く・長い視点を持つ“発散”ができていること。短期的な利益や成果を追いかけず、中長期的な成果を重視すると同時に、多様な意見が出てくるような視点を持つことが大切です」と示唆した。
続けて、「2つ目は上位層が率先してテクノロジーを活用しているという“リーダーシップ”の要素。これはかなり重要で、役員や経営層がもっと使って、『こういう業務に使えばいいんだな』という勘所を掴んでほしいです」と語った。
そして、3つ目の特徴としては“仕組み化”を挙げる。「特定個人に負担が集中している職場は普及が難しいため、そういったところは軽減していかなければいけません」と説明した。
最後に、生成AI普及のために以下のような3つの提言を行った。
「1つ目は削減時間を価値創出に変えること。生成AIによって削減された時間を、改善や課題出しといったAIを活用できない探索業務に使っていくことで、より効率的になると考えています」
「2つ目はDX部門をはじめ、“試す人”と“広げる人”など、役割や位置づけを明確化して連携して取り組んでいく必要があります。現場任せになりやすい役員や経営者もいますが、AIの研修・訓練は全員に幅広くやっていく必要があります」
「3つ目は『試行と共有が回る組織インフラを整えましょう』ということです。TeamsやSlackで、『AIのもしもし相談』のようなインフラを整えるだけでも進んでいくと思います」と締めた。













