
Gorillaz(ゴリラズ)の9作目となるスタジオ・アルバム『The Mountain』の冒頭で最初に響く声は、デニス・ホッパーのものだ。軽やかに高揚するインド楽器の奔流を背景に、彼は静かに語りかける。注意深いリスナーなら、その声が2005年の傑作『Demon Days』制作時のアウトテイクであることに気づくだろう。
「”死”というテーマについて語るなら、死者たちに手伝ってもらう必要があると思ったんだ」とデーモン・アルバーンは語る。彼はイングランド南西部からのZoom通話で、長年のビジュアル面での協働者ジェイミー・ヒューレットの隣に座っている。「どういうわけか、彼らのほうが僕よりもそのことをよく知っている気がするんだ」
本作は、ふたりが大きな個人的喪失を経験した直後、そしてインドへの決定的な旅を経て制作された。その旅は、アニメーション・キャラクター――ドラムのラッセル・ホブス、ベースのマードック・ニカルス、ギターのヌードル、ヴォーカルの2D――に新たな着想をもたらした。
アーカイヴを掘り起こしていくなかで、トラックリストはやがて驚くべき”ポストヒューマス(没後)参加者”たちを含むものへと広がっていく。アフロビートの象徴トニー・アレン、ソウル界の巨匠ボビー・ウーマック、デ・ラ・ソウルのデイヴ・ジョリクール、ザ・フォールのマーク・E・スミスら、すでにこの世を去った面々が名を連ねる。一方で、92歳のアシャ・ボスレ、23歳のアルゼンチン人ラッパーTrueno、ザ・ルーツのBlack Thoughtといった現役のレジェンドや次世代アーティストも参加している。
最終的に『The Mountain』は、ここ10年以上で最も充実し、最も実質的なGorillaz作品となった。
「ある意味、『Plastic Beach』の次にくるアルバムなんだ」とアルバーンは言う。2010年作『Plastic Beach』は、ルー・リード、スヌープ・ドッグ、ザ・クラッシュのメンバーらを結集した名盤だ。「これはそれ自体がひとつの世界なんだよ」
今月後半、2月22日と23日にはハリウッド・パラディアムで特別公演を行い、『The Mountain』を全曲完全再現する。さらに数日後の2月26日には、没入型エキシビション「House of Kong」をロンドン公演の成功を受けてロサンゼルスへと持ち込む。(今秋にはアメリカでの追加公演も示唆している)
またアルバーンは、ルカ・グァダニーノ監督によるAI技術の台頭を描く新作コメディ・ドラマ映画『Artificial』のスコアと楽曲制作も手がけている。
「イーロン・マスクの下に音楽を敷くことになるんだ」と彼は言い、スター・ウォーズの”帝国のマーチ”を口ずさみながら笑った。
結成25周年を迎えたグループにとって多忙な一年になりそうだが、アルバーンとヒューレットは終始エネルギッシュだ。音楽、喪失、異文化コラボレーションなど、多岐にわたる話題について語り合った。
ーなぜこれほど統一感のあるアルバムになったのでしょうか?
アルバーン:一緒に過ごす時間を増やしたからだよ。『Plastic Beach』以降、ジェイミーは人生を大きく変えてフランスへ移住した。それは当時、僕らの関係にとってかなりの激変だった。でも最終的に、完全にお互いを再発見することができた。そしてインド行きが、その頂点だった。ジェイミーとデーモン、第二章。和解であり、誓いの更新だね。
ヒューレット:僕らは本当に似たページに立っていた。デーモンの父が亡くなり、10日後に僕の父も亡くなった。そこで「このレコードのテーマがはっきり見えてきた」と思ったんだ。
ーデーモン、インドに行くのは初めてだったんですよね?
アルバーン:そう。イギリス人としてあそこに行くのは興味深い体験だよ。植民地の歴史はさておき、僕のような人間は、東ロンドンのテラスハウスで育ち、隣にはインド系の家族が住んでいた。ヒンドゥーであれ、ムスリムであれ、シクであれ、インド文化は”イギリスであること”の一部なんだ。子どもの頃はビートルズよりラヴィ・シャンカルを聴いていたくらいさ。
ー喪失の最中にインドに滞在するのは、どんな体験でしたか?
ヒューレット:ヴァラナシを訪れたのは強烈だった。火葬の薪を目にしてね。デーモンはガンジス川で泳いだ。
アルバーン:あれは簡単には忘れられない。何千年にもわたる精神的営みや儀式、日の出と日の入りの中に一気に身を浸すことになる。身を委ねるしかない。何かが自分に染み込み、そして何かはずっと付きまとう。
ー亡くなった人たちの声を取り入れるというアイデアは、いつ生まれたのですか?
アルバーン:1999年、ジェイミーと僕がフラットをシェアしていた頃に書いた”最初のGorillazマニフェスト”には、ラッセルというキャラクターが死んだミュージシャンの声を呼び出せる、という設定があったんだ。
ヒューレット:素晴らしいアイデアだよね。実際に使うまで25年かかったけど。
ー最近、ロンドンで最初の3作をライブ再現しましたね。振り返るのは楽しかったですか?
アルバーン:僕は過去を振り返ることに喜びを感じないんだ。
ヒューレット:僕らは常に”次”に目を向けている。次に何が来るのか。それが刺激的なんだ。
アルバーン:人から「昔はすごかった」と言われ始めたら、人生のどこかが欠けているってことだよ。わかるだろう?
ヒューレット:うん。25年前の何かにすがって生きているなら、それは悲しいよね。
ーとはいえ、初期のGorillaz作品を演奏して、新たに気づいたことはありましたか?
アルバーン:歌詞がなかったんだよ! ファースト・アルバムの曲なんて、歌詞があってもただ奇妙なだけだった。でも今では、その”奇妙さ”すら意味を持ってしまう。それだけ世界が狂ってしまったということさ。「頭から死者が出てくるキャラクターがいて、レコードには意味がない」なんてね。
ヒューレット:今じゃ全然クレイジーじゃない。でも25年前は本当にクレイジーだった。
アルバーン:『Demon Days』のとき、僕は司祭の格好をしていたんだ。あれは楽しかったな。
ヒューレット:『エクソシスト』のメリン神父をイメージしてた。デーモンにはあれが似合うと思ったんだ。
アルバーン:本当に気に入ってたよ。正直、毎晩でもやりたいくらいだ。
カートゥーン・バンドの25年──ゴリラズはなぜ今も未来形なのか
ーカートゥーン・バンドといえば、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は観ましたか?
ヒューレット:これから観るつもり。長男に「絶対観てよ、パパ」と言われてる。彼は30歳だけど、アニメーションが好きなんだ。
アルバーン:あれは子どもがいないと観ちゃいけないんじゃないかと思ったよ。ひとりで観るのはちょっと……奇妙すぎる。
ーでも面白いですよね。かつては突飛だった”カートゥーン・バンド”という発想が、今や世界的な主流になっている。
アルバーン(乾いた笑い):あれや、あのABBAのホログラム・ショーを見れば、僕らのアイデアはほとんど全部、極端な形で商業化され尽くしたと言っていいね。
ヒューレット:とはいえ、僕らがアニメーション・バンドであることは、少しは助けになっていると思うよ。若い人たちが「何これ? アニメかっこいい」と興味を持ち、音楽を聴いて「うわ、最高じゃん」となる。そこから新しいオーディエンスが生まれる。
ーキャラクターはほとんど歳を取らないですよね。ヌードルは子どもから大人になったけれど、その後は”永遠”の存在のようにも見えます。
ヒューレット:次に何が起こるかはわからないよ。今、いくつか構想しているところなんだ。
アルバーン:キュビズム化させるべきだ。
ヒューレット:それは最高だね。すごい。
アルバーン:マードックが緑色の長方形になるんだ(笑)。
ーAIアートについてはどう考えていますか?
ヒューレット:個人的には、自分の作品には使わない。でもAIはツールだよ。フォトショップが登場したときと同じ。重要なのは、それをどう使うかだ。
アルバーン:僕は使い方を知らないから、その問題はない。
ヒューレット:上手く使っているアーティストもいる。でも、コマンドを打ち込んで画像を出力するだけで自分をアーティストだと思っている人も多い。それは少し行き過ぎだと思う。……人がアーティストの作品に恋をするのは、それが”その人の作品”だからだ。彼らのヴィジョンであり、物語だから。コンピュータは世界中の情報を収集しているだけ。ヴァン・ゴッホやデイヴィッド・ホックニーの絵を見て涙するのとは違う。
アルバーン:まだ”恋に落ちる”かどうかを判断するには早すぎると思うよ。毛沢東がフランス革命について問われて「判断するには早すぎる」と言ったようにね。
デーモン、携帯電話を持っていないというのは本当ですか?
アルバーン:本当だよ。簡単さ。ある日なくして、それきり買わなければいい。
ーストリーミングは? そうやって音楽を聴いたりは?
アルバーン:人生で一度もストリーミングしたことはない。
ー大きな視点で見ると、おふたりは長年にわたって異文化理解の重要性を語ってきました。今の世界は正しい方向に向かっていると思いますか?
ヒューレット:僕らは幸運にもたくさん旅をしてきた。世界を見て、他の文化を体験し、その恩恵を大いに受けてきた。人は他者の信念や文化を受け入れることで成長する……。正直に言えば、少し心配はしている。でも前向きでいようとしているよ。特にこの新作では、多くの文化が集まって美しいレコードを作るという経験そのものが大切だった。イギリス人の男ふたりとその仲間だけだったら、ここまで美しくはならなかっただろう。
ー異なる視点を結びつけることは、常にGorillazの核心でしたよね。
アルバーン:本質そのものだよ。BlurからGorillazへと世界をシフトさせたとき、それは大きなギアチェンジだった……でもそこがすべてだった。コミュニティが必要だったんだ。僕らはカートゥーンの背後に隠れているからこそ、リアルな人間同士の相互作用は、コラボレーターたちとの関係の中にしか生まれない。
ーこれだけ年月が経っても、Blurはヨーロッパで巨大公演ができる一方、Gorillazは依然としてアメリカでの知名度が高いですね。どう感じていますか?
アルバーン:2024年にBlurでコーチェラに出たとき、少しミスマッチだったかもしれないと感じたよ。あのフェスは、いまやソーシャルメディアの象徴みたいなものだろう?
ヒューレット:唯一、ステージではなく”スマホを持っている人”に向かってスマホが向けられているフェスだね。
ーBlurが再びアメリカで演奏する可能性は? 2015年のマディソン・スクエア・ガーデン公演以来ですね。
アルバーン:ああいう規模なら可能性はある。ただね、マディソン・スクエア・ガーデンで演奏すると――何度かやったけど――会場にはビリー・ジョエルの巨大なバナーが掲げられているんだ。
ービリー・ジョエル?
アルバーン:そう、ビリー・ジョエル。あれを見ると、「ああ、ここは彼の城だな」って思ってしまうんだよ。どんな達成感も、一瞬でちょっとだけ小さくなる(笑)。
Gorillaz(ゴリラズ)
『The Mountain』
Kong
配信中
https://gorillaz.ffm.to/themountain
=収録曲=
1. The Mountain (feat. Dennis Hopper, Ajay Prasanna, Anoushka Shankar, Amaan Ali Bangash and Ayaan Ali Bangash)
2. The Moon Cave (feat. Asha Puthli, Bobby Womack, Dave Jolicoeur, Jalen Ngonda and Black Thought)
3. The Happy Dictator (feat. Sparks)
4. The Hardest Thing (feat. Tony Allen)
5․ Orange County (feat. Bizarrap, Kara Jackson and Anoushka Shankar)
6. The God of Lying (feat. IDLES)
7. The Empty Dream Machine (feat. Black Thought, Johnny Marr and Anoushka Shankar)
8. The Manifesto (feat. Trueno and Proof)
9. The Plastic Guru (feat. Johnny Marr and Anoushka Shankar)
10. Delirium (feat. Mark E. Smith)
11. Damascus (feat. Omar Souleyman and Yasiin Bey)
12. The Shadowy Light (feat. Asha Bhosle, Gruff Rhys, Ajay Prasanna, Amaan Ali Bangash and Ayaan Ali Bangash)
13. Casablanca (feat. Paul Simonon and Johnny Marr)
14. The Sweet Prince (feat. Ajay Prasanna, Johnny Marr and Anoushka Shankar)
15. The Sad God (feat. Black Thought, Ajay Prasanna and Anoushka Shankar)
The Mountain Tour 2026:
チケット情報:https://gorillaz.com/
