
今回の配信では、「嫌なことや仕事の失敗を引きずってしまう」というお悩みに、茂木が脳科学的視点からアドバイスを送りました。
パーソナリティの茂木健一郎
<リスナーからの質問>
嫌なことがあったり、仕事で失敗したりしたときに、すぐに気持ちを切り替えて次に進める人がいますが、あのような人たちのようになるにはどうすれば良いのでしょうか。私は失敗を引きずってしまうタイプです。脳科学的に気持ちの切り替えを早くするコツがあれば教えてください。
<茂木の回答>
なるほどね。おそらく僕は「すぐに気持ちを切り替えて次に進める人」だと思われているのですが、実は心の中はそうでもないんですよ。失敗したら嫌ですし、嫌なことがあればその感情は残っています。
ただ、ここからが脳科学の深い話になりますが、「楽しいから笑う」ということもあれば、逆に「笑う表情をするから楽しくなる」ということも分かっているんです。
ですから、気持ちを切り替えたから次に進めるということもありますが、「とにかく次に進んでいる」という行動をとっているうちに、気持ちが切り替わっていくこともあるんですよ。
僕の場合は、何か嫌なことがあっても、とにかく次の行動に移ってしまいます。そうすると、気持ちが徐々に整っていく。気持ちが切り替わるのを待ってから行動するのではなく、切り替わっていなくても行動することで、次第に忘れていってしまうということなのです。
脳は体に非常に強く影響されます。これを「身体性」と言いますが、とにかく行動することが大事なんですね。
では、行動するためにどうすれば良いか。1つのテクニックは「場所を変えること」です。嫌なことがあったり、失敗してしまったりした場所から離れるのです。
脳の中には海馬という回路があります。この海馬は、記憶において最も大事な役割を果たしている場所で、「今どういう状況か」という情報を処理しています。失敗した場所と同じ状況にいると、海馬が「あ、まだそれが続いている」と判断してしまうのです。
ですから、僕の場合だと「ちょっとコンビニへ行ってくるわ」と言って外に出たりします。また、僕はカフェでカフェラテを飲みながら仕事をするのも好きなのですが、そうやって10分、20分でも気分転換をしてみると、一気に気分が変わってきます。
ただ、1つ重要なことがあります。そうは言っても、相談者さんは引きずってしまうかもしれません。そのときに「引きずっている自分を責めない」というのは、非常に重要なポイントです。
性格の「ビッグファイブ(5つの大きな要素)」のうちの1つに「神経症的傾向(ニューロティシズム)」というものがあり、いろいろとクヨクヨ考えてしまうタイプの方がいらっしゃいます。それは脳の回路の個性なんです。
もし、引きずって考えることが悪いことだけであれば、進化の過程でそのような性質は残っていなかったはずです。一部の人にその性質が残っているということは、何らかの意味があるんですよね。僕のようにすぐに切り替えてしまう人には見えないことが、相談者さんのような方には見えているかもしれません。
失敗を引きずってクヨクヨ考えることが、自分の長所になることもあります。「自分は、先に進んでいる人には見えないことが見えているかもしれない。もっと深く物事を考えられているのかもしれない」と捉えることもできるのではないでしょうか。
もし、引きずってしまう現状を少し変えてみたいと思っているのであれば、「気持ちを切り替えてから行動する」のではなく、「まず行動してしまって、気持ちが徐々に切り替わっていくのを待つ」。これをぜひ実行していただけたらなと思います。
----------------------------------------------------
音声版「茂木健一郎のポジティブ脳教室」
----------------------------------------------------
<番組情報>
番組名:茂木健一郎のポジティブ脳教室
配信日時:毎週土曜 22:30配信(予定)
パーソナリティ:茂木健一郎
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/dreamheart/